第二十一話 それぞれの天職
カンッ、カンッ、カンッ――。
ドドドッ――。
カラカラカラ……。
今日も廃墟では、解体作業が続いていた。
「よぉ、兄ちゃん。今日も来たな」
「おぅ、また奥の小屋をやらせてもらうぜ」
「気を付けろよ!」
ロックは奥の小屋へと向かう。
昨日は二往復。
それでも、小屋はまだ原型を留めている。
一人で解体するには――一ヶ月はかかりそうだった。
「……やるか〜」
気の抜けたロックの声が、廃墟の奥――静かな空間に、ぽつりと木霊した。
――
――
――
「ハァ、ハァ……くそーっ!」
バリバリバリッ――
「あーっ!」
バキッ、バキッ――
「うぉおぉーっ!」
ガンッ、ガンッ、ガンッ――
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」
ロックは荒い息を吐きながら、解体作業を続けていた。
解体した廃材を金に換え、不要なものは転送する。
そして木材だけを選び、家まで運ぶ。
(くそっ……関節がギシギシ言ってるぜ……)
バフがかかっているとはいえ、連日の酷使。
紙装甲のボディは、確実に悲鳴を上げ始めていた。
(……一度、ココのところに行くか……)
ロックは木材を運び終えると、その足で人形師の工房へと向かった。
カン、カン……
キィィィン……
カチャ、カチャ……
今日も外まで響く作業音。
カランコロン――
「いらっしゃいませ〜、ロック」
「ココ、ちょっとボディを見てほしいんだが……」
「どうしたの?」
「小屋の解体と木材の運搬しててな……全身が軋むんだよ」
「どれどれ?」
ココはロックの身体を確認する。
触れて、動かして、状態を見極めていく。
「うん、負荷がかかって接続部が緩んできてるね。締めればすぐ良くなるよ」
「頼めるか?」
「了解!」
ココは工具を手に取り、メンテナンスを開始する。
ギィギィギィ……
キュッキュッキュッ……
「ロック。最近、女の子が行方不明なんだって」
「そうなんだ……」
「気にならないの?」
「俺、男の子だし……」
「サイテーだな……」
ギィギィギィ……
キュッキュッキュッ……
「はい! 終わったよ」
「サンキュー」
「全身メンテで三千セインね」
「サービスしてくれよ」
「サービスして三千なんだよ!」
「……はい」
ロックは渋々金を支払い、再び廃墟へと向かっていった。
エリシアは休憩を挟みながらも、補給基地で癒しのスキルを使い続けていた。
衛生兵の中にも回復スキルを持つ者はいる。
しかし彼らの多くは前線に帯同しており、補給基地は常に人手不足だった。
「北の戦線から負傷者が到着しました!」
「また……」
癒しても、癒しても減らない負傷者。
――いや、むしろ増え続けている。
その中で――
「エリシア様、ありがとうございます。おかげさまで戦線に復帰できます」
「まだ無理は……!」
「また……勇者様が来てくれたんです。押し返せますよ」
「また……?」
兵士の言葉に、エリシアは目を見開く。
「勇者レイン様がいてくれたので、押し込まれてもギリギリで耐えられました」
――かつて、この地で魔王軍と戦った勇者。
「レイン……今、その人は……?」
「宝玉を十個集めて……元の世界へと戻っていきました」
「元の世界……本当に……」
“帰れる”という話が、ただの希望ではなく現実であると知る。
(帰れる……そのためには……)
エリシアは、拳を強く握りしめた。
「必ず……生きてここに戻ってきて。私が……傷を癒やすから!」
その言葉は、誰かのためであり――
同時に、自分自身の覚悟でもあった。
戦場で傷ついた者たちを救う、もう一人の勇者。
――癒しの勇者、エリシアが、この瞬間に生まれた。
――ロックの、本日の成果。
木材運び、三往復。
報酬、一万五千セイン。
食費、三食で三千セイン。
メンテナンス、三千セイン。
「あんだけやって九千かよ〜。昨日は七千だし……」
差し引きの現実に、ロックは肩を落とす。
トボトボと、ボロ屋へと帰る道すがら――
「お兄さん、凄いイケメンだね〜」
「あ?」
どこからともなく現れた、怪しげな男。
「当たり前だろ」
疲労もあってか、ロックは露骨に不機嫌な態度を取る。
「なんか〜、稼ぎが悪そうだね〜」
「てめぇには関係ねーだろ?」
「そんな怒るなって。関係あるんだよ」
「あ?」
男は周囲を見回し、小声で続けた。
「いい仕事があるんだけど、お兄さんほどのイケメンなら適任なんだよ」
「なに?」
“いい仕事”――
そこに“イケメン”という単語が乗った瞬間。
(……天職……!)
ロックの中で、妙な確信が芽生える。
「どんな仕事だよ。いくら稼げる?」
「お?聞いてくれるかい?それなら……」
男は、人気のない路地裏を指差した。
二人は、そのまま奥へと進んでいく。
路地裏に入る瞬間、怪しい男の影が揺らいだが、ロックは気付かなかった。
「で、どんな仕事?」
「簡単だよ。街の若い女の子に声をかけて、いい仕事を紹介するだけだよ。」
「紹介?」
「しかも“王都公認”だから、安全安心」
「へぇ~」
「この紙を渡してくれればいい」
「どれどれ……」
ロックは紙を覗き込む。
(“王都公認!!あなたもモデルやアイドルになれる!トップを目指そう!”……か)
(……王都もエンタメに力を入れだしたか……)
「で、俺の報酬は?」
「紹介した女の子が、実際に事務所に来てくれれば――一人につき十万だ」
「何ィ!?十万も!?」
「あっ!シーッ……声がデカいよ」
「あぁ……悪い」
慌てて口を抑えるロック。
「どうだい?女の子も稼げて、俺たちも稼げる。王都もハッピー! 最高の仕事だろ?」
「……そうだな」
男はさらに畳みかける。
「イケメンのお兄さんなら、たくさん女の子を紹介してくれるだろうから」
「……俺の“天職”」
「そうだ!」
――その瞬間。
ロックは、明らかに“ヤバい仕事”へと足を踏み入れようとしていた。




