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第二十四話 暗殺者の戦い

 頭部は、ショルダーバッグにすっぽりと収まった。

「これは……私がヤバい奴に見えないか?」

「人形の頭って言えばいいよ」

 セリーナの疑問に、ココは平然と答える。

「間違ってはいないけど……」

 セリーナは、ショルダーバッグの“中身”を覗き込む。

「お〜い、外が見えないよ……」

「我慢しろ!」

「ん……こうすればいいかな?」

 ココはハサミを持ってきて、ちょうど目の高さに二つの穴を開ける。

「……いいの?」

「たくさんあるから、いいよ」

「うわっ! 刃物危なっ!」

 こうして準備が整った二人は、犯人の視界の元へと向かった。

「犯人から離れすぎたら見えなくなるから、気を付けて」

「……分かった」

 セリーナはショルダーバッグを肩に掛けると――

 次の瞬間。

 ひゅっ――

 あっという間に屋根へと駆け上がった。

「うおっ!」

 ロックの視界が大きく揺れる。

「うるさい。邪魔だし……」

 セリーナは、音もなく屋根の上を駆けていく。

「は、速い……」

 ショルダーバッグが速度に引っ張られ、頭部ごと激しく揺れる。

「き、気持ち悪……」

「ちょっと! 吐かないでよ!」

「うぅぅ〜……」

「ちょっと!!」

 ――まったく隠密行動になっていなかった。


 目的地に近付いてきた。

 セリーナは近くの建物の屋根へと降り立ち、静かに周囲を見渡す。

「うっぷ……気持ち悪い……」

「……もう、あんたはお役御免じゃない?」

 端末に映る景色と、実際の視界。

 その一致が、ここが目的地であることを示していた。

「……こんな所に……置いてかないで……」

「ったく……だったら静かにして」

「……はい」

 元神とは思えない情けなさだった。

 端末に映る廃屋。

 その窓の奥に――

 わずかに人影が見える。

「中に人がいるわね。行方不明の女の子……かしら?」

 セリーナは画面を凝視する。

 だが、はっきりとは確認できない。

 肉眼でも周囲を見渡すが、似たような廃屋が多く、特定は困難だった。

「もう少し……近づくわよ」

「うぅ……うん……」

 ロックはまだ気分が悪そうに呻く。

 セリーナは息を潜め――

 音もなく屋根を移動する。

 ・・・

 ・・・

 ・・・

「なかなか集まらないよな……」

「目標まであと十人くらいだけど……」

「近くの解体が進んでるから、ここもいつまで保つか分からないよな」

 怪しい男たちの会話が聞こえてくる。

 その中の一人。

 ――ロックを襲った魔族だった。

 今は人間の姿に戻っているが、間違いない。

(あいつが魔族だ……他のやつは分からないけど、魔族の可能性もあるよ)

 ロックは小声でセリーナに伝える。

(今のところ、三人……魔族とお供AとB……ってところね)

「リーダーたちはいつ来るんだ?」

「馬車の手配をしてくるってさ」

「じゃあ、今日移動するのか……」

 やがて三人は、それぞれ持ち場へと散っていく。

 一つの廃屋を囲うように、監視を続けていた。

(リーダー……いない内に片付けるか)

 セリーナの瞳が、鋭く光った。


 セリーナは、三人の死角へと滑り込むように移動する。

 怪しい男Aは、退屈そうに欠伸をしていた。

 ――その瞬間。

 スッ……

 音もなく背後に回り込み、首元へと手刀を当てる。

 トンッ――

 男Aはその場で崩れ落ちた。

(早っ……)

 ロックが思わず心の中で呟く。

 セリーナは無駄のない動きで男Aを拘束する。

(こいつは……人間かもしれないから)

 手加減も判断も、的確だった。

 そのまま、次の標的――男Bへと向かう。

 男Bは退屈してきたのか、タバコを取り出していた。

 カチッ……カチッ……

「ちっ……」

 火が点かない。

 そのとき――

 ザッ……ザッ……ザッ……

 足音が近付いてくる。

(こっちに来る!?)

 距離が詰まる。

 そして――

「おーい、ライターある……?」

 廃屋の角に差し掛かった、その瞬間。

 セリーナは一気に間合いを詰めた。

 シュッ――

 神経麻痺の毒を噴射。

「ガッ……」

 男Bの身体が揺らぐ。

 フラッ――

 パシッ。

 倒れる直前、その身体を支える。

(危なかった……)

 静かに地面へと寝かせ、すぐに拘束。

 そして、再び影へと溶け込む。

 ――直後。

「おい! タバコ吸ってないで、リーダーと連絡とれ……何だ!?」

 残る一人の男が異変に気付く。

 拘束された二人を見た瞬間――

 その姿が変わった。

 グニャリ、と。

 人の皮が剥がれ落ちるように、魔族の本性を現す。

(あいつは……殺していい……)

 セリーナの瞳が冷たく細まる。

「ちっ……女を取り戻しに来たのか……」

 魔族の男は周囲を警戒し――

 ズズズッ……

 影の中へと沈み込んだ。

(……消えた!?)

 視界から完全に消失する。

 同じく姿を消しているセリーナ。

 互いに“見えない”状況。

 緊張が張り詰める。

 ――そのとき。

 ズズズッ……

 セリーナの背後の影が、わずかに揺らいだ。


 ショルダーバッグの中――

 ロックは《千里眼》で、魔族の位置を捉えていた。

「セリーナちゃん、後ろ!!」

 その声に、二人が同時に反応する。

「バカイケメンの声!?」

「そこね……」

 バシッ――!

「ガハッ……!」

 セリーナの蹴りが、背後へと叩き込まれる。

 その一撃は――

 まるでアラベスクのように、美しく。

 そして、容赦がなかった。

 魔族であっても、悶絶するほどの威力。

 地面に叩きつけられ、男は動きを止める。

「こいつは……殺さなきゃ」

 セリーナの手が、わずかに震える。

 ガタガタッ……

 相手が魔族とはいえ――

 “命を奪う”ことへの抵抗が、確かにあった。

「セリーナちゃん、無理するなよ」

 ロックが、静かに声をかける。

「先に女の子の無事を確認しようぜ」

「……そうね」

 セリーナは小さく頷き、

 魔族の男を拘束し、神経麻痺の毒を打ち込む。

 そして――

 廃屋の扉へと手をかけた。

 キィ……

 軋む音と共に、扉が開く。

 その中には――

 結界。

 そして、その内側に閉じ込められた少女たち。

「ターニャ!」

 セリーナが駆け寄る。

 だが――

 バチッ!

「痛っ……!」

 見えない壁に弾かれる。

「セリーナ! 大丈夫?」

 結界の中から、ターニャが駆け寄ってくる。

「結界か……厄介だな」

 ロックが低く呟いた、そのとき――

 パカッパカッパカッ……

 ガタンッガタンッガタンッ――

 荒れた道を走る音が近付いてくる。

「リーダーってやつが来たのか……?」

 セリーナの表情が引き締まる。

「ターニャ! 絶対に助けるからね。待ってて」

 そう言い残し、廃屋の外へ。

 迫り来る馬車へと、鋭い視線を向けた。

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