第二十七話 新たな影
セリーナは、さらに警戒を強める。
(新手か……にしては、こいつらとは違って、統率が……)
オーガは手足を動かせず、地面に倒れ込んでいる。
「グググッ……」
その横で――
ゴロゴロと、ロックの頭部が存在をアピールしていた。
「おーい、こっちだ〜!」
「ロック! 連れてきたよ」
ココがロックを見つけ、手を振る。
「あれは……人形師?」
状況が飲み込めず、セリーナは眉をひそめる。
そして――
ココの後ろから現れたのは、
ザッザッザッザッ――
王国の鎧に身を包んだ、十名ほどの騎士たちだった。
「間に合ったか〜」
ロックは安堵の声を漏らす。
突入前、こっそりココへ通信を入れていたのだ。
もちろん――それも“課金”によるものだった。
「どういう事だ?」
「俺が頼んでたんだよ。もしものために」
「……そうかい」
セリーナは小さく頷くと、オーガと誘拐犯たちを騎士へ引き渡した。
「あとは、お願い……」
騎士たちは手際よく犯人たちを拘束し、そのまま連行していく。
「事件解決へのご協力、感謝する」
騎士からクエスト報酬を受け取るセリーナ。
だが、彼女はそれを確認することもなく――
そのまま廃屋へと駆け出した。
ギィー……
「ターニャ!」
結界の中へ向かって叫ぶ。
駆け寄ろうとする――が、
「まだ……結界が解除されていない……」
足を止める。
結界は、依然として残ったままだった。
「あいつ……!」
セリーナは踵を返し、結界男のもとへ詰め寄る。
「おい! 結界を解除しろ!」
「……するかよ……」
男は不敵に笑う。
「あの結界は解かねーよ……」
「キサマ……! 殺すぞ……」
セリーナは短剣を抜き、その刃を男の首元へ突きつけた。
だが――
「俺が解除しない限り、死んでもあの結界はあのままだ……」
にやり、と歪んだ笑み。
「餓死するまでなぁ〜」
「何!?」
その言葉に、セリーナの目が見開かれる。
「はははははーっ!」
結界男は高らかに笑いながら――
絶望に染まるセリーナの表情を、愉しむように見つめていた。
「結界は解除できる……てめぇの悪あがきも無駄なんだよ」
ココに抱えられたまま、ロックは結界男へと言い放つ。
「誰かは分からんが……ハッタリだな」
結界男はキョロキョロと周囲を見回し、声の主を探しながら鼻で笑う。
「スキルっていうのはなぁ――天界からの力を下界で具現化してるだけなんだよ」
「はぁ?」
下界の人間が知らない事実。
ロックは続ける。
「つまり、お前のスキルを天界から遮断すれば――解除できるってわけだ」
「へっ! そんな事が出来るやつは、神だけだろうよ」
馬鹿にしたような口調。
だが――
「そうだろうな」
ロックはあっさりと肯定し、通信を繋ぐ。
ジジジッ――
「セラ。聞こえるか……?」
「せんぱい、聞こえてるっすよ」
「この結界を解除したい……金を貸せ」
「相変わらずっすね〜。いいっすよ〜」
ピピピッ――
通信越しに、軽快な電子音。
「振り込んだっすよ〜」
「サンキュー、セラ。愛してるぞ〜」
「……キモいっす。きっちり五千万セインに戻ったっす」
「ぐっ……」
いつも通りのやり取り。
だが、その裏で――力は整った。
ロックはココに抱えられたまま、結界の前へと向けられる。
「……“遮断”……」
その一言と同時に――
天界から流れ込んでいた力が、ぷつりと断たれる。
バチッ……
静かな音とともに――
結界は、跡形もなく消え去った。
「バ、バカな……」
結界男の顔が歪む。
「こいつは用済みだ。連れて行け……」
ロックの一言で、騎士たちが動く。
誘拐犯たちはまとめて拘束され、そのまま連行されていった。
セリーナは、誘拐されていた女性たちのもとへと駆け寄った。
「ターニャ!」
「セリーナ!」
二人はそのまま、強く抱き合う。
「セリーナちゃん、その子のために必死だったんだな……」
「全く……セリーナ嬢、私は“潜入”としか言ってないっすのに……」
セラですら、今回の展開は想定外だった。
「こっちに来てから、最初に出来た親友だもの。探すに決まってるでしょ!」
セリーナは気丈に言い放つ。
だが――その瞳には、うっすらと涙が溜まっていた。
やがて――
誘拐されていた女性たちは、騎士の護衛に守られながら、それぞれ帰るべき場所へと戻っていく。
その様子を見届けてから、
「ココ……金がないけど、身体治して?」
ロックが遠慮なく頼み込む。
「えぇ〜……全身修理は万はいくよ〜」
「ケチ〜」
軽口を叩くロック。
その横で――
「……私が出すよ」
セリーナが静かに言った。
そして、先ほど受け取った報酬を、そのままココへと差し出す。
ココは中身を確認し、
「いや……こんなには必要ないよ」
と首を振る。
「じゃあ、余ったらソイツに渡しな」
セリーナは、ロックを指差した。
「セリーナちゃんの報酬だろ?」
ロックは戸惑う。
「アンタがいなきゃ……助けられなかったんだ」
まっすぐな視線。
「アンタには……受け取る権利はあるよ」
「でも……」
「騙されてただけだったとしても、アンタがこの件に絡んでなければ――ここまで来れなかったんだ」
一歩、距離を取るセリーナ。
「アンタの手柄だ……」
そう言い残し――
セリーナはターニャと共に、街の中へと消えていった。
その背中を、しばらく見つめたあと――
「……工房に戻るか……」
「そうだね」
ココに連れられながら、
ロックは静かに歩き出した。
遥か西の地――魔王領。
「オーガのやつ、失敗しやがって〜!」
バキッ――!
苛立ちのままに、机を蹴り飛ばす一人の男。
「魔王として召喚されたってなぁ〜……中身は人間なんだよ、こっちは!」
吐き捨てるように言い放つ。
男は――魔王の一人。
「人間の若くて可愛い女と楽しみたいよ〜」
まるで子どものように、駄々をこねる。
そこへ――
「ベイル様、オードン様から指示があります」
配下の声が、静かに響いた。
「……はいはい、今行くよ」
不機嫌そうに返事をすると、
ベイルと呼ばれた魔王は――
そのまま、闇の中へと姿を消した。




