第五十話 魔王の作戦
――魔王領――
「集まったな……」
魔王アルベルトが、三人の姿を見渡していた。
椅子に腰掛け、静かに刀の手入れをする魔王ゲン。
机に化粧道具を広げ、鏡を見ながら化粧をしている魔王イリヤ。
そして――
ソファに寝転び、鼻歌を歌っている魔王ベイル。
「マルコが死んだ……」
アルベルトのその言葉で、三人の動きが止まった。
突然の報告に、空間が静まり返る。
その沈黙に耐えきれなくなった男が、口を開いた。
「はぁ!? あんだけお膳立てしてやったのに……?」
ドガッ!!
ベイルは立ち上がり、ソファを蹴り飛ばす。
レッドドラゴンによる奇襲。
あれほどの準備が、無駄に終わったことに苛立っていた。
「あの男が死ぬとは……」
チンッ――
ゲンは刀を鞘へと納める。
「アイツは油断しすぎなのよ……」
イリヤは呆れたように呟いた。
その時――
ジジジッ……
天界から通信が入る。
「みんな揃っているな。呼び出したのはマルコの件だが……」
オードンが、魔王四人へ通信を繋いでいた。
「……死んだんだろ? あの脳筋野郎……どんな策にやられたんだよ」
ドカッ
ベイルは再びソファに座り直す。
「一人の勇者と召喚獣にやられたんだ」
オードンは淡々と状況を説明する。
「召喚獣がいたんじゃ、マルコといえど勝つのは難しい。だから俺が魔力供給して、“限界突破”させて戦わせていたんだが……な」
(アイツの限界突破でも……?)
魔王四人が、同じことを思った。
それほどまでに、マルコの“限界突破”は、魔王軍の中でも異質な力だった。
「どんな召喚獣なら、アイツの“限界突破”を倒せるんだよ?」
「厳密には、“限界突破”を解除され、その瞬間に殺られた」
「……勇者側に、殺す決断が出来る者がいたとは」
勇者・魔王として召喚される人間は、現世の性格を持ったままである。
相手が人間や魔族であっても、殺傷することに抵抗感を持つ者は多い。
まして召喚者となれば、中身は同じ現世の人間だ。
トドメを刺せず、逆に返り討ちに遭う者も少なくなかった。
しかし――
今、魔王として召喚されているのは、オードンが選んだ魂。
現世の情報を元に、“魔王に相応しい人格”を選別していた。
「俺たちと同じ……現世で殺しをやってる奴の魂を使ってるのか? 勇者側は……」
オードンが魔王に選んでいるのは、前科者ばかりだった。
「俺も信じられなかったが……勇者の一人は“元神”だった」
「……は?」
「ちょっと……反則じゃないの?」
「神だと……」
「へぇ……」
四人は驚きを隠せなかった。
神により召喚され、力を与えられた者たち。
その“神”という存在の大きさは、召喚者たちにとって計り知れない。
今こうして通信している神――オードンのことですら、彼らは全てを知っているわけではなかった。
「神にとって、お前たち召喚者は“駒”に等しい。殺すことに躊躇いはないだろうな」
その言葉に、四人の目が鋭くなる。
「“駒”か……」
アルベルトが、その言葉に反応する。
「まぁ、神がクソ野郎なのは知っていたがよ……そんなやつ……殺せるのかよ?」
ベイルはソファに寝転がりながら聞いた。
「殺せない……アイツは【不死者】だ」
「なっ!?」
殺せない神の存在。
その事実に、魔王四人は言葉を失っていた。
「打つ手ナシってか……クソゲーだな」
ベイルは、ゲームに飽きた子どものようにやる気を失っていた。
その空気が伝染したかのように、他の魔王たちからもため息が漏れる。
だが――
オードンは淡々と話を続けた。
「殺せないなら……捕らえて封印するまでだ」
「そんな事、出来んのかよ!」
「ベイル、お前がカギだ」
その瞬間、空間に映像が浮かび上がる。
そこに映っていたのは――
胴体が巨大な黒鉄の檻。
人型のように脚があり、重々しい音を立てながら移動する異形。
ガシャン……ガシャン……
檻の上部。
顔の位置には、赤黒い“目”が埋め込まれていた。
その視線は、まるで獲物を狙うハンターのようだった。
「この召喚獣――“魔獄檻ガルディア”を使う」
オードンが静かに告げる。
「だが、このままだと捕まえても逃げられる。だから、カスタムする」
空間に、カスタム後のステータスが映し出された。
「なんだ、こりゃ?」
ベイルが眉をひそめる。
表示されていたのは――
強度MAX。
しかし、
知能、機動性、攻撃力はほぼ0。
「使えんのかよ、こんなやつ……」
魔獣を扱うベイルだからこそ分かる。
これは、極端すぎるステータスだった。
「ベイル、お前が檻を開ける指示を出せ。勇者を誘き寄せるまでな」
「つまんねー仕事だな……分かったよ」
ベイルは渋々承諾する。
「誘導はゲンに頼む。お前なら上手くやれるだろう」
「……分かった」
ゲンは刀を手に取り、静かに立ち上がった。
「召喚には少し時間がかかる。配置場所の選定もあるから、追って連絡をする」
オードンの声が低く響く。
「それまでは、勇者軍を消耗させながら、適当に撤退し温存せよ」
ジジジッ……プツンッ
オードンからの通信が途切れた。
――魔王軍の作戦が、今、静かに動き出す。




