第四十五話 痛み分け?
――天界。
セラは、こっそりとガッツポーズを決めていた。
「ロックせんぱい、誰も行きたがらない下界に何度も遊びに行ってたから、私たちの知らないことをいっぱい知ってるっすよ」
セラは、得意げにオードンへ言う。
しかし、オードンは別のことを考えていた。
「セラ。アイツが【不死者】っていうのは、社長も知っているのか?」
「……知ってるっす」
(ってか……パパの指示だったっす)
セラは内心で冷や汗を流す。
「社長は……アイツを天界に戻す気はないのか?」
「へ?」
セラは、一瞬言葉に詰まった。
どこまで話していいのか迷う。
「あー……宝玉を集めれば……帰って来れるはずっすよ」
とりあえず、借金の件は伏せておいた。
「……アイツを殺せないなら……策を考える必要があるな」
オードンは静かに立ち上がる。
ガチャン――
そのまま部屋を出て行った。
・・・
・・・
・・・
「後は……領土を確保するっすよ……せんぱい」
セラは再び下界の映像を覗き込む。
そこには――
ゴーレムに命令して、バラバラになったロックボディのパーツを回収させているロックの姿があった。
「何やってんすかね〜……魔王を倒しても、まだ魔王軍はいるっすのに」
戦場では、ゴーレムが這いつくばるようにしてロックのボディパーツを探していた。
「ドコマデ飛ンデ行ッタ?」
「知らねーよ。探して集めろよ」
「探シテ集メロヨ、スル」
ゴーレムは魔族を払いのけながら、周囲を探し回る。
「グオォォッ!」
「ギャーッ!」
「に、逃げろー!」
魔王マルコが討たれたことで、魔王軍の士気は大きく低下していた。
撤退を始める魔族も多い。
ヒュン……ヒュン……
グサッ! グサッ!
「グワッ……!」
「ガハッ……!」
弓矢に撃たれ、次々と倒れていく魔族たち。
その中を、ミーナが駆け寄ってくる。
「ロ、ロック様! と、頭部だけ……? そ、それ大丈夫なんですか?」
「こいつ、頭だけでも生きてるの。キモいっしょ」
遅れて現れたセリーナが、呆れたように言った。
ドドドドッ……
その後方には、勇者軍の姿も見えていた。
崩壊寸前だった戦線は持ち直し、戦況をひっくり返していた。
「みんな悪いけど、俺のボディパーツ探してよ」
「うわっ! キモい顔だけのヤツから、キモい依頼をされた」
セリーナは露骨に嫌そうな顔をする。
「あっ!」
「ミーナちゃん、あった?」
「い、いえ……わ、私の作ったコートがここにあったので……」
ミーナはコートを掴み、持ち上げようとした。
カラッ……
カラカラカラッ……
「ロ、ロック様のボディって……こ、これですか?」
「おー、それそれ」
両腕はすでに回収済み。
残りのパーツは、コートの中でバラバラになっていたものの、周囲へ飛び散ってはいなかった。
バラバラになったパーツを袋へと詰めていく。
「こ、これ……本当にロック様……なんだね」
勇者軍の兵士の一人が、パーツの入った袋を恐る恐る運んでいた。
「この場所の人形師の所に運んでおいて」
ロックは住所の書かれた紙を渡し、そのまま送り出す。
ゴーレムの手の中には、ロックの頭部が収まっていた。
「よーし! 残りの魔王軍を蹴散らして、領土ゲットだぜ!」
ロックはゴーレムへ命令を出し、そのまま魔王軍の中をズンズン進んでいく。
「ちょっと! 私たちもいるんだから……」
セリーナは短剣を振り回しながら後を追う。
「ま、待ってください〜」
ヒュン……
ヒュン……
ミーナも弓矢を放ちながら必死についていった。
やがて魔王軍は完全に撤退し、勇者軍が勝利する。
「ワァァァーッ!!」
「オォォォーッ!!」
戦場に勝利の歓声が響き渡った。
しかし――
ロックたちは、その余韻に浸ることなく、さらに領土の奥地へと進んでいく。
「駐屯地に宝玉があるはず。それを回収したら、この領土は勇者軍のものだ」
駐屯地へ向かう道中。
突如として、どこからか乾いた空気が流れ込んできた。
その瞬間――
パリッ……
「……ん?」
上空の風が渦を巻く。
周囲の雲を一箇所に集めるように。
「これって……まさか?」
パリッ……パリッ……
辺りが暗くなる。
ゴロゴロゴロッ……
「……伏せろ!!」
ドォォォォォーンッ!!
凄まじい衝撃と轟音が、戦場全体を揺るがした。
しばらく鳴り響いていた轟音が、ようやく止む。
「な、何だったの……?」
セリーナが恐る恐る顔を上げ、周囲を見渡す。
「……やられたぜ」
ゴーレムの手の中から、ロックの声が聞こえた。
「え、え……?」
ミーナも辺りを見回す。
しかし、一見した限りでは、何かが変わったようには見えない。
――その時。
ゴロンッ……ドサッ
「えっ?」
何かが上から落ちてきた。
それは、先ほどまでゴーレムの手の中にあったはずの、ロックの頭部だった。
「ど、どうしたの?」
プスプスプスッ……
ロックの頭部から煙が上がっている。
髪はチリチリに焼け焦げていた。
「オードンのやつ……やってくれるぜ……」
「あ、ゴ、ゴーレムが……」
ミーナの声に反応して、セリーナもゴーレムへ視線を向ける。
そこに立っていたのは――
黒く焼け焦げ、内部から煙を噴き出し、完全に動きを止めた鉄の巨人だった。
「こいつは“神の雷”だ……しかも、ギリギリまで出力を上げた神のスキル……」
「……え? そんなの……ありなの?」
「アリっちゃアリだな」
神のスキル。
本来、神が戦場へ直接介入することは禁止されている。
しかし、これは“試験的事業”。
例外として許可されているものが存在していた。
一つは、ゴーレムなどの召喚獣。
人外存在への対応データを採取するため、各陣営につきコスト上限が決められており、その範囲内まで許可されている。
そして、もう一つ――
神のスキルによる攻撃。
ただし、その威力は災害最高レベル――“神災”として扱われる範囲内に制限されていた。
今回の“神の雷”は、そのギリギリを攻めた威力だった。
……というより。
「あいつ……ゴーレムを狙い撃ちしやがった」
広範囲へ放たれた神の雷は、ゴーレムを避雷針のように利用し、雷を集中させていた。
その結果――
ゴーレムは、完全に機能を停止していた。




