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第四十二話 魔王マルコ

 魔王マルコは、視界に巨大なゴーレムの姿を捉えていた。

 遠目からでも分かる。

 大柄な魔族の倍はあると思われる巨大な物体。

 その歩みだけで、周囲を蹂躙していく圧倒的な破壊力。

「おいおいおい……随分な兵器を持ち出してくるじゃねーかよ」

 魔王とはいえ、中身は人間の魂。

 死ねば終わりだ。

 恐怖がないわけではない。

 しかし――

「異世界……こうじゃなきゃ面白くねーよな!!」

 ダッダッダッ――

 マルコはゴーレムへ向かって一直線に駆け出した。

 恐怖よりも、暴れたい衝動の方が遥かに勝っていた。

(……生き返ったところで、暴力で屈服させる事しか出来ない人間だ、俺は……)

 ダッダッダッ――

(更に強い暴力に負けて、一度死んだ男だ、俺は……)

 ダッダッダッ――

(逃げ回って宝玉を貯めたって……俺には、生きづらい世界へ戻るだけだ!)

 ダッダッダッ――

(だったら……ここで全力で暴力を振るって……やるぜ!!)

「うおぉぉぉーっ!!」

 マルコが、ゴーレムの眼前へ到達する。

「な、何だ、あいつはっ!?」

 ロックが気付いた時には、マルコは走ってきた勢いそのままに、全力の拳を放っていた。

 魔王マルコ。

 “武術家”の役職を与えられた男。

 武器の扱いにも長けている。

 だが、マルコが最も好むのは素手での戦いだった。

『最後に頼れるのは、この鍛えた肉体だけだ』

 そう信じ、戦場でも殴り続けてきた拳。

 その拳が、ゴーレムの胴体へと叩き込まれる。

「ぶっ……壊れやがれぇぇーっ!!」

 ドガァーッ!!

 巨大なゴーレムが、宙を舞った。

「な、何だとーっ!?」

 ロックごと吹き飛ばされるゴーレム。

 ドォォーンッ!!

 土煙が激しく巻き上がる。

 その光景を見ながら、マルコは獰猛に笑った。

「この俺を……楽しませろよ!」


 ゴーレムにしがみついていたロックは、直撃だけは免れていた。

 だが、周囲は激しい砂煙に包まれ、状況がまるで見えない。

「おい、ゴーレム! 立て!」

 ロックの手から魔力が流れ込む。

 ブー……ブーン……

「今、立ツ」

 ガシャン、ガシャン、ガシャン――

 ゴーレムはゆっくりと立ち上がり、ようやく砂煙の外へ顔を出した。

 ロックはすぐに、先ほど攻撃してきた男を探す。

「あの野郎……どこに行った?」

 足元では、まだ砂煙が渦巻いている。

 その中で、マルコは静かに力を溜めていた。

「はははははーっ! てめぇはデカいだけかよ!」

 声が響く。

 その直後、風に流されるように砂煙が晴れ、マルコの姿が現れた。

 だが、その時には既に攻撃態勢へ入っている。

「これでも食らえ! オラーッ!!」

 鋭い蹴りが、ゴーレムの脚へ炸裂する。

 ドゴォンッ!!

 グラッ――

 巨体が大きく揺れ、そのまま膝をついた。

「お前が、このデケーのを操ってんのか?」

 マルコはゴーレムの肩に乗るロックへ視線を向け、獰猛に睨みつける。

「チッ……魔王か。元人間の分際で……生意気な野郎だ」

 ロックも負けじと睨み返す。

 しかし、その手はゴーレムに必死にしがみついたままだった。

「ゴーレム! この男を倒せ!」

 ブー……ブーン……

「コノ男、倒ス」

 膝をついたまま、ゴーレムがマルコへ拳を振り下ろす。

 ゴォォォッ!!

 ドガァァァーンッ!!

 地面を抉るほどの破壊力。

 土砂と砂煙が一気に巻き上がり、再び視界を奪った。

 だが、その煙の中を高速で動く影がある。

「トロ過ぎだ! 当たるかよ!」

 マルコはゴーレムの一撃を回避していた。

 そして次の瞬間、その拳がゴーレムの顔面へ叩き込まれる。

「食らいやがれっ!!」

 渾身の拳が炸裂する。

 ドガァーッ!!

 グラッ……グラッ……

 ドォーンッ!!

 巨大なゴーレムは、再び大地へ倒れ込んだ。

 元が人間とは思えないほど、マルコの肉体は大きく隆起していた。

 力強く握り締められた拳。

 浮き出た血管が、ドクドクと脈を打つ。

 その全身からは、獣のような闘志が立ち昇っていた。


「クソッ……何なんだよ、アイツは!」

 ロックはゴーレムにしがみつきながら、苛立ちを露わにする。

「立て! ゴーレム!」

 ブー……ブーン……

「立ツ」

 ガシャン……ガシャン……

 ゴーレムは再び立ち上がる。

 だが、その足元にはまた砂煙が舞い上がり、周囲の状況が見えなくなっていた。

「飛べ! ゴーレム!」

「飛ブ」

 ググググゥッ――

 ゴーレムは膝を深く曲げ、脚部へ力を溜め込む。

 そして――

 ドンッ!!

 地面を蹴り、巨体が一気に上空へ跳躍した。

「……飛ぶって、まさか……ジャンプの事?」

「飛行機能、ナシ」

 空を飛ぶものだと思っていたロックへ、ゴーレムは簡潔に答える。

「言っとけよー!」

「説明書、読メ」

「分厚過ぎて読む気にならねーよ!」

 そんなやり取りをしている間に、ゴーレムの跳躍は頂点へ達していた。

 そして、そのまま落下を始める。

「考えてる暇はねーな……」

 ロックは即座に命令を下した。

「真下に両腕ロケットパンチだ!」

「両腕、撃ツ」

 ドーンッ!!

 ドーンッ!!

 ドガァァーンッ!!

 二本の腕がロケットのように射出され、地面へと突き刺さる。

 続いて、ゴーレム本体も着地した。

 ドォーンッ!!

 その瞬間――

「おらっ!!」

 着地の隙を狙ったマルコの一撃が、ゴーレムの脚へ直撃する。

 ドガァッ!!

 巨体が大きく吹き飛ばされる。

「うわっ!?」

 衝撃で、ついにロックの手がゴーレムから離れてしまった。

 ザッザッザッ

 ロックの元へ、足音が近づいてきていた。

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