第四十七話 衝撃の再会
――天界。
プルルルルルルッ……
セラの携帯通信機が鳴り響く。
表示名は――“パパ”。
プルルルル……
ピッ。
「もしもし。パパ、どうしたっすか?」
……
「それ、いいんすか?」
……
「ま、それもそうっすね……分かったっす」
……
「あはは〜、大丈夫っすよ〜。今度家に帰るっす。またね、パパ」
ピッ。
通話を切り、セラはふぅ……と息を吐いた。
「相変わらず心配性っすね〜……ま、私の心配をしてるフリしてたっすけど……」
セラは苦笑する。
「今は、あっちの方が心配ってところっすよね〜」
そう呟きながら、下界を覗き込む。
すると――
『あいつも召喚者扱いかよーっ!!』
MVS発表に納得がいかないロックの叫び声が、天界にいるセラにまで聞こえてきた。
「なにやってんすか……ったく」
ジジジッ……
セラは下界との通信を開始する。
「せんぱい、聞こえてるっすか?」
「セラか! こいつ、何とかしろよ!」
「分かったっす。ちょっと調整するっす」
セラは宝玉システムへアクセスする。
「宝玉さん、MVSのゴーレムは死んじゃったので、次点のロックせんぱいでいいっすか?」
宝玉が淡く光り出した。
『彼は活躍と同じくらい瀕死の重傷になっています。プラマイゼロで今回の最下位です』
「てめぇ、何言ってやがる! 俺がいなきゃ勝てなかっただろうが! 最下位なわけあるか!」
ロックは頭部だけの状態で、宝玉を噛み砕こうとしていた。
「せんぱい、やめるっす。天界の物質は下界じゃ壊せないっすよ」
セラはギャーギャー騒ぐロックを宥める。
「宝玉さん。今回のゴーレムは神の召喚じゃなくて、ロックせんぱいの使い魔的なものっす。だからMVSは、せんぱいにしてくださいっす」
しばしの沈黙。
そして――
『……分かりました』
宝玉の光が静かに収まった。
どうやら調整が完了したらしい。
「宝玉って……人格があるの?」
セリーナが不思議そうに尋ねる。
「いや、ないよ。AI知能で管理してるだけ。だから今回みたいなバグ判定もあるんだよな」
「なんか……天界も現世と変わらないわね……」
「か、神様もAIを使うんですね……」
セリーナとミーナは、天界システムの妙な現実感に触れ――
抱いていた神秘的なイメージを、少しずつ失っていくのだった。
宝玉が淡く光り出す。
そして――
その光は、ロックの頭部へと吸い込まれていった。
ファァァ……
次の瞬間。
三人がいた天幕が、光と共に消え始める。
「……えっ?」
「あ、あれ……?」
サァーッ……
遮るもののない平野の風が、三人の身体を通り抜けていく。
「ここは魔王軍の駐屯地だからね。宝玉を取ると消えて、勇者軍用の駐屯地が現れるのさ」
袋の中から、ロックが説明する。
「領土一つにつき、駐屯地は一つ。勇者側の領土なら人間領側、魔王側の領土なら魔王領側に出現する仕組みなんだよ」
セリーナとミーナは、消えていく天幕の跡地を見回していた。
「手前側に、新しい駐屯地が出来てるはずだよ。セリーナちゃん、ミーナちゃん、戻ろう」
頭部だけになりながらも、ロックは次の行動を決めていく。
「そうね……こんな頭だけの男を持ったまま、先には進めないわ」
セリーナは呆れたように肩を竦める。
「こ、工房に戻りましょう……」
ミーナも小さく頷いた。
ロックの身体パーツを預けられた兵士も、既に先行している。
その時――
「あー、せんぱい。大事なこと伝え忘れてたっす」
セラが通信越しに声をかけてくる。
「領土奪還の報酬で、借金が百万セイン減ったっす。残り四千六百万セインっすね」
「額がデカ過ぎて、減った実感ねーな……」
ロックの金銭感覚は、元からかなり狂っていた。
さらに、セラは続ける。
「今回はそれだけじゃないっす。魔王討伐も達成したっすから、特別報酬として――」
一拍置いて。
「ボディ修復費と、カスタム一ランクアップ費用も、パパが出してくれるっす」
「な、何だとぉぉっ!?!」
袋の中から歓喜の叫びが響く。
「いいデータが取れたって言ってたっすよ〜」
セラの父――社長もまた、オードンと同じくロックの復帰を望んでいた。
ただし、その想いは少し違う。
オードンが“今すぐ戻したい”と思っているのに対し――
社長は、“今はまだ戻すべきではない”と考えていた。
昔のロックを取り戻すため。
そのために、あえて過酷な環境へ放り込み続ける。
それが、社長なりの荒療治だった。
三人は、奪還した領土から街へと戻る途中――
ある駐屯地へ立ち寄っていた。
そこは戦場近くとは思えないほど、活気に溢れている。
「……ここ、本当に前線近くなのよね?」
「こ、これから戦いがあるのに……なんか楽しそうです……」
セリーナとミーナは、不思議そうに周囲を見回していた。
すると――
ふわりと、食欲を刺激する香りが漂ってくる。
「クンクンッ……これは……」
袋の中から、ロックが反応する。
「ノエルちゃんの料理か?」
その時、外の騒がしさに気付いた人物が、天幕の中から姿を現した。
バサッ――
「あら? 誰かしら?」
現れたのは、エリシアだった。
「あっ! エリシアちゃん!」
ロックが嬉しそうに声を上げる。
「その声……ロックさん……?」
エリシアは周囲を見渡す。
しかし、ロックの姿が見当たらない。
「ここだよ!」
「……?」
エリシアは首を傾げる。
「これ……」
セリーナが、持っていた袋を見せる。
エリシアは恐る恐る袋の中を覗き込んだ。
そこに入っていたのは――
ロックの頭部。
「ギャ〜〜〜〜ッ!!」
駐屯地に、エリシアの悲鳴が響き渡った。
・・・
・・・
・・・
その頃――
ロックとマルコが死闘を繰り広げた戦場跡。
そこに、一人の男が立っていた。
男は無言で、地面に散らばる何かを拾い集めている。
カチャ……
ギュッ……
袋へと詰め込まれていく“それ”。
やがて、男はふぅ……と息を吐いた。
そして、袋を肩に担ぐ。
ゆっくりと。
静かに。
魔王領の方へ向かって歩き出していった。




