第五十三話 快進撃?
その後の戦場でも、ゲン率いる魔王軍との戦いは続いていた。
一進一退の攻防を繰り広げながらも、少しずつ勇者軍が領土を奪い返していく。
連戦連勝――。
その勢いに、勇者軍の兵士たちの士気は大きく高まっていた。
「長年、魔王軍に占拠されていたこの地も……」 「あぁ……やっと取り戻せたんだ……」 「これも……勇者様たちのおかげだ……」
――もっとも。
その領土を奪われる原因を作った張本人が、かつてのロックだったことを、この場の誰も知らない。
領土が広がれば、王都と戦場の距離も広がる。
兵の補充や物資の輸送は、どうしても遅れてしまう。
だが、今の勇者軍には――勇者たちがいた。
「怪我人はこちらへ」
エリシアが胸元で両手をぎゅっと握りしめる。
パァァァ……
柔らかな光が溢れ出し、怪我人たちを包み込んでいった。
天幕の中は、まるで癒しの聖域のようだった。
「はぁ~……やっぱりエリシアちゃんの癒しは最高だな……」
一名、無傷の男が混ざっていたが、誰もツッコまなかった。
その頃――周囲の森では。
セリーナとミーナが、兵士たちと共に食料と素材の確保を行っていた。
ここは元々、人間領。
そのため森に生息する生物も、王都周辺で見かけるものと大差なかった。
スゥ……
セリーナが音もなく鹿のような獲物へ接近する。
そして――
スパッ
一閃。
鮮やかに仕留めた。
「次……行くわよ」
そのまま再び森へと姿を消していく。
一方、ミーナは遠く離れた猪のような獲物へ狙いを定めていた。
呼吸。
足運び。
次の動き。
全てを読み切り――
ヒュン……
グサッ
一撃。
「や、やった……」
ミーナは、倒した獲物を丁寧に処理していく。
「おぉ~、二人とも凄いなぁ……」
ロックは二人が狩った獲物を運び、駐屯地へ戻っていた。
そのまま炊事場へと持ち込む。
兵士たちが手際よく肉を捌き、新鮮な食材がノエルの元へ運ばれていく。
ノエルは無言のまま調理を続けていた。
ジュー……
パッパッパッ……
ジュー……
「ロック……味見」
「オッケー」
ロックは焼き上がった肉をひょいっと摘まみ――
パクッ。
モグモグモグ……
「美味いっ!」
大量の食事を作るノエルは、味見だけで満腹になりかけていた。
そのため、つまみ食いに来たロックを捕まえては、味見役にしていた。
その頃――魔王領。
「ゲン。元神とかいう勇者はどうなんだよ」
魔王ベイルは、ゲンの元を訪れていた。
オードンの作戦。
ゲンがロックを“魔獄檻ガルディア”の元へ誘導し、そのガルディアを操るのがベイルの役目だった。
しかし、ベイルは召喚場所から大きく離れることができない。
そのため、暇を持て余していた。
「不死身の男か……何をするか分からない、不気味な感じだな……」
ゲンは刀の手入れをしながら静かに答える。
「魔法を使うのも厄介だが……身体が硬い。誘導するにしても、無傷のままでは厳しいな……」
「……アンタがそこまで言うのか」
純粋な戦闘力では、魔王マルコの方が上だった。
だが、経験豊富で冷静な判断力を持つゲンは、魔王たちの中でも一目置かれる存在だった。
「お前の方はどうなんだ? 手懐けられたのか?」
「檻を閉じるだけで手一杯だよ……どんだけ燃費が悪いんだよ、まったく」
作戦の鍵となる召喚獣――“魔獄檻ガルディア”。
極端なカスタマイズによって知能をほぼ失っており、魔獣使いであるベイルですら扱いに苦戦していた。
単純な命令一つ出すだけでも、大量の魔力を消費する。
「じゃ、俺は行くわ……お互い、上手くやろうぜ」
ベイルは飛竜へ跨がる。
そして――
バサッ!
大きく翼を広げ、空へと飛び立っていった。
(不死身の男……あいつだけではない。他の勇者も手練れだろう……)
ゲンは、ロックと対峙して足止めしていた間の戦況を思い返していた。
その間も、魔王軍は勇者軍に押され続けていたのだ。
(勝利しているとはいえ……異常なまでの士気の高さだ)
連戦が続けば、普通は疲労が蓄積する。
兵士が倒れれば、その分だけ軍は縮小していく。
だが、勇者軍にはそれが見えなかった。
(倒した兵も少なくない……それなのに、一向に減らない)
その理由は――
エリシアとセリーナによる後方支援。
そして――
(軍全体が強化されている。あれほどの人数を……同時に?)
ノエルとミーナ。
二人の力が、勇者軍全体の底上げを行っていた。
回復、士気向上、装備強化、食事による支援。
それら全てが噛み合い、勇者軍は勢いを増していた。
「ふぅ……そろそろ命を張る時かなぁ……」
ゲンは重い腰を上げる。
そして、静かに部屋を出ていった。
再び――戦場へ。
かつて魔王領だった土地は、次々と勇者軍に侵攻されていく。
その割合は、ついに――
五十対五十。
勇者軍と魔王軍の領土数が、完全に並んでいた。
ロックが召喚された当初は、三十対七十。
そこから――
二十もの領土を奪い返していた。




