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第七十一話 魔獣キマイラ

 ダッダッダッ……

 中央に残った僅かな魔王軍とキマイラへ向かい、ロックとセリーナが駆ける。

 その背後から――

 ヒュン……ヒュン……

 ミーナと護衛の騎士たちが援護射撃を放っていた。

「くっ……!」

「迎え撃てーっ!!」

 ドドドドッ――

 魔王軍も魔法を放ち応戦する。

 無数の魔法弾がロックたちへ降り注ごうとした、その瞬間。

「みんな、危ない!」

 エリシアが前へ飛び出した。

 両手を突き出す。

 パァァァ……

 掌から巨大な光の壁が展開される。

 ドドドドッ――

 飛来した魔法は全て光の壁に阻まれ、そのまま消滅していった。

「おぉー、あっちは大丈夫そうだなぁ」

 ロックは走りながら後方の攻防をちらりと見る。

「余所見してる場合じゃないわよ!」

 セリーナが鋭く言い放つ。

「おう! セリーナちゃん、無理はするなよ」

「分かってる!」

 フッ――

 次の瞬間。

 セリーナの気配が消えた。

 まるで風に溶けるように姿を消し、そのまま魔王軍の中へ紛れ込む。

 シャッ――

 シャッ――

 背後へ回り込み、次々と斬撃を放つ。

「ぐっ……どこから攻撃されている!?」

「がぁっ……!」

「ガハッ……!」

 バタッ……

 バタッ……

 魔族たちは混乱の中で倒れていく。

 誰が斬ったのか。

 どこから来たのか。

 それすら分からない。

「やるなぁ……」

 ロックはニヤリと笑う。

「俺も!」

 ダッダッダッ――

 正面から一直線に突撃する。

 拳に魔力を集中させ、そのまま敵陣へ飛び込んだ。

「オラァッ!!」

 ドガッ!

 バキッ!

 拳が炸裂するたびに魔族が吹き飛ぶ。

「ぐわっ!」

「ごはっ!」

 バタバタと敵が倒れていく。

 奇襲のセリーナ。

 正面突破のロック。

 対照的な二人の猛攻によって――

 キマイラの前に陣取っていた魔族たちは、確実に数を減らしていった。


 キマイラが、前方から迫るロックとセリーナの気配を捉えた。

 ズンッ……

 ズンッ……

 巨大な足が前へ踏み出される。

 そのたびに地面が揺れた。

「近くで見ると……デケェな……」

 ロックが思わず呟く。

 肩までの高さだけでも人間の二倍以上。

 胴体は軍馬を三頭並べても足りないほど巨大だった。

 全身を覆う筋肉は岩盤のように隆起し、圧倒的な質量を感じさせる。

 山羊の首は高々と持ち上がり、周囲を見渡していた。

 角まで含めれば灯台のような高さがあり、その視界は広範囲に及ぶ。

 獅子の頭部は常に牙を剥き出しにしている。

 その牙は大剣のように大きく鋭い。

 さらに――

 尾の蛇。

 その長さは十メートルを超えていた。

 地を這うだけで土が抉れる。

 ブオンッ――

「ギャーッ!」

「グワーッ!」

 蛇尾が大きく振るわれた。

 周囲にいた魔族ごと薙ぎ払う。

 魔族たちの身体が宙を舞った。

「マ、マジかよ……」

 ロックの口から思わず声が漏れる。

 キマイラの前にいた魔族たちは、遥か彼方へ吹き飛ばされていた。

「あっ、セリーナちゃんは!?」

 スタッ。

 すぐ隣へ着地するセリーナ。

「無事よ。でも……」

 彼女もキマイラを見上げる。

「あれ、本当に倒せるの?」

 近づけば近づくほど、その巨大さが現実味を失わせる。

 まるで自然災害そのものだった。

「……作戦通りいこう」

 ロックは短く言う。

 そして、そのままキマイラへ向かって一直線に駆け出した。

 ダッ――!

 すると。

 山羊の頭がロックへ向けられる。

「グァァァ……」

 角へ魔力が集まり始めた。

 ファァァ……

 危険な光が収束していく。

 しかし――

 ヒュンッ!

 グサッ!

「ガァァッ!?」

 一本の矢が山羊の首元へ突き刺さった。

 ミーナの狙撃だった。

 ファァァ……

 集められていた魔力が霧散する。

 山羊は即座に視線を変えた。

 矢が飛んできた方向を睨みつける。

「……あ、当たったけど……」

 ミーナの顔が引きつる。

「こっち、狙われてる……?」

 後衛の位置は十分離れている。

 エリシア。

 ミーナ。

 護衛の騎士たち。

 キマイラとの距離は決して近くない。

 だが――

 ドッドッドッドッ!!

 キマイラが猛然と駆け出した。

 巨体からは想像もできない速度。

 一気に距離を詰めてくる。

「き、来たぁ〜っ!!」

 ミーナが悲鳴を上げる。

「みんな、撃って!」

 エリシアが叫ぶ。

 ドドドドッ――

 矢と魔法が雨のように放たれる。

 しかし。

「と、止まらない〜!!」

 攻撃を受けながらも、キマイラは止まらない。

 巨大な獣は真っ直ぐに後衛へ向かっていた。

 エリシアとミーナへ――

 圧倒的な質量と速度を伴って迫っていた。


 キマイラがロックを追い越し、後衛へ向かおうとした――その瞬間。

「待てよ……」

 ロックが片手を掲げる。

「――“神の雷”」

 バリッ!

 バリバリバリッ!!

 空気が裂けるような音が響く。

 次の瞬間――

 ドォォォンッ!!

 落雷がキマイラへ直撃した。

「グァァァァッ!!」

 巨大な身体が激しく揺れる。

 よろめくキマイラ。

 その隙を見逃さない。

 シャッ!

 シャッシャッシャッ――!

 背後から飛び出したセリーナが尾の蛇へ斬りかかった。

 鋭い斬撃が何度も走る。

 だが――

「……硬いわね……」

 確かな手応えがない。

 蛇の鱗は予想以上に頑丈だった。

「シャァァァッ!!」

 尾の蛇が怒りの声を上げる。

 長い身体が地面を滑るように前方へ流れ――

 ビュンッ!!

 今度は鞭のようにしなりながら、セリーナへ襲いかかった。

「セリーナちゃん!!」

 ロックが叫ぶ。

 ブオンッ――!

 蛇尾が地面を薙ぎ払う。

 ドガァッ!!

 土砂が吹き飛び、砂埃が巻き上がった。

「うわっ……!」

 視界が真っ白になる。

 後方にいたエリシアやミーナも目を開けられない。

 攻撃どころではなかった。

 だが――

 その混乱の中。

 ブンッ!

 ドガッ!!

「ガハッ……!」

 キマイラの前足がロックを捉えた。

 巨大な爪を備えた一撃。

 まるで岩石が激突したかのような衝撃だった。

 ザザザザッ――

 ゴロゴロゴロッ!

 ロックの身体が地面を転がる。

 何が起きたのか理解する前に、身体が吹き飛ばされていた。

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