表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
60/73

第六十話 神の判断と人の決意

 開戦した戦場で、勇者軍は何とか耐えていた。

 前へ押し込もうとはせず、その場にどっしりと構え、魔王軍の猛攻を凌いでいる。

「うぉぉぉぉ……!」

 ドドッ!

 ガンッ!

 ヒュン……

 ドンッ!

「みんな! 兵糧丸の効果が切れても、ギリギリまで耐えて!」

 エリシアが周囲へ呼びかける。

 ノエル特製の“兵糧丸”。

 一粒は小さく、効果時間も短い。

 だが、その分だけ複数個を携帯できる。

 一口で食べられるため、戦いながらでも補給が可能だった。

 しかし今は、できる限り温存する方針で勇者軍は動いていた。

 少し前――

 ジジジッ……

「みんな、聞くっす!」

 天界にいるセラから通信が入る。

「ロックせんぱいと連絡がつかなくなったっす。通信妨害があったっす」

「えっ……」

 エリシアが思わず声を上げた。

「途中までは姿を見てたんすけど、途中から電波が途切れて見えなくなったっす……」

「ロック……どこにいるか……分かる?」

 ノエルが静かに尋ねる。

「場所は多分分かるっす。妨害される場所が一箇所しかないっすから、多分そこにいるっす」

 天界から覗き込めない場所が一区画あった。

 実際には妨害ではない。

 周囲の映像を映し出すための魔力すら、“魔獄檻ガルディア”に吸収されてしまっていたのだ。

 つまり、通信に使われる魔力もガルディアに吸い取られていた。

「どうするの!?」

「せんぱいを残して撤退はできないっす。状況も分からないし、誰か見てくるっす」

「……私が……行く」

 ノエルが一歩前へ出る。

「私は……戦闘向きじゃ……ないから」

 自分の役割を理解した上での申し出だった。

「魔物がいるかもしれないけど、大丈夫なの? ノエルちゃん」

 エリシアが心配そうに尋ねる。

「大丈夫……戦闘向きじゃないけど……自分の身は……守れる……多分」

 最後だけ少し頼りなかったが、その意思は固かった。

「じゃ、ノエルが行くっす。みんなは無理せず、その場で何とか耐えるっすよ」

 ノエルは持っていた袋をエリシアへ差し出した。

「兵糧丸……全部……使って」

「ノエルちゃんのは!?」

「私のは……これ」

 そう言って服の内側を見せる。

 そこには大量の兵糧丸が詰め込まれていた。

(リスみたい……)

 エリシアは少しだけ不謹慎なことを思ってしまった。

 ――そして今。

「前に行かなくていい! 被害を最小限にして耐えて!」

 セリーナが前衛へ向かって叫ぶ。

 セラの指示に従い、前衛をその場に留める。

 攻めるのではなく、耐える。

 耐久戦への切り替えだった。

「おぉぉぉー……!」

 兵士たちは歯を食いしばりながら踏みとどまる。

 後衛では――

「い、一気に撃たないで……お、温存しながら……け、牽制して」

 ミーナが必死に指示を飛ばす。

 ヒュン……

 ドドッ!

 矢と魔法が最低限の数だけ放たれる。

 消耗を抑えながら、魔王軍の進撃を食い止めるために。

 軍全体が、まるでその場に巨大な壁を築いたかのようだった。

 誰も前へ出ない。

 誰も退かない。

 ただひたすらに耐え続ける。

 ロックが戻ってくる、その時まで。


 一方、魔王軍――

 ジジジッ……

「今、捕縛作戦が成功した。このまま次の作戦通り、ゲンに残りの勇者達を倒しに行かせる」

 天界のオードンから通信が入る。

「マルコが死んで、近接戦闘ができる者がゲンのみになったから仕方ないが……本当に一人で大丈夫なのか?」

 魔王アルベルトは遠くから戦況を見つめながら問いかけた。

 魔王イリヤは“魔導士”。

 魔王ベイルは“魔獣使い”。

 イリヤは対軍隊戦では圧倒的な力を発揮するが、勇者個人を相手取るには危険が伴う。

 ベイルも、扱う魔獣によっては近接戦闘が可能だ。

 だが、本人を直接狙われれば脆い。

 アルベルト自身もまた、近接戦闘向きの役職ではなかった。

(勇者を倒すには、ゲンが必要だ……)

「問題ない……」

 短く返ってくるオードンの言葉。

(問題ない……か)

 アルベルトは内心で眉をひそめる。

(神と人間の思考の差か……)

(神は、あくまで俺たちを“駒”としてしか見ていない……)

(信用できない)

「……そうか」

 そう返事するしかなかった。

「お前とイリヤは、このまま勇者軍に集中するんだ」

「……あぁ」

「これから俺はしばらくはあちらに集中する。通信もできないと思ってくれ……」

「……分かった」

 ジジジッ……

 プツンッ――

 通信が途切れる。

 アルベルトは静かに息を吐いた。

 ドドドッ……

 遠くで響く戦場の轟音。

 その動きを観察しながら、現状を整理する。

 だが――

「動きが……止まったか?」

 勇者軍の進軍速度が目に見えて落ちていた。

 いや、違う。

 止まったのだ。

(ゲンの話だと、“不死身の勇者”以外の勇者も厄介らしい……)

 アルベルトは腕を組む。

 勇者軍は押し込んでこない。

 だが、崩れもしない。

 まるで巨大な壁がそこに現れたかのように、戦線を維持していた。

「……イリヤを呼べ」

 近くにいた魔族へ指示を出す。

「はっ!」

 魔族はすぐさま駆け出していった。

(オードンのやつは、ゲン一人で大丈夫だと言っていたが……)

 アルベルトは再び戦場へ目を向ける。

 勇者軍を攻め立てるべきか。

 それとも――

 別の手を打つべきか。

 魔王アルベルトは、静かに次の一手を考え始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ