第三十四話 山頂からの景色
カランコロン――
不意に店の扉が開き、一人の少女が姿を現した。
「すみません。こちらにロックという……って」
少女は店内を見回し――すぐに、その姿を見つける。
「……いた」
「セリーナちゃん!」
ロックが声を上げる。
現れたのは、セリーナだった。
「セリーナ嬢も連れて行くっす」
セラが当然のように言い放つ。
こうして――
ロック、セリーナ、ミーナの三人は、戦場へ向かうこととなった。
・・・
・・・
・・・
――その頃、魔王領。
「何が起きてるんだ!」
ドガッ――!
魔王の一人、マルコが苛立ちを隠さず、物に当たる。
その場には、もう一人の影があった。
「ゲンさんの話だと〜、人間の兵士一人一人の強さが、かなり上がってるってさ〜」
「はぁ? そんなもん、たかが知れてるだろ! 勇者はどんなヤツだよ、ベイル!」
報告役として動いている魔王――ベイルが、肩をすくめる。
「ゲンさんは見てないってさ〜」
「勇者がいないのに負けたってのかよっ!」
ドゴンッ――!
再び、机が破壊される。
「物に当たるなよ〜マルコ」
「俺は、ぶん殴りたいんだよ!」
「こえぇ〜」
ベイルは一歩引いた。
「アルベルトの作戦だけ伝えるけど〜……次、人間たちが攻めてきたら――」
一拍。
「俺が上空から魔物を使って援護射撃するって事になってるから、シクヨロ〜」
「フンッ! いらねーよ、そんなもん」
「そうやって、惨めに敗走すれば〜、あはははは〜」
「何だと! てめぇ!」
ブンッ――!
近くにあった物が、ベイルへと投げつけられる。
「おっと〜、あぶねー」
軽く避けるベイル。
「じゃ、またな〜」
そのまま部屋を出ていく。
「二度と来んじゃねーっ!!」
扉に向かって物を投げつけるマルコ。
外では――
ベイルが待機させていた飛竜へと軽やかに乗り込む。
――彼は“魔獣使い”。
空から戦場を支配する、厄介な存在だった。
ロックとミーナは、山道を歩いていた。
セリーナは偵察のため、木々の上を軽やかに飛び回っている。
――ここは魔王領。
勇者軍と魔王軍が争う戦場からは離れているとはいえ、いつ戦火が広がってもおかしくない。
油断は許されない状況だった。
「ハァ……ハァ……何で……こんな場所を……歩かなきゃダメなんだ……よ……」
肩で息をしながら、ロックが愚痴をこぼす。
「ロ、ロック様……戦場から……離れるためです……それに……」
ミーナが説明しかけた、その時――
木の上から影が降りてきた。
スタッ――
「あんたが適当な場所にゴーレムを召喚したからだろ」
セリーナが偵察から戻ってくる。
「戦場は恐らく一山向こうね。いつ始まってもおかしくないわ」
「こ、ここには……魔族は……こ、来ない……ですよね……?」
不安げにミーナが尋ねる。
「こんな所をうろつくのは、せいぜい魔獣くらいだろうな」
ロックが答えるが――
「それが……魔獣もいなかったわ」
偵察をしてきたセリーナが報告してきた。
「へぇ〜、ラッキーじゃん」
ロックが軽く言う。
「い、今の内に……ご、ゴーレムを……探しましょう……」
三人はそのまま山道を進んでいく。
上り坂が続くにつれ――
ロックの足取りだけが、明らかに重くなっていった。
「ハァ……ハァ……どこまで行くんだ?」
「木の上から見つけられないんだから、山頂付近まで行くわよ」
「ま、マジか〜……」
よろけるロック。
「ロ、ロック様……ファイト……です」
ミーナが小さく拳を握り、励ます。
「ミーナちゃんは大丈夫なの……?」
「わ、私は……狩りで山に行く事が……お、多いので……」
小柄ながらも、ミーナは山道に慣れている様子で、まだ余裕があった。
「まったく……足手まといな元神様だな……」
セリーナは呆れ顔でロックを見る。
「ハァ……ハァ……か、神のスキルを……使えれば……」
「こんな所でバラバラになるのはやめてよね。運ぶの面倒くさいから」
「うっ……」
痛いところを突かれ――
ロックは何も言い返せなかった。
山頂に辿り着いた三人。
そこから見える景色は――息を呑むほど美しかった。
「へぇ……これは凄いわね」
「き、綺麗……」
セリーナとミーナは、思わず感嘆の声を漏らす。
今は魔王領となっているこの地も、元は人間領。
手つかずの自然が広がり、その壮大な光景に二人は圧倒されていた。
「街以外は、こんなもんだよ……」
ロックは淡々と言う。
神として天界から戦況を見ていた彼にとって、この程度の景色は見慣れたものだった。
――その時。
山の奥、平地の方角に砂煙が立ち上っているのが見えた。
「勇者軍が進軍中みたいね……」
反対側には――魔王軍の陣。
「始まるのね……」
「せ、戦争……怖い……ですね……」
初めて目の当たりにする戦場。
二人の胸に、確かな恐怖が広がっていく。
「ん……? あれ、何だ?」
戦場に興味を示さなかったロックが、ふと空を指差した。
「飛竜……?」
「珍しいわね。こんな騒がしい場所に来るなんて……」
「か、影が……三つ、見えます……」
飛竜を先頭に――
その後ろに、明らかに異質な影が二つ。
それらが戦場の上空を通り過ぎようとした――その瞬間。
ゴオォォォォォ――ッ!!
二つの影から、灼熱の炎が吐き出された。
「あ、あれはっ!?」
「レッド……ドラゴン?」
「そ、そんな……ドラゴンって……魔王領の奥地にしか……い、いないって……」
炎は容赦なく地上へと降り注ぎ――
戦場は一瞬にして、火の海と化した。




