第三十八話 動き出したゴーレム
奥の手を失ったベイルは、上空で震えていた。
(このやろうっ~!)
ロックたち三人――
そして、謎の金属の塊。
その異様な光景を、飛竜の背から睨みつける。
(流石に……分が悪いな)
ベイルは、自身の魔力が尽きかけていることを感じていた。
鞄の中を探る。
だが――
(飛竜のことを考えて荷物を減らしたのが、裏目に出たか……)
魔力回復用のアイテムは、何一つ残っていなかった。
同じ頃、地上では――
「遅くなってゴメン、二人とも」
「……もしかして、それが……?」
「ゴ、ゴーレム……ですか?」
セリーナとミーナは、目の前の丸い金属の塊を見つめていた。
怪しい光を放ちながら、その場で静止している。
「分からない。けど、こいつ……俺を潰そうとして転がって来やがったんだよ」
ゲシッ!
ロックは腹いせのように塊を蹴飛ばす。
すると――
グラッ。
ロックの足に込められた僅かな魔力に反応するように、塊が再び動き始める。
しかも、その向きは――またロックへ。
「わーっ! 待て待て待て! ストーップ!!」
ロックが慌てて叫ぶ。
その瞬間。
ブ、ブー……ブーン……
金属の塊の内部から、重低音が響き始めた。
「命令ヲ……受ケ付ケマシタ」
ピタリと動きを止める塊。
そして、機械的な音声が森に響いた。
「と、止まった……?」
「「しゃべった……?」」
三人は揃って目を見開く。
目の前の存在が、“ただの金属の塊”ではないことを、ようやく理解し始めていた。
ロックは、目の前の金属の塊へ問いかける。
「おまえ……何で俺を潰そうとしたんだよ」
「潰サナイ。主ノ魔力、追イカケタ」
金属の塊は、悪びれる様子もなく答えた。
「何で追いかけるんだよ」
「起動、主ノ魔力、必要」
「おまえ……俺が魔力を流し込んでも反応しなかったじゃないか!」
ロックは確かに魔力を流していた。
だが、あの時はまったく動かなかった。
「初期起動、魔力ガ膨大ニ必要」
「はぁ? ……それで追いかけてきたのか?」
「最初ノ魔力量、少ナイ。転ガルノガ限界」
平然と答える金属の塊。
「……死ぬかと思ったぞ」
ロックは顔を引きつらせる。
「じゃあ、あんたの魔力をもっと流し込んだら……」
「ゴ、ゴーレム……動く?」
セリーナとミーナも、金属の塊へ視線を向ける。
ロックは恐る恐る手を伸ばし、塊へ触れた。
「い、行くぞ……」
その瞬間。
ロックの全身が淡く発光する。
まるで身体の内側から、魔力が溢れ出しているかのようだった。
ギシッ……ギシッ……
「ぐっ……」
膨大な魔力負荷に、ロックのボディが悲鳴を上げ始める。
だが――
ミーナ特製のコートが、砕けそうなボディを押さえ込むように包み込んでいた。
パァァァ……
ブ……ブーン……
ブォォォォーン……!!
金属の塊全体へ、光が流れ込んでいく。
そして――
内部から、重々しい振動音が響き始めた。
「起動、シマス」
ガチャンッ……
「お……」
ガチャガチャンッ……ガチンッ……
「おお……」
ガッチャン!!
「おおお……」
ドォーンッ!!
丸まっていた金属の塊が変形し、五メートル程の大きさとなった。
内部から頭部、腕、脚が展開され――ついに“ゴーレム”としての姿を現した。
「主、次ノ命令ヲ」
その姿は、先ほどまで丸く転がっていたとは思えないほど異様だった。
全身はブロック状の金属で構成され、角張った巨大な人型。
重厚感に満ちたその姿は、まるで戦争兵器そのものだった。
「お、おぅ……」
ロックは、命令を待つゴーレムを前に思わずたじろぐ。
すると、
「ロック! あれ、何とかして!」
セリーナが上空を指差した。
その先には――まだ飛竜が旋回していた。
「そうか……まだ、アイツがいるのか」
ロックはゴーレムへ向き直る。
「ゴーレム! アイツを攻撃しろ!」
ギギギギッ……
ゴーレムの頭部が上空へ向く。
「目標、確認」
ジャキッ。
ゴーレムが拳を飛竜へ向けた。
「発射」
ドォーンッ!!
次の瞬間。
ゴーレムの拳が、腕ごとロケットのように射出された。
一直線に飛竜へ迫る鋼鉄の拳。
「避けろ! 飛竜!」
ベイルは轟音で異変に気付き、慌てて命令を飛ばす。
「ギャーッ!!」
飛竜は咄嗟に回避行動を取る。
だが――
チッ……
「ギャーッ!!」
グラッ。
拳が翼をかすめ、飛竜の体勢が大きく崩れた。
「うぉっ!?」
ベイルも振り落とされそうになり、必死に飛竜へしがみつく。
何とか体勢を立て直したベイルは、即座に判断した。
「逃げるぞ! 行け!」
飛竜は大きく羽ばたき、そのまま魔王領の奥へと飛び去っていく。
(クソッ! ……勇者か)
ベイルは悔しげに歯を食いしばる。
(今回は魔力が足りなかったが……次は万全の状態で殺してやる……!)
そう心の中で吐き捨てながら、ベイルの姿は彼方へと消えていった。
天界――
オードンは、下界の戦況を静かに眺めていた。
映し出されているのは、ベイルと勇者たちの戦い。
しかし、その映像の中に――
オードンは、一人の男の姿を見つける。
「あの無駄にイケメンの男……」
目を細める。
「あれは、ロックの下界用のボディ……?」
オードンは映像を巻き戻し、さらに拡大した。
じっと確認する。
(…………似てる、というレベルではないな)
その視線が、ゆっくりとセラへ向く。
セラは気付いた瞬間、露骨に目を逸らした。
「セラ。どういう事だ?」
「な、なな、何がっすか?」
明らかに動揺している。
オードンは確信を深めたように口を開く。
「ロックのやつ、何故勇者なんかやってるんだ?」
「せ、せんぱい……? あんなオジサン、いないじゃないっすか」
なおも誤魔化そうとするセラ。
だが、オードンは冷静だった。
「あいつの下界用のボディは、何度か見せられてるんだ」
映像のロックを指差す。
「その顔は……そう、あの下界の勇者みたいな“作り物のイケメン顔”だったよ」
「ひぃ〜……」
セラの顔が引きつる。
もう――誤魔化し切れなかった。




