表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
39/73

第三十九話 神様のお仕事

 セラは観念したように肩を落とし、オードンへ説明を始めた。

「あはははは……あれはロックせんぱいっす」

「知っていて勇者にしたのか?」

 オードンが鋭い目でセラを睨みつける。

「ひぃっ……し、知らなかったっす! たまたまっす! 本当っす!」

 セラは慌てて早口で否定した。

「……勇者課の人間は知っているのか?」

「そ、それは……っすね〜……」

 セラの額に汗が浮かぶ。

「……知らないのか?」

「パパが……知ってるっす」

「社長か……」

 オードンは腕を組み、考え込む。

「ふぅ……神が召喚者になるなど前代未聞だ。チートじゃないのか?」

 鋭い視線が再びセラを射抜く。

「ひぇ〜……い、いや……せんぱいのボディ、耐久性ゼロっすから〜……チートでは……ないっすかね〜? あは、あははは……」

 セラは乾いた笑いを浮かべる。

 汗は止まらなかった。

「せ、せんぱいが戦場に行ったのは、こ、今回が初めてっす。ゴーレムも、せんぱいが神だった時に課金した物っす。勇者になってから、せんぱいはまだ何もしてないっす……」

 その言葉に、オードンは目を見開く。

「それは本当か?」

「は、はいっす!」

(では、一度に領土を奪われた原因が分からなかったが……ロックではないなら)

 オードンは再び下界の映像へ目を向けた。

(……他の勇者ということか?)

「この状況は……あいつが居なくなってからだ」

 静かな声で呟く。

「あいつの存在が、これほど影響を及ぼすとは……な」

 そう言って、オードンは扉へ向かった。

「オードンせんぱい……帰るっすか?」

「社長の所に行く」

 扉の前で立ち止まり、低く言う。

「どういう事なのか、説明してもらわなければ……な」

 ノブに手をかける。

「こんな状況になった、この盤面に……意味があるのかをね」

 勇者課と魔王課。

 同じ会社でありながら、争い続ける部署。

 勝利によって報酬を得るオードンにとって、理不尽な状況で損を被るつもりはなかった。

 ガチャッ

 キーッ……

 バタンッ――

 オードンは、そのまま作業場を後にする。

「はぁ〜……怖かったっすね〜……」

 取り残されたセラは、全身の力が抜けたようにその場へ座り込んだ。


 この会社の事業――

 それは、異世界における“勇者システム”を管理し、改善する部署だった。

 同時に、“魔王システム”の管理も行っている。

 勇者が強すぎる。

 あるいは、魔王が強すぎる。

 そういった戦力バランスの調整。

 世界の仕組みの管理。

 役職やスキルの調整。

 それらを改善し、転生者たちへ“適度な難易度の異世界”を提供するための、試験的な事業である。

 つまり――

 事業にとっては、勇者が勝とうが、魔王が勝とうが問題ではない。

 欲しいのは、あらゆる状況下で得られる“データ”だった。

(元神が入り込んだ状況……これに、何のデータが得られると言うのだ?)

(こんなイレギュラー……)

 オードンは、社長室の前まで来ていた。

 コンッ、コンッ、コンッ――

「失礼します。オードンです」

「……入れ」

 ガチャッ

 キーッ……

 扉を開けると、社長は窓の外を眺めながら立っていた。

「そろそろ来る頃だと思っていたぞ」

 そのまま振り返らずに言う。

「聞きたい事は……ロックの事だろ?」

 ゆっくりと振り返る社長。

 その目は、全てを見透かされているような、不思議な感覚を与えてくる。

「はい。その通りです」

「まぁ……あいつの事は、今は色々とクズな行動が目立つがな……」

 社長は苦笑しながら、再び窓へ視線を向けた。

「昔のあいつは違った……」

「……そうですね」

 オードンも静かに同調する。

「そうか。オードンも知っていたか……昔のあいつを」

「……はい」

「戻ってほしいんだよ」

 社長は遠い目をした。

「昔の、やる気に満ちていた……あいつに……」

「そのために……勇者に召喚した、と?」

「分かっている」

 社長は、真っ直ぐオードンを見る。

「オードン。どんな結果になろうと、お前には損をさせない」

「俺は、本気でロックを叩き潰しても……?」

 オードンの拳に力が入る。

「それでいい」

 社長は迷いなく答えた。

「これは、ワシのただの我儘だ」

「……分かりました」

 オードンは短く息を吐く。

「その言葉を聞いて、納得しました」

 そう言って、社長へ背を向ける。

「お前には苦労をかけるな……」

「いつも、あいつの相手が俺なのも……社長の思惑だったのですね……」

「……これからも、頼むぞ」

「……失礼します」

 ガチャッ

 キーッ……

 パタンッ――


 セラは、下界へ通信を繋いでいた。

 ジジジッ――

「せんぱい、無事にゴーレムを手に入れたっすね」

「おいっ、セラ! もっと分かりやすい地図を寄越せよ、ったく。死にかけたんだぞ、こっちは!」

 ロックは、金属の塊に追い回された恐怖を思い出しながら怒鳴る。

「何言ってんすか? せんぱいが適当に召喚したから探せなかったんすよ。召喚履歴でしか分からなかったっす」

「チッ……」

 ロックは不満げに舌打ちした。

「あー、それとっすね〜……」

 セラが珍しく歯切れ悪く言う。

「オードンせんぱいにバレたっす……」

「……何が?」

「……ロックせんぱいが勇者になってる事を、っす」

「……ん? あいつ、知らなかったの?」

 ロックは首を傾げる。

 何が問題なのか、よく分かっていなかった。

「何、呑気な事言ってんすか? バレたからには、もしかしたらオードンせんぱい、課金しまくって、せんぱい潰しにくるかもしれないっすよ……」

「な、何だと!?」

 ロックの顔色が変わる。

 オードンの優秀さを知っているからこそ、その危険性を瞬時に理解した。

「止めろ……セラ、何としてでもオードンのやつを止めろ」

「私には無理っすね〜」

「何とかしてくれよ〜」

「私は、誰かさんのせいで、領土が狭くて安月給っすから〜……」

「か、金ならお前のパパが出してくれるだろ? ……な? な?」

「無理っす〜」

「た、頼むって〜!」

 ベイルの危機を退けた直後。

 ロックの前に、新たな脅威が現れようとしていた。

 かつては同じ立場で争った対戦相手。

 しかし今は――神と召喚者。

 立場は文字通り“天と地”の差ができ、ロックは圧倒的に不利な状況へと追い込まれていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ