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第四十四話 決着は殴り合いで

 ロックは、吹き飛ばされた自分の腕へ視線を向ける。

 腕は、倒れているゴーレムの頭部にぶつかって止まっていた。

(チッ……あんな遠くにゴーレムが……)

 ザッ……ザッ……ザッ……

 マルコが迫ってくる。

 その拳へ集められた魔力は、まるで天へ昇る煙のように揺らめいていた。

(……逆だ)

(あれが天界からの魔力供給……天から流れ込んでいるんだ)

 キッ――!

 ロックが天を睨む。

(オードンの野郎……本気だな)

(目に見えるほどの魔力量……)

 ――天界。

 オードンは、下界のロックと目が合った気がした。

(死ね、ロック)

(下界で死んでも、神の魂の帰る場所は……ここだ)

 その瞬間。

 ロックが笑った。

 ……いや、笑ったように見えた。

 もちろん、ロックから天界の様子は見えていない。

 オードンが何をしているのかなど、知るはずもない。

(諦めた顔……ではなかったな)

 オードンは向かい側にいるセラへ視線を向ける。

「ん? 私は何もしてないっすよ〜。今から何かしようにも、すぐには無理っすからね〜」

 セラは首を横に振り、両手を上げてお手上げのポーズを取る。

(せんぱい……何か策があるんっすよね?)

(せんぱいのG並みのしぶとさだけは信用してるんすからね……)

 セラの手は、じっとりと汗ばんでいた。


 ロックは、ふらつきながら立ち上がろうとする。

 ズリッ……ズリッ……

 ザッ――

 右腕を失った身体はバランスを崩しかけながらも、何とか地面を踏み締めた。

「その腕……魔法で痛みでも緩和させてるのか?」

 マルコがロックの目の前で立ち止まる。

「顔に似合わず、根性あるんじゃねーか」

「一発くらい、お前の顔を殴らなきゃ気が治まらないんでな……」

 ロックは、残った左腕へ魔力を込める。

「させねーって言ってるだろっ!!」

 マルコの拳に魔力が集中する。

 振り下ろされる必殺の一撃。

「食らいやがれ!」

 同時に、ロックも左腕でアッパーを放った。

 狙いはマルコの顔面。

 カウンターが――

 スッ……

 躱される。

「死ね!!」

 ドゴンッ!!

 マルコの拳が、ロックのボディへ直撃した。

 そのまま地面ごと抉り込む。

 ドォォォーンッ!!

「が……はっ……」

 ロックのボディが砕け散る。

 強化カスタム。

 そして、ミーナ特製コートの防御効果。

 その全てを、マルコの暴力は真正面から叩き潰した。

 マルコは、勝利を確信する。


 その瞬間――

 マルコの身体に衝撃が走った。

「がはっ……!」

 ドサッ……

 そのまま膝をつくマルコ。

「ぐぉっ……な、何が……?」

 吹き飛ばされたロックの頭部が、ゴーレムの方へと転がっていく。

「起きろ! ゴーレム!」

 ロックが命令を飛ばす。

「起キル」

 ガシャン……ガシャン……ガシャン……

 倒れていたゴーレムが、ゆっくりと立ち上がった。

「が……な、何で……お前は……頭だけで生きている……?」

 マルコは無理やり身体を起こそうとする。

 しかし、思うように力が入らない。

「俺……【不死者】なんだわ」

 ロックはドヤ顔を決めようとする。

 しかし、頭部だけになっていたため、顔は空を向いていた。

「ゴーレム! アイツを全力で殴れ」

 ブ……ブーンッ……

「アイツ、全力デ殴ル」

 ガシャン……ガシャン……ガシャン……

 ゴーレムが、うずくまるマルコへ向かって歩き出す。

 ググググゥッ……

 巨大な拳が、空高く振り上げられる。

(グッ……逃げなければ……!)

 だが、マルコの身体は動かなかった。

 ――天界。

 オードンは、ロックのドヤ顔を見て目を見開いていた。

「……【不死者】だと? いや、それより……」

 ロックとマルコの死闘。

 その一部始終を見ていたオードンは、ロックの行動を思い返していた。

(アイツのアッパー……あれは当てるつもりじゃなくて……)

 ロックのアッパーは、躱されたのではない。

 最初から、わざと外していた。

 しかも言葉通り、自ら左腕まで引き千切り、空中へ投げ飛ばしていた。

「いや〜、まさかあんな方法があったとは、驚きっすね〜」

「あんな方法……だと? 誰があんな事を知ってると言うんだ!」

 ロックがやった事。

 それは、天界からマルコへ流れていたオードンの魔力を、投げ飛ばした左腕へ誘導することだった。

「確かに……神の魔力と……神が使う下界用のボディは……」

「そうっすね。伝導率が高いっすね」

 つまり――

 マルコへ供給されていたオードンの魔力は、ロックの左腕へ流れ込んでいた。

 その結果。

 マルコは、魔力供給が断たれた状態で“限界突破”の全力攻撃を放ってしまった。

「マルコの身体が……耐えきれなかった……」

「しかも、ちゃっかり右腕にも魔力が流れるように、左腕を右腕の近くに飛ぶよう投げてたっすね」

 その結果、ゴーレムはオードンの魔力を受け取り、再起動していた。

「お見事っす、せんぱい……」

 セラは、ロックのドヤ顔を見つめながら、そっと呟いた。


 ゴーレムの巨大な拳が、マルコへ向かって振り下ろされる。

「一発、お前の顔を殴らせて貰うぜ」

 ロックは、拳が落ちていく光景を見ながら呟いた。

 ドゴォッ!!

 ドォォーンッ!!

 衝撃とともに砂煙が舞い上がる。

「ふぅ……あんなやつ、セリーナちゃんやミーナちゃんに会わせられないからな」

 やがて風が吹き抜け、砂煙が流されていく。

 そこに立っていたのは、巨大なゴーレム。

 その拳は、まだ地面へ深く突き刺さっていた。

 ググググッ……

 ゆっくりと拳が持ち上がる。

 そこに、マルコの姿は――

「アイツ、潰シタ」

 ゴーレムが、無機質な声で勝利を宣言した。

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