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第二十八話 召喚されし者たち

 ――天界。

 オードンは、静かに下界へと通信を繋ぐ。

 ジジジッ――

「いるか? アルベルト、ゲン、マルコ、イリヤ、ベイル」

 呼びかけられたのは、各地に散らばる五人の男たち。

 魔王として召喚された“元・人間”。

 姿こそ人間そのものだが――

 その頭には、この世界の魔王を象徴する“巨大な角”が生えている。

 それが、彼らを魔王たらしめていた。

「珍しいなぁ、あんたからの通信なんて……」

 どこかのビル跡地にいるベイルが、気だるげに応じる。

「状況が変わった。人間側の担当が代わったんだ」

 オードンは簡潔に告げた。

「それでは、前線が急に押し戻されたのも……?」

 村の宿にいるゲンが問いかける。

「恐らく、今前線にいる勇者の影響だろう」

 淡々とした分析。

「勇者レインは厄介だったが、その後の奴なんか瞬殺だっただろう……?」

 駐屯基地にいるマルコが、拳を握りながら不満げに言う。

「今は人間領の奥深くが戦場となっている。移動距離が長い我々が不利になるのは避けられん」

 オードンの言葉に、空気がわずかに張り詰める。

「では、どうするのだ?」

 軍を率いて進軍中のアルベルトが、静かに問いかけた。

「ここは一度、態勢を整える。無理に攻めず――前線の維持だ」

 その判断に、

「えぇ〜? ヤダよ。宝玉が手に入らないじゃん……」

 前線で待機していたイリヤが、子どものように不満を漏らす。

「現場のことは、お前たちに任せている」

 オードンは一拍置いて、続けた。

「俺の言葉は、“アドバイス”だと思って聞いてくれ」

 最終的な判断は――彼ら自身に委ねられる。

 通信の向こうで、それぞれが思考を巡らせる。

 魔王領は――

 現場主体で動く組織だった。


 会議室を出たオードンは、その足で作業場へと向かった。

 ガチャッ――

 扉の先に広がるのは、遥か上空。

 まるで盤面のように広がる世界を、一望できる空間だった。

 その一角――

 人間領側の席に、セラの姿がある。

「オードンせんぱい、こんちわっす」

「あぁ……」

 短く応じ、オードンは椅子に腰を下ろす。

 魔王領側から見えるのは、占拠した範囲のみ。

 それ以外――人間領の内部までは、視認できない仕組みになっていた。

「ロックが居なくなって数日経つが、慣れたか?」

「ま、ボチボチっすね〜」

「ボチボチ……か」

 オードンは小さく呟く。

(勇者軍が強くなったのは……セラに代わってから……)

 戦況の変化が、頭をよぎる。

「ロックせんぱいがだらしなかったっすからね〜……色々大変っすよ」

 セラは書類をパラパラとめくりながら、軽い口調で答える。

 だが――

「でも……せんぱいが残していった勇者たちは、みんな優秀っすよ」

「……みたいだな」

 オードンは、静かに頷いた。

 戦場で感じた“違和感”が、ここで確信へと変わる。

「あいつ、本気でやってなかったのか……」

「ロックせんぱいは本気っすよ」

 即答だった。

「本気で、“女の子の勇者は戦わせるつもりはなかった”っす」

 その言葉に、オードンの視線がわずかに動く。

「その結果、長い期間クエストをしてて……スキルがバンバン育ってたっす」

 セラは断言する。

 そして――

「ここからは巻き返すっすよ、オードンせんぱい」

「……望むところだ」

 オードンは、ふっと笑みを浮かべた。

 戦う理由は違えど――

 盤上の戦いは、まだ終わっていない。

「……ところで」

 ふと、思い出したように口を開く。

「ロックはクビになって、その後はどうしてるんだ?」

 オードンはまだ知らない。

 ロックが――勇者として下界にいることを。

「さぁ? 今ごろは魂のまま彷徨ってるんじゃないっすかね〜……」

 セラは、あっけらかんと答えた。

 その言葉に――

「お前より、ロックの方が楽だったな……」

 オードンは、ぼそりと呟く。

 静かな空間に、その一言だけが――小さく響いた。


 セラは、一人の少女を見つめていた。

 ふわっとしたショートヘア。

 小柄で、どこかあどけなさの残る少女。

 だが――

 その背中には、なぜかミシンが背負われている。

 腰やポケットには裁縫道具がぎっしり詰め込まれ、

 着ている服はワッペンだらけ。

 補修の跡が目立つそれは――

 むしろ彼女らしい、愛嬌になっていた。

 手には、袋いっぱいの生地の切れ端。

 どうやら、廃棄予定の素材を集めてきたらしい。

 少女は工房へと入り、

 袋を机の上に置く。

 さらに、背中のミシンも下ろそうとして――

「おっとっとっ……」

 ぐらり、と体が傾く。

「あ、あぶなかった〜」

 何とか持ち直し、ほっと息をつく。

 やがて――

 集めてきた生地を机の上に並べ始める。

「これとこれ、合いそう……あっ、これもいいかも……」

 色を見比べながら、楽しそうに組み合わせていく。

 その机の端には――

 様々な布が縫い合わされたパッチワーク作品が、何枚も積まれていた。

 ジジジッ――

 不意に、通信のノイズが響く。

「ミーナっち、聞こえるっすか?」

「へっ? あっ……神様、き、聞こえてます……!」

 ミーナと呼ばれた少女は、慌てて手に持っていた生地を机に置き、

 なぜか背筋をピンと伸ばす。

「頼んでいた服は、どうっすか?」

「はっ……はい。それが……いい素材が……なくて……」

「最初は何でもいいっすよ〜」

「ダ、ダメです……ロック様は……こだわりが強いお方なので……」

 必死に首を振るミーナ。

 そう――

 彼女もまた、ロックが選んだ勇者の一人。

 “裁縫師”の役職を与えられた少女だった。

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