第四十八話 勇者勢揃い
三人は、エリシアに案内されて天幕の中へ入っていた。
先ほどまで悲鳴を上げていたエリシアも、今はどうにか落ち着きを取り戻している。
「はぁ~……そりゃ、ロックさんの身体が作り物って知ってたけど〜……」
エリシアは袋の中をチラリと見る。
しかし、すぐに視線を逸らした。
そこへ――
バサッ
「エリシア……ご飯……」
天幕へ入ってきたのは、ノエルだった。
「ノエルちゃん!」
ロックの声に、ノエルが視線を向ける。
宝玉の台座の上に、ロックの頭部だけが置かれていた。
「…………ん」
ノエルは室内の様子を見て、何かを察したように小さく頷く。
「みんなの分……持ってくる」
それだけ言い残し、再び天幕を出て行った。
「あなたも、あの娘も……勇者なのよね?」
セリーナが、エリシアとノエルの背中を交互に見る。
「じゃ、じゃあ……ここに勇者が五人も……」
ミーナは目を輝かせていた。
しばらくして――
バサッ
ノエルが人数分の料理を抱えて戻ってくる。
「……みんな……食べる」
「ノエルちゃん! 俺も食べたい」
「……ん」
ノエルは無言でロックの頭部を鷲掴みにした。
「痛い痛い痛いっ……!」
そのまま、テーブルの中央へ置く。
ドンッ。
「ロック……食べる……」
ノエルはスプーンで料理をすくい、ロックの口元へ運ぶ。
「あ〜ん……」
モグモグモグ……
「美味い」
ノエルは再びスプーンをすくう。
「あ〜ん……」
モグモグモグ……
・・・
・・・
・・・
エリシア、セリーナ、ミーナの三人は――
何とも言えない空気の中、静かに食事を続けていた。
こうして――
勇者五人が、初めて同じテーブルを囲んで食事をするという、貴重な瞬間が訪れた。
ただし。
一名は頭部のみだった。
食事を終えた五人は、これまでの状況を共有するため、天幕の中で話をしていた。
「領土を一つ取れたんだね」
そう言ったのはエリシアだった。
「あなたたちも、領土を三つ同時に取ったみたいじゃない」
「す、凄いです」
セリーナとミーナが続けて言う。
「ロック……魔王……倒した?」
ノエルがロックに視線を向ける。
「そうだよ。凄いでしょ?」
ロックはドヤ顔だった。
「MVSはゴーレムだったけどね」
セリーナが即座に暴露する。
「ちょっ、お前それ言う必要あった!?」
天幕の中は、戦場とは思えないほど盛り上がっていた。
しかし――
「魔王も……人間なんだよね?」
エリシアが少し俯きながら問いかける。
「そうだよ」
ロックはあっさり答えた。
「やっぱり、アンタは神なんだな……」
セリーナは複雑そうな表情を浮かべる。
「で、でも……あの魔王は……遠くから見ても凄かった……」
ミーナは、戦場で見た魔王マルコの姿を思い出していた。
あの圧倒的な暴力。
あの狂気じみた迫力。
離れた場所から見ているだけでも、恐怖を感じるほどだった。
「躊躇ったら、俺たちがやられる。俺は不死者だから死なないけど、みんなは違う。それに……」
ロックは、今後の戦いを思い浮かべる。
(“限界突破”をした奴が魔王にいた……)
(みんなが遭遇したら危険だ。だから……)
「あいつはイカれていた……殺せないなら逃げるべきだ」
ロックは、ここにいる四人を守りたかった。
しかし、戦場では何が起こるか分からない。
だからこそ、逃げる選択肢を持ってほしかった。
だが――
「……私はやるよ。やれることがある限り」
エリシアは真っ直ぐロックを見る。
「私も……」
ノエルも短く答える。
その言葉には、確かな決意が宿っていた。
駐屯地とはいえ、二人は過酷な戦場を経験してきた。
その中で、勇者としての自覚が芽生えていた。
「二人とも……なんか変わったな……」
ロックは感じていた。
彼女たちは、もう“守られるだけ”の存在ではなくなっている、と。
「ロックさんほどは変わってないよ……」
エリシアは、頭部だけになったロックを見ながら言った。
ジジジッ――
天界からの通信時に起きるノイズが、辺りに響いた。
「みんな、いるっすね〜」
「どうした?」
セラの声に、ロックが反応する。
「このあとの話っすよ。ロックせんぱいは修理とカスタムをしに街に行くっすけど、そこにはエリシアちゃんとノエルが付いていくっす」
「わ、私……? でも……」
突然名前を呼ばれ、エリシアは驚く。
しかし、その視線は天幕の外へ向いていた。
駐屯地には、まだ怪我人が多く残っている。
その様子が気になっていた。
「お店に……戻れる?」
ノエルは、自分の定食屋のことが気になっているようだった。
「二人は後方支援とはいえ、戦場に長くいたっすから、少し休息っす。せんぱいのボディが直ったら、また戦場に戻るっす」
勇者とはいえ、元は普通の人間。
異世界での生活には慣れてきたとしても、戦争を知らなかった人間にとって、戦場での日々は“心の負担”が大きかった。
「その代わり、セリーナ嬢とミーナっちには、この駐屯地に残ってもらうっす」
「えっ? 私たちが……?」
「の、残る……の?」
セリーナとミーナが顔を見合わせる。
「二人にも、後方支援で役に立ってもらうっすよ。前線に行くだけが戦争じゃないっすからね〜」
・・・
・・・
・・・
セラの采配通りに動くこととなり、それぞれ準備を進めた。
エリシアとノエルは、駐屯地の役割をセリーナとミーナへ引き継ぎ、駐屯地を後にしようとしていた。
「エリシア様! ノエル様! また戻ってきてください!」
「ここには、あなた方の力が必要です!」
「我々も、新たな勇者様と共に前に進んでいきます!」
騎士や兵士たちが、次々と声をかける。
その声に、エリシアは手を振って応えた。
「必ず、また来るね」
ノエルも、小さな声で呟く。
「もっと……食わせる……」
駐屯地の騎士や兵士たちに見送られながら――
ロック、エリシア、ノエルの三人は街へと向かった。
なお、ロックは袋に入れられ、エリシアが運んでいた。
別れのシーンで、目立つことなく時が過ぎ去っていた。




