表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/72

第二十二話 スカウトマン

 ロックと怪しい男は、そのまま路地裏の奥へと進み――一軒の建物へと入った。

「ん?ここ、紙に書いてある場所じゃないのか?」

「あぁ、ここは俺たちの事務所。紙に書いてある場所は、女の子たちの事務所だ」

 中は、がらんとしていた。

 大きめのテーブルが一つ。

 パイプ椅子が三脚だけ置かれ、残りは壁に立てかけられている。

 生活感のない空間。

 どこか、不気味な静けさが漂っていた。

「何もない事務所だな?」

「あぁ……始めたばかりの仕事だからな。まだ物が揃ってないんだよ……」

「ふぅん……」

 ロックは興味なさそうに返す。

 すると、男は一枚の紙を取り出した。

「これに必要な情報を書いてくれ」

「は?」

「一緒に仕事するんだ。知らないと、こちらも困るんだよ……」

「……分かったよ」

 サラサラサラ――

 ロックは特に疑いもせず、紙に記入していく。

「ほいっ」

「ん〜、どれどれ……まぁいいかな……あれ?」

「どうした?」

「お兄さんの住所……こんな所に家なんかあったの?」

「……ボロ屋だ……」

「……あんた、どうりで金に困ってるわけだ……」

 男は納得したように頷く。

(ま、こいつなら裏切りは無さそうだな……)

 ロックの現状を見て、警戒を解いた様子だった。

「明日からでも頼むよ、お兄さん」

「あぁ、稼ぎまくるぜ」

 ガシッ――

 二人は固く握手を交わす。

 そしてロックは、そのまま事務所を後にした。

 ――危うさを孕んだまま。

「……リーダー……えぇ、えぇ、分かってます。明日にでも集まりそうです……」

 静まり返る事務所で、それでも聞こえづらい小さな声が、外の風の音とともに消えていく。


 勧誘用のチラシの束を抱え、ロックは家へと向かっていた。

 その足取りは――軽い。

「明日には金持ちだな。そしたら街に近い家に引っ越しだな。ワハハハ〜っ!」

 すでに未来はバラ色である。

 ジジジッ――

「……せんぱ〜い」

 セラからの通信が入る。

「なんだよ」

「クエスト、やってるっすか?」

「やってるよ! でもなぁ、俺だって自主的に仕事を探してるんだぜ」

「それは良いことっすね」

「まぁ見てな。俺は明日から大金持ちだ」

「おぉ、すごい自信っす。期待しないでおくっすよ」

 ジジジッ……プツンッ

 通信は一方的に切れた。

「……見てろよ、セラのやつ……そのポジションは……俺のだ!」

 天界での立場すら取り戻すつもりで、ロックは拳を握る。

 そして――その日は終わった。

 ――

 ――

 ――

 翌朝。

 ロックは早々に街へと繰り出していた。

「わぁ、イケメンに声かけられた〜」

「私も〜!」

「こんなおばちゃんにまで声をかけてくるなんて、ね〜」

 チラシを受け取る女性たちは、皆楽しそうに騒いでいる。

 ロックにとっては、年齢など誤差の範囲。

 何百年も生きてきた神の感覚では――

 全員“若い女の子”だった。

「そこの君。モデルにならないか?」

「君はアイドルになれるよ」

「スーパースターの素質があるよ」

 サッ、サッ、サッ――

 軽快な手さばきでチラシを配っていく。

 やがて昼頃になると――

 ロックの周囲には、小さな人だかりが出来ていた。


 その人だかりを、少し離れた場所から静かに観察する一人の少女がいた。

 艶のある黒髪を、腰まで伸ばした美貌の少女。

 冷たい印象を与える整った顔立ちに、感情の起伏はほとんど見えない。

 引き締まったしなやかな体。

 無駄のない所作。

 露出の多い装いでありながら、色気よりも――近寄りがたい空気を纏っていた。

 少女は、一人の女性に声をかける。

「それ……見せてもらっても……いい?」

「あげるわよ。私はこういうの向いてないから〜」

 あっさりとチラシを渡される。

 少女はそれを受け取り、目を通す。

「……見つけた……」

 短く呟き、再び視線を人だかりへと向ける。

 カツッ……カツッ……カツッ……

 ヒールの音が、喧騒の中でもはっきりと響く。

 人混みを割り、一直線に中心へ――

「……あんた……」

 その先にいた人物を見て、少女の目がわずかに見開かれる。

「え? あー、セリーナちゃん!」

 ロックの軽い声。

 ――二人は、知り合いだった。


 セリーナと呼ばれた少女は、チラシをロックの目の前に突き出した。

「これは何?」

「何って……モデルやアイドルにならないか?ってチラシだよ」

 ロックは、悪びれる様子もなく答える。

 ――その瞬間。

「まさか……あんたとはね!」

「な、何?」

「あんたのこと、信用出来なかったが……ここまでクズだったとはな……」

「セリーナちゃん! 何か……勘違いだ」

「勘違いなもんか……」

 セリーナの腕に力が入る。

「あんたを捕まえろって……クエストだよ!」

 ガシッ――

 セリーナはロックの胸ぐらを掴み上げた。

「ま、待て待て待て……落ち着けよ」

「逃げる気だろ!」

 周囲の視線が一気に集まる。

「こ、ここじゃ何だから……!」

 ロックは慌ててセリーナを引き、路地裏へと姿を消した。

 ――取り残された人だかり。

「あら〜、もう終わり?」

「何かよく分からなかったな……」

「イケメン見れたし、いっか〜」

 ざわめきは徐々に収まり、人々は散っていく。

 手にしていたチラシは――

 クシャッ。

 そのまま丸められ、ごみ箱へと投げ捨てられていった。

 そして、その様子を遠くから見つめる影が一つ。

(目立ち過ぎだ、あのバカイケメン……事をデカくしやがって……)

 ズズズッ

 影から姿を現す。

 ――昨日、ロックに近づいてきたあの男だった。

(リーダーに……伝えなきゃ……)

 そのまま奥へと消えていった。


 路地裏で、セリーナがロックを鋭く睨みつける。

「あんたね、セラって神が、あんたと入れ替わったってだけ伝えてきたけど……」

「色々事情があるんだよ」

「その事情ってのが“誘拐事件”ってこと!?」

「な……?」

「あんた……若い女の子が好きだもんね〜……」

「何のこと……」

(あれ? そういえば……どこかで聞いたな……女の子が行方不明って……誘拐……行方不明……)

 その瞬間――ロックの中で、点と点が繋がった。

(あ、あいつ……誘拐犯だったのか!? 俺……ハメられた……? ヤバい……ヤバい……ヤバい……)

 ロックの顔から、冷や汗が伝う。

 女性に危害を加えるなど、ロックの中ではあり得ないことだった。

 この状況を打開する案を、ロックは必死に考えを巡らせていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ