第四十六話 MVSは誰の手に?
――天界。
コツッ……コツッ……コツッ……
静かな廊下を歩くオードン。
(そろそろ、“神の雷”が落ちた頃だな……)
一定のリズムで靴音が響く。
コツッ……コツッ……コツッ……
(ロックを消せないなら……せめてゴーレムは消させてもらう)
オードンは冷静に考えていた。
(旧式のくせに、あの火力……アイツの目の付け所は侮れないな……)
コツッ……コツッ……コツッ……
そのままオードンは、作戦室の奥へと姿を消していった。
その頃――
セラは、下界の映像を見ながら頭を抱えていた。
「くぅ〜っ!やられたっす!“ゴーレムで魔王軍掃討作戦”が〜っ!」
その場でぴょんぴょん飛び跳ねながら悔しがる。
その後、セラは机に積まれていたカタログをパラパラとめくり始めた。
「……おっ、これがロックせんぱいが召喚したゴーレムっすね」
召喚履歴と照らし合わせながら、ゴーレムの仕様を確認していく。
だが――
「なっ……なんすか、この金額……」
セラの表情が引きつった。
パラパラ……
「このタイプのゴーレム……しかも旧式……高くても三十万セインっすよね……?」
カタログには、しっかりと価格が記載されていた。
【旧式ゴーレム 三十万セイン】
さらに、新型ゴーレムのページまである。
「新型でも百万……」
セラは再び召喚履歴のページへ戻る。
「三百万セイン……? 何で桁が違うんすか……?」
嫌な予感を覚えながら、詳細項目を確認する。
そして――
目を疑った。
【カスタム料 二百七十万セイン】
内容。
知能・機動性能を最低限まで削減。
その代わり、火力へ極振り。
さらに追加オプション。
【巨大化パーツ】
「旧車好きのオッサンかよっ!!」
セラが思わず叫ぶ。
「新型ゴーレム三体買った方が、絶対強いっすよねぇぇぇーっ!!」
その絶叫が、部屋いっぱいに響き渡った。
黒い鉄屑となったゴーレム。
今回の戦いが、あのゴーレムによって勝利へ導かれたことを、勇者軍の誰もが理解していた。
だからこそ――その喪失は重かった。
ただ一人を除いて。
「あいつはクソ真面目だからな……バランスが崩れそうだと思って、ゴーレムを消してきたんだ」
「あいつ……って誰よ?」
セリーナは、まるでスイカでも運ぶかのように、袋へ入れたロックの頭部を持ちながら聞く。
「魔王側の担当神、オードン。卑怯な手は嫌うし、あまり自分で直接手を下さないタイプのいけ好かない野郎だ」
ロックは淡々と答えた。
「まぁ、システム的に連発はないから、安心していいよ」
神のスキルはボーナス月毎に一度使用可能であり、実質年に二回の使用が可能である。
「そ、それなら……良かった」
ミーナがほっと息を漏らす。
「はぁ〜……せっかく山の中から探し出したってのによ〜」
「文句言ってないで、先に進むわよ」
「は、はい」
黒焦げとなったゴーレムをその場に残し、三人は先へ進んでいく。
しばらく歩くと――
ようやく駐屯地が見えてきた。
「やっと着いたわね」
「つ、疲れた〜……」
そこは、魔王軍が使用していた駐屯地。
造り自体は勇者軍の駐屯地と大差ない。
周囲には、薄く光る結界のようなものが展開されていた。
「駐屯地は、宝玉の力で微量だけど回復結界が張られてるんだ。誰でも入れるよ」
ロックに言われ、セリーナは警戒しながら一歩踏み込む。
すると、身体がじんわりと軽くなるような、不思議な感覚に包まれた。
「これが……駐屯地?」
セリーナは短剣を構えたまま、周囲を油断なく見渡す。
一方のミーナは、初めて田舎へ来た都会人のように、ぽかんと立ち尽くしていた。
「もう誰もいないよ。奥の天幕へ行こう」
ロックが示した先。
そこには、一際大きな天幕が建てられていた。
その内部から、結界の波動が静かに広がっているのを感じる。
セリーナとミーナは、天幕の中へ足を踏み入れる。
そこには、中央に設置された石の台座。
そして、その上には――
眩い輝きを放つ宝玉が置かれていた。
「これが……?」
「ほ、宝玉……」
二人は思わず、その幻想的な光に見入ってしまう。
「誰が受け取ってもいいよ。宝玉の所有者になるのは、その領土奪還のMVS――最優秀召喚者に贈られるから」
ロックは自信満々に言い放つ。
MVS――“Most Valuable Summoner” 最優秀召喚者に贈られる称号。
その表情は、
――どう考えても自分が選ばれる。
そう確信している顔だった。
「じゃあ……」
セリーナは、おそるおそる宝玉へ手を伸ばす。
そっと持ち上げた、その瞬間。
『この領土の奪還、おめでとうございます』
宝玉の中から、機械的な女性音声が流れ出した。
「わっ……しゃべった」
「び、びっくりしました……」
驚く二人。
対照的に、ロックはドヤ顔で胸を張っている。
『今回のMVSは――』
「「ごくっ……」」
二人が緊張して息を呑む。
「ま、今回は俺だろ」
一方、ロックは余裕の表情を崩さない。
ダララララララララララララ――ダンッ!
宝玉の中からドラムロールが鳴り響く。
ロックは自分の名前が呼ばれる準備をする。
(ロ……)
『“ゴーレム”ですっ!』
ゴーレムです……
ゴーレムです……
ゴーレム……
ゴー……
「あいつも召喚者扱いかよーっ!!」
ロックの絶叫は、天幕の外まで盛大に響き渡った。




