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第三十三話 あの時のアイツは今も待っている

「た、戦えない俺を一人で戦場に行って……どうするんだよ!」

 ロックは思わず声を荒げる。

「もっと楽に稼げる方法、忘れたっすか?」

 セラは涼しい声で言うと――

 一枚の紙を、ロックの前にスッと出現させた。

「……ん?」

 ロックはそれを手に取り、目を通す。

「魔王領を一カ所奪還につき百万セイン……」

 それは――

 勇者として召喚された時に交わした契約書だった。

「実は、せんぱいが家を修理してる間に、三つも領土を取り戻したっす」

「……へ?」

 間の抜けた声が漏れる。

「喜ぶっす。借金が三百万セイン減って、残り四千七百万セインっすよ」

 あまりに突然の報告に、ロックは思考が追いつかない。

「俺、何もしてないけど……?」

「エリシアちゃんとノエルの功績っす」

「……」

 一瞬、固まるロック。

 そして――

「条件……緩すぎー!!」

 思い切り叫んだ。

「ま、領土の占拠の手段については“問わない”という契約っす。それに――」

 セラは淡々と続ける。

「エリシアちゃんとノエルを召喚したのはロックせんぱいっす。せんぱいの功績でもあるっすよ」

「……あの二人は、無事なのか?」

 ロックの声が少しだけ落ち着く。

「せんぱいよりピンピンしてるっす」

「本当か!……それならよかったぜ」

 ホッと胸を撫で下ろすロック。

 だが、次の瞬間――

「で、俺が二人の元へ行って助けに行くんだな!」

 キラキラした目で言い放つ。

「違うっす」

 即答だった。

「足手まといのせんぱいが行ったら、勝てる戦いも勝てないっす」

「何だとー!!」

 ロックは再び拳を天に突き上げる。

 ――ボフッ

「うおっ!?」

 コートが反応し、内側が膨らんだ。

 衝撃吸収の機能が、無駄に発動していた。


「じゃあ、戦場ってどこだよ」

 振り上げた拳を下ろしながら、ロックが聞く。

「せんぱいが神の時に残した遺産を使うっす」

 セラは、意味ありげにそう言った。

「遺産って……俺はまだ死んでねーぞ!」

「神としては死亡のままっす」

「ちっ……で、その俺の遺産って何だよ。負の遺産しか心当たりはねーぞ」

「せんぱいらしいっすね……」

 セラはため息混じりに言いながら、再び一枚の紙を出現させる。

「……地図?」

「ここ辺りにあるはずっす」

「俺の遺産が……?」

 そこには――

 人間領と魔王領の中央よりやや南東、人間領寄りの位置に、バツ印が記されていた。

 東に人間領。西に魔王領。

 領土は、もともときっちり五十ずつで分けられている。

 北・中央・南の三列を東西に十六分割で四十八領土。

 残り二つは東西の中央、人間領と魔王領の境界に置かれた、まるで盤上の陣取りゲームのような配置。

 ――その中央より南東。

 押し込まれている人間領側に近い場所へと、印は付けられていた。

「遺産って、何があるんだよ……」

「それも忘れてるっすか?」

 セラは呆れたように言うと、ロックの前に映像を映し出す。

「レッツ、再生っす」

 ジジジッ――

 ・・・

 ・・・

 ・・・

『ゴーレム……か。一体だけ課金するかな』

 カタログを操作しながら、軽い調子でユニットを選ぶロック。

『あ、少しズレた……仕方ない……』

 失敗しても気にしない。

『ま、囮になるだろ』

 戦況への興味も薄い。

 ――それでも。

『……俺のゴーレムのおかげだろ?』

 勝利に便乗して胸を張る。

『へ、へぇ……やれば出来るじゃん』

 思った以上の結果に戸惑い。

『やっぱり、俺の奇襲作戦成功だ! あはははっ!』

 謎の高笑い。

 ・・・

 ・・・

 ・・・

 ジジジッ――

 第四話参照。

「分かったっすか?」

「俺すげぇな」

「は、はい……ロ、ロック様、凄いです」

「全然違うっす!」

 セラの鋭いツッコミが、その場に響き渡った。


 ロックとミーナは、何度も何度も映像を再生していた。

「分かるか? ミーナちゃん」

「ロ、ロック様が……大活躍してます」

「だよな〜」

 ――同じやり取りを、何度も繰り返す二人。

「せんぱい、もういいっすか?」

 呆れたようなセラの声。

「何だよ……」

「本題っす」

 セラは仕切り直すように言う。

「ゴーレムっす、ゴーレム」

「あぁ、大活躍した俺のゴーレム……」

「……あの後、ゴーレムは召喚されたのに命令がなくて、一度も起動してないっす」

「……なに?」

 ロックの顔が固まる。

「私が命令を出しても動かないっす。だから――」

 一拍。

「召喚者であるせんぱいが、直接ゴーレムの所に行って命令するっす」

「そこは……人間領?」

「魔王領っす」

 あまりにもあっさりと告げられた。

「俺が一人で……?」

「ミーナっちを連れて行くっす」

「わ、わわ、私……?」

 突然名前を呼ばれ、ミーナがビクッと肩を震わせる。

「ミーナちゃんが戦えるわけ……ないだろ!」

 ロックは即座に否定する。

「イクスパンダを狩ったのは、ミーナっちっすよ」

「……へ?」

 ロックはゆっくりとミーナの方を見る。

 すると――

「か、狩るのが……た、大変でした……」

 モジモジしながら答えるミーナ。

「え? ミーナちゃんが……? 魔獣を……?」

「は……はい……」

 ミーナは一度奥へと下がり、何かを手に戻ってくる。

「こ、これで……」

「……弓?」

 それは、ミーナの身長と同じくらいの大きな弓だった。

「ミーナっちは【狩人】の役職も手に入れていたっす」

「な、何で……?」

「そ、素材を買う……お金がなかったから……」

 ミーナは【裁縫師】でありながら、素材不足で裁縫が出来なかった。

 だから――

 自分で素材を集めるしかなかったのだ。

「け、剣とかは……近付かないとダメだから……こ、怖くて……」

「それで……弓?」

「今じゃ、弓の持ち手の部分、弦、グローブも全部自作っす。精度も威力も桁違いっすよ」

 セラが淡々と補足する。

 ――またしても。

 ロックの想定とは、まるで違う方向に成長していた。

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