第二十五話 誘拐犯のリーダー
パカッ、パカッ、パカッ――
ガタンッ。
ヒヒィーン!
馬車が、荒々しく停止した。
後方の荷台から――
一人の、ガタイのいい男が降り立つ。
「おい! 見張りはどうしたっ!」
御者席から、細身の男も慌てて降りてきた。
「誰もいない……?」
「ちっ……女を確認しろ!」
「わ、分かった。リーダー」
命令を受け、細身の男は廃屋へと駆け込む。
バタンッ――
――すぐに、戻ってきた。
「女はいるぜ。結界はそのままだ」
「周りを見てこい!」
「は、はい!」
細身の男は廃屋の周囲を警戒しながら回る。
――そして。
「リ、リーダー! こ、これ……!」
「何だよ……」
廃屋の裏。
そこにあったのは――
拘束された三人の男。
そのうちの一人は、魔族の姿のままだった。
「襲撃にあったのか……だが……」
リーダーの男は、ゆっくりと視線を廃屋へ向ける。
その奥――捕らえられた少女たちへ。
「まだ、近くにいるぞ! 警戒しろ!」
「は、はい!」
細身の男は武器を構え、周囲へと神経を張り巡らせる。
その様子を――
セリーナは、離れた場所から静かに見ていた。
(細身の男……大したことなさそうね……)
視線を移す。
(リーダーの方は……強い)
その存在感は、明らかに異質だった。
(セリーナちゃん、リーダーのあの気配は……魔族だ)
(……やっぱり……)
確信に変わる。
だが――
二人同時に警戒されている状況。
隙が、ない。
セリーナは身を潜めたまま、動けずにいた。
セリーナはポケットから玉を二つ取り出し――
迷いなく、二人へと投げ放つ。
ボンッ……ボンッ……
モクモク……
白い煙が、一気に広がった。
(神経麻痺のガスよ……)
「何だっ!……毒か?」
「んっ……!」
細身の男が咄嗟に口を押さえる。
だが――
「うぉぉぉーっ……!」
ガタイのいい男が、腕を大きく振り回した。
ブォンッ――!
その一振りで、ガスが強引に霧散する。
「……無事か?」
「……あぁ……」
(ウソでしょ!? 腕力だけで……?)
セリーナの表情が僅かに揺らぐ。
「炙り出すか……」
低く呟くと、男は全身に力を込め始めた。
ミチッ……ミチッ……
ビキッ……ビキッ……
ゴゴゴゴゴォォォ……
不気味な音と共に――
その身体が、膨れ上がっていく。
筋肉が膨張し、骨格が軋み、皮膚が引き伸ばされる。
やがて――
それは、人の姿ではなくなった。
(……何よ……?……あれ)
(オーガだ……低級魔族だが……あそこまでデカいやつは珍しいな……)
ロックの声が、わずかに緊張を帯びる。
オーガと化した男は、ゆっくりと振り返り――
森の奥を睨みつけた。
「その辺か……?」
ズザッ――
地面を素手でえぐり、砂利を掴み取る。
「フンッ!!」
バババババッ!!
投げ放たれた砂利が、弾丸のように森へと突き刺さる。
「えっ!?」
グラッ……グラッ……
ドシーンッ!!
木々が、なぎ倒される。
一粒一粒が、木の表面を削り取る威力。
それが密集して直撃すれば――
巨木ですら、耐えきれない。
(ちょっと!……隣の木だったら落とされてたわよ……)
距離にして二十メートル程度の木の上なのいるセリーナ。
セリーナの頬を、冷や汗が伝う。
圧倒的な力。
単純だが、凶悪すぎる。
オーガの暴力は――
確実に、セリーナを追い詰めていった。
(このままじゃ見つかるな……だったら、こっちから攻めないと……)
セリーナは、静かに打開策を巡らせる。
(あのオーガ……一対一なら何とかなる……)
(だけど、その前に細身の男を倒したい……隙を作らないと……)
ふと、肩から下げたショルダーバッグへと視線を落とす。
(邪魔くさいな……捨てるか……)
――その時。
脳裏に、セラの言葉が蘇る。
『ま、困ったらせんぱいを使うといいっすよ』
(こいつを……使う?)
(……そうか!)
セリーナの目が、鋭く細められた。
(おい、あいつらの気を引いて。その間に細身を倒すから)
(……分かった。それじゃ……)
――次の瞬間。
セリーナはロックの返答を最後まで聞かず、頭部を鷲掴みにする。
ヒュー……
「うぉぉおーい!! 俺を使うって……そういう事じゃねーだろー…………!」
ボトンッ……コロコロッ
オーガの前に、ロック【頭部】が転がった。
「な、何だ……?」
「あ、頭……?」
――その一瞬の隙。
セリーナの姿が消える。
音もなく、細身の男の背後へ。
(……もらった!)
勝負を決める一撃――
その直前。
セリーナの目に光が見えた。
バチッ!!
「キャッ!」
全身を貫く衝撃。
まるでスタンガンのような電撃が、セリーナの身体を強制的に停止させる。
ガクッ――
力が抜け、その場に崩れ落ちる。
「危ねえ危ねえ……こいつか、襲撃犯は」
細身の男の足元には、薄っすらと魔法陣が発動していた。
(……これは……結界?)
(こいつの……スキル!?)
身体が動かない。
指先一つ、動かせない。
セリーナは、完全に行動不能へと追い込まれていた。
「リーダー! 襲撃犯の一人を捕まえたぜ」
(セ、セリーナちゃん!?)
「よくやった。まだいる可能性がある。引き続き警戒しろ」
指示を受けたオーガは、再び森の中へと視線を巡らせる。
ザッ……ザッ……
周囲を探るように、ゆっくりと歩き出した。
(よくも……セリーナちゃんを……)
転がったままのロックの目に――
静かに、だが確かな怒りの炎が宿る。




