第五十一話 再び戦場へ
三日後――。
ロックは、ココの元を訪れていた。
カスタムを終えたであろうボディを受け取るために。
カン、カン……
キィィィン……
カチャ、カチャ……
工房には、いつもの金属音が響いている。
・・・
・・・
・・・
「ふぅ……」
「どうだ? ココ」
「流石は父さんの作ったボディだよ……」
ココは、作業台に横たわるロックのボディを見ながら感嘆の声を漏らす。
「普通、神様用のボディって、カスタムなんて想定して作らないんだ。でも、これは本当に良くできてる」
コンコンッ。
ココはボディを軽く叩いた。
「カスタム出来るように細工すると、構造が複雑になり過ぎて、逆に高額になる可能性があるんだよ」
そう言いながら、工具を手に取る。
「だったら最初から、強度を上げたボディにした方がいいからね」
ロックのボディは、外見に予算を使い過ぎていた。
耐久性に割けるコストは少なかった。
だが、ココの父――リベットは違った。
ロックの無茶な要求に応えながらも、自身の作品としての質を落とさない方法を選んでいた。
それが――“カスタマイズ可能”なボディ。
限られた予算内で、その設計を完成させていたのだ。
「このシンプルな作り……それに拡張性……」
ココは目を輝かせながら言う。
「カスタムすればするほど、その凄さが分かるよ」
まるで、父から与えられた特別なおもちゃを触る子どものようだった。
「もう少しで出来るから、待ってて」
「分かったよ」
ココは再び作業へ戻る。
ロックは椅子へ腰を下ろした。
カランコロン……
その時、店の扉が開く。
「ココ、来たよ」
「……ロックもいた」
やって来たのは、エリシアとノエルだった。
「もう少しだから、待ってて〜」
ココは視線をボディから離さないまま声をかける。
カスタム中のロックのボディは、静かに横たわっていた。
まるで眠っているようだった。
だが――
どこか、その表情には生気が宿っているようにも見える。
期待に満ちた顔。
今にも目を覚ましそうな雰囲気。
まるで、
魂が戻ってくる瞬間を、ずっと待ちわびているかのようだった。
カン、カン……
キィィィン……
カチャ、カチャ……
キュッキュッキュッ……
「……ふぅ。終わったよ、ロック」
ココは額の汗を拭いながら、完成したボディを見つめる。
カスタムを終えたその身体は、以前よりも関節周りが強化され、全体的に少し逞しくなっていた。
丁寧に磨き上げられた顔。
黙って立っていれば、誰もが見惚れるほどの美青年。
「さぁ、早く入って入って」
ココは嬉しそうに、ボディをポンポンと叩く。
「おぅ、じゃあ入るか」
ロックは目を閉じ、意識をカスタムされたボディへと移した。
ファァァ……
ロックの身体から光が溢れ出し、横たわるボディへと流れ込んでいく。
カラカラカラッ……
魂を失った元のボディは、その場へ崩れ落ちた。
代わりに、新たなボディがゆっくりと動き出す。
グーパー、グーパー……
指を動かし、感覚を確かめる。
そして、静かに立ち上がった。
「……身体が軽い」
以前よりも、身体と魂の一体感が強くなっている。
まるで、自分自身そのものになったような感覚だった。
(第二段階のカスタムでこれだけ変わるのか……)
ロックの口元が吊り上がる。
(また魔王を殺せば……更にカスタムを……)
「フフ……フハハ……」
「ロックさん……?」
その不気味な笑い声に、エリシアは不安そうな顔をする。
「よし、戦場に戻ろうぜ。エリシアちゃん、ノエルちゃん」
「え、ええ……」
「ん……」
二人が頷く中、ロックは足元へ視線を向けた。
そこには、先程まで自分が入っていたボディが横たわっている。
「そうだ! 今なら出来るかもしれないな……」
ロックはボディへ手を当て、魔力を流し込む。
淡い光が、ボディを包み込んだ。
「――“収納”」
パッ。
その瞬間、ボディは跡形もなく消え去った。
ロックは、神の力を少しずつ高めながら、ボディの耐久性を確かめていた。
ギシギシッ……
「おっと……限界か……」
ロックは、すぐに力を解除する。
「……ロックさん、さっきのボディは?」
状況が理解できていないエリシアが、不思議そうに尋ねる。
「俺の作った空間に収納したんだ」
ロックは軽く肩を回しながら答えた。
「まだ一体分しか無理だったけどね」
「ロック……死に放題だね」
「死に放題じゃないよ……ノエルちゃん」
ロックは苦笑しながら、コートを羽織る。
その時――
ジジジッ……
天界から通信が入った。
「せんぱい、カスタムしたボディはどうっすか?」
「セラ。あぁ、調子はいいな」
ロックは腕をぐるりと回して見せる。
「それは良かったっすね」
セラは明るい声で続けた。
「私からも朗報があるっす」
「朗報?」
「領土がまた増えたっすよ! しかも二つも」
「何っ!?」
ロックが目を見開く。
「じゃあ、セリーナちゃんとミーナちゃんが……?」
「二人の活躍があったからっすね」
セリーナとミーナもまた、勇者としての役割を果たしていた。
「せんぱいの借金も減ったっす。領土二つで二百万減って、残り四千四百万セインっす」
「はぁ~……」
ロックは大きくため息を吐く。
「残りの額を聞くと絶望するぜ〜」
「絶望する額の借金したのは誰っすか? まったく……」
呆れたようなセラの声。
エリシアとノエルも、同じように呆れた視線をロックへ向けていた。
「さぁ、さっさと戦場へ戻るっす」
セラの声が響く。
「もっと領土を取り戻して、借金を返済するっす」
こうして――
ロックたち三人は、再び戦場へと向かうのだった。




