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第三話 異世界は会議室で動いている

 ロックは、会議室の前に立っていた。

 扉の向こうからは、すでに議論が進んでいるらしく、ざわざわとした声が廊下まで漏れている。

 ――完全に遅刻である。

 ガチャ。

「ちと遅れた、さ〜せん」

 軽い調子で扉を開ける。

「ロック! お前はいつもいつも……!」

「次からは気ぃつけま〜す」

 適当に頭を下げるロック。

 上司も、周囲の同僚たちも、怒る気力すらないのか――どこか諦めたような顔をしていた。

「ロックせんぱ〜い。こっちっす」

 ひらひらと手を振るセラの姿が見える。

「てめぇ……後で覚えておけよ」

「そんなことより、これ資料っす」

 差し出された紙の束を受け取ると――

 ふわり、と光の粒子に変わり、そのままロックの身体へと吸い込まれていった。

「チッ! また余命課の連中の売上自慢か……」

 ロックは露骨に顔をしかめる。

「まぁ、あっちは花形業務っすから。仕方ないっす」

 余命課。

 魂の救済を扱う部署であり、売上も人気もトップクラス。

「ほとんど使者に任せっきりじゃねーかよ」

「うちら勇者課も同じっすよ」

 セラは肩をすくめた。

 勇者課。

 異世界における“勇者システム”を管理し、改善する部署。

「だったら五人と言わず、もっと召喚させろよ」

「せんぱい、金欠なんでしょ? 五人でもギリじゃないっすか」

「うるせぇ」

「うるさいのはお前だ、ロック!」

 上司の怒号が飛ぶ。

「だいたい、お前の勇者はなぜ一人しか戦場に出ていない! 残りの四人は何をしている!」

「あ? 街を守ってんだよ」

「……街にグリフォンが出たらしいな」

「何でそれを……?」

 先程までの騒動を即座に把握している上層部。

 セラが目配せする。

「お前……戦況に介入したな……」

「……し、してねーよ。ちょっと課金キャラを削除しただけだろー?」

「それを介入と言うんだ。街の勇者に討伐させろ」 

「戦闘系の役職、与えてないっすもんね〜」

「俺のための女神たちだ……」

「本音が出てるぞ!!」

 上司の声が会議室に響き渡る。

「隣にもいるっすよ〜」

「……お前はダメだ」

「バカなことを言ってないで働かせろ!」

 机を叩く音が響く。

「今月も領土が四割減じゃないか!」

「給料も四割減っすもんね」

「うるせぇな。分かってるよ」

 ロックは椅子にもたれながら、面倒くさそうに言い放つ。

「明日から一気に巻き返すぜ」

 その言葉に――

 上司も、同僚たちも。

 そしてセラですら。

 “またか”という顔をしていた。

 異世界転生の仕組み、それは神々の会議によって方向性が決まる。

 そして、一人の担当神の判断で、戦況は大きく変わっていくのだった。


 会議が終わり、ロックとセラはそれぞれの持ち場へと戻る――はずだった。

 だが。

 なぜかセラが、ぴったりと後ろについてくる。

「おい、なんでついてくるんだよ」

「私の配属先、決まったっすから。こっちなんすよ」

 セラはにこにこと笑いながら、ロックと同じ方向を指差した。

「……あっそ」

 最近、セラがロックの側にいることが多くなっている。

 そのことに、流石にロックでも気付いていた。

 しかし、

(あいつ……俺に惚れたか? でも、神の女なんか……)

 ズレた解釈をしていた。

 興味なさげに歩き出すロック。

「これから一緒に通勤っすね? 嬉しいっすか?」

「……ふぅ」

 盛大なため息で返す。

 セラは、この会社の社長令嬢。

 ――完全なコネ入社だ、とロックは思い込んでいた。

「あの社長も、何考えてんだか……」

「嬉しくないっすか?」

 無邪気な笑顔で、ぐいっと顔を覗き込んでくるセラ。

「嬉しくないね。お前は俺のATMだ」

「あははは〜。せんぱいらしいっす」

 まったく気にした様子もなく笑うセラ。

 ロックは現場近くに社宅を借りていた。

 ――そして。

「私もここっす」

「マジかよ」

 同じ建物を見上げながら、ロックは眉をひそめる。

「なんで同じ場所にするかな、お前は」

「パパが決めたっすから〜」

「チッ……マジで分かんねー」

 ロックは小さく舌打ちする。

 セラは、見た目だけなら文句なしに可愛い。

 だが――

 同じ“神”だからか。

 それとも、相手がセラだからか。

 ロックはまったく惹かれる様子がなかった。

 むしろ。

(便利な金づるが近くに来ただけだな)

 そんなことを考えているあたり、やはりロックはロックだった。

 部屋に戻ると、ロックは通帳を眺める。

(入金……されているな。これでまた遊びに行けるぜ)

 送金元の名前は“セラ”ではなかったが、ロックは気が付いていなかった。


 翌朝。

 ロックは珍しく、すっきりと目を覚ました。

 普段は寝坊が常だが、こういう日もある。

(これも、エリシアちゃんの癒しの効果か〜。これは……何かいいことが起きる予感……)

 根拠のないポジティブさ。

 それがロックである。

「よし。オードンが出勤する前に、奇襲でも仕掛けてやるか」

 やる気に満ちたロックは、そのまま事務所へと向かった。

 その様子を、窓から見るセラ。

 ジジジッ

「今、事務所に向かったっす。……うん、……うん、分かったっす」

 セラは、ロックとは違う方角へと向かっていった。

 事務所に着いたロックは、ある一室へと向かう。

 床が一面、下界を見下ろす様な映像が広がる。

 魔王の領土が押し込んで、人間の領土の減少はパッと見でもハッキリと分かった。

 ロックはゲーム感覚で駒を動かそうとしている。

 それは、下界では多くの人間の命運を決める一手になる。

「よし、やるか!」

 その日も、いつもの一手を打とうとするロック。

 その一手が、ロックの運命までも変える一手に繋がるとも知らずに……。

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