第四話 勇者の戦い方
「よし……オードンのやつが来てない内に……」
対面の席には、誰もいない。
つまり――魔王側の神は未出勤。
その隙をつく。
ジジジッ
「おい!」
ジジジッジジジッ
「おい!起きろ!」
「……ん?」
「おい、起きろ!ライン……いや、ライルだったか?」
ロックは下界の景色をズームし、駐屯地へと視線を向ける。
そこには、一人の青年が寝転がっていた。
「……うるせーよ」
寝ぼけ眼のまま、ゆっくりと上体を起こす。
「いつまで寝てる、レイル」
「あんたかよ……俺はレインだっつってんだろ。いい加減覚えろよ」
レインは勇者の一人。
ロックが召喚した勇者の中で、唯一の男の勇者。
戦闘要員だった。
(男勇者なんかコロコロ変わるし、いちいち覚えてらんねーよ)
内心で言い訳するロック。
「いいか、今が攻めどきだ。一気に領土を奪え」
「またかよ……それで昨日もやられたじゃねーか」
連戦連敗の原因は、現場をよく知る勇者に任せず、現場を知らない神のよく分からない指示によることが多い。
「いいからやれって」
雑な指示だった。
「チッ……帰還のためだ。仕方ねぇか」
レインは舌打ちしながらも立ち上がる。
その手には――九個の宝玉。
あと一つで、元の世界へ帰還できる。
「他の勇者はどうしてるんだよ?」
「あっちはあっちで忙しいんだよ。いいからお前は働け!」
「クソ神だな……神ガチャ失敗だわ」
「聞こえてるぞ」
「聞こえるように言ってんだよ」
遠慮は一切なかった。
だが、それでも。
レインは装備を整え、周囲の騎士や兵士たちへと視線を向ける。
レインは“ジェネラル”の役職を与えられていた。
本人の信念と相性がよく、目標へと突き進む力が能力を底上げされていた。
「――奇襲を仕掛ける」
その一言で、空気が変わる。
「我らの領土を取り戻すぞ!!」
その号令は、騎士や兵士たちの士気を一気に高めている。
「おぉー!!」
「やるぞー!!」
軍の中心に立つレインは――
間違いなく、“勇者”だった。
……少なくとも。
どこかの神よりは、よほど人望を集めていた。
ロックは奇襲を仕掛けた――つもりだった。
だが。
魔王軍もまた優秀だった。
たとえ神の指示がなくとも、奇襲への備えは万全。
結果。
奇襲は、奇襲になっていなかった。
「クソッ! 何が攻めどきだよ! 全然奇襲になってねーじゃねーか!」
レインの怒号が戦場に響く。
――しかし、その声が天界に届くことはない。
ロックは広い視点で戦況を眺めていた。
まるで、盤面を見下ろすゲームプレイヤーのように。
「なんだよ。全然攻め込んでねーじゃん。使えないヤツめ」
すでに興味は別のところへ移っている。
ロックは強化ユニットのカタログを眺める。
グリフォンも載っていたそのカタログは、魔王軍に“獣使い”がいる以上、使えなかった。
「ちっ!この辺はダメか……」
魔獣の項目は飛ばして、次はエレメント系のユニットを見た。
「高いわ!」
物質系のユニット。
「ゴーレム……か。一体だけ課金するかな」
カタログからゴーレムを戦場へとドラッグアンドドロップする。
「あ、少しズレた……仕方ない……」
レインのいる戦場から少し離れた場所に、ゴーレムの召喚が始まる。
強化ユニットのコストが上限になり、現状はもうユニットを召喚出来ない。
「ま、囮になるだろ」
次に、勇者候補の“魂カタログ”を手に取り、物色を始めていた。
「次に選ぶならマッチョ系か格闘系……お、マフィアもいいな……」
完全に現実逃避である。
ガチャ。
「何だ? 今日は早いじゃないか」
オードンが出勤してきた。
「これが奇襲ってやつよ。見ろよ、戦況を……」
「……昨日と、そんなに変わってないな」
「あいつ……まだ攻めてないのかよ!」
ロックは苛立ちを隠さず声を荒げる。
一方、その頃。
レイン率いる勇者軍は、攻めるのを一時停止していた。
軍を二つに分け、挟み撃ちの準備。
あえて攻め込まれる状況を作り出し、隊列を崩さず耐え続ける。
そして――
「そろそろ……か」
次の瞬間。
魔王軍の背後から、もう一つの勇者軍が現れた。
挟撃。
戦況は、一気に覆る。
「よし! 作戦成功だ! 俺たちも攻めるぞ!」
「おぉ!!」
ドドドドドドッ――!!
怒涛の反撃。
天界でそれを見ていたオードンは、思わず目を見開く。
「……勇者は相当優秀だな。魔王軍にスカウトしたいくらいだ」
「……俺のゴーレムのおかげだろ?」
ロックはようやく下界へと意識を向ける。
ゴーレムはまだ召喚の途中だった。
「へ、へぇ。……やれば出来るじゃん。」
少し予定と違ったが、結果は勝利だった。
「やっぱり、俺の奇襲作戦成功だ! あはははっ!」
「あいつに召喚される勇者は可哀想だな……」
オードンは、心の底からレインに同情した。
「あのグズ勇者のせいで失敗しかけたが……俺は勝ち組だな!」
(お前、まだまだ負けてるぞ)
オードンは口には出さなかった。
たとえ今日押されていたとしても、領土は依然として魔王側が優勢。
勝負はまだオードンの圧勝。
「今日は気分がいいぜ」
この結果がこれから起こる悲劇に繋がることを、この時のロックは知る由もなかった。
――自分が、勇者に殺されることを。
そして――
レインは領主の館、その最奥の部屋へと足を踏み入れた。
中央には台座があり、その上には一つの宝玉が静かに輝いている。
「これで……ついに……」
レインはゆっくりと手を伸ばす。
触れた瞬間、宝玉の色が黒から白へと変わっていく。
その手に、十個目の宝玉が握られた。




