第十八話 家を直そう
その日はすでに遅い時間になっていたため、一旦解散となった。
「ノエルちゃん、またね〜」
ロックは軽く手を振る。
「ノエルちゃん、またね」
エリシアは控えめに頭を下げた。
「ノエル、また指示を出すっす。よろしくっす」
セラは一転して、仕事モードの声で告げる。
「……分かった……それまで……ここで……?」
「そうっすね。ここで仕事してスキルを磨くっす」
ノエルは静かに頷いた。
三人は定食屋を後にする。
その後、エリシアを教会まで送り届け――
「エリシアちゃんも明日、指示を出すっす」
「う、うん……」
そして、教会を後にするロックとセラ。
帰る場所は一つ。
そう――
あの、ボロボロの廃屋のような家に。
家に帰ってきたロックとセラ。
――だが。
そこにあったのは、もはや“家”と呼べる代物ではなかった。
壁は崩れ、屋根は抜け、雨風を防ぐことすらできない。
ほぼ屋外と言っても過言ではない状態だった。
「おい。この家、会社の経費で直せないのか?」
「いや、せんぱいが勇者用にって決めた家っす。無理っすね」
「何とか出来ないのかよ……」
家の中にいながら、ロックは夜空を見上げる。
ヒュ〜……
ガタッ……ガタッ……
「うぅ〜……こんなんじゃやる気出ねーよ……」
「自業自得っす……」
セラは、空中に映し出されたリストを見ていた。
スッ……スッ……スッ……
スライドさせていた手が、あるページで止まる。
「おっ、丁度いいクエストがあるっすよ」
「またクエストかよ……」
「“廃墟の解体と片付け”っす。しかも、廃墟で拾った資材は持って帰っていいっす」
「なに?……まさか……?」
ロックは、嫌な予感がしていた。
「クエストして報酬をもらいながら、資材を貰って家を修復するっす。一石二鳥っす」
「自分で直せってのかよ! めんどくせー……」
頭を掻きながら、ボロボロの椅子に腰を下ろすロック。
「明日から頑張るっす。私は天界に帰るっすから」
「何!? お前も手伝うんじゃねーのかよ!」
セラの突然の宣言に、ロックが顔を上げる。
「当たり前っす。神は天界から指示を出すだけっす。……せんぱいもそうだったっすよね」
「あ……」
言葉を失うロック。
ずっと側にいる存在だと思っていた。
だが――
セラは神。
天界から勇者を導く“側”の存在。
かつては、自分がいた場所だった。
「ま、他の勇者にもサポートの指示は出すっすから、心配しなくてもいいっすよ」
「お、おい……」
「じゃ、またっす」
ひらりと手を振り、セラは去っていく。
「ま、待てよ……」
残されたのは――
ボロ屋と、ロック一人。
ついさっきまでの賑やかさが嘘のように、静寂が広がる。
その静けさの中で――
ロックは、初めて強い孤独を感じていた。
「おい! 急に一人にするなよー…………!」
「よー…………」
「よー……」
「……」
ロックの叫びは、虚しく反響して消えていく。
「くそっ」
誰からも返事はない。
「はぁ……仕方ねーから寝るか……」
こうして、ロックの長い一日は終わりを迎えた。
勇者として召喚され、神ではなくなり――
ボディは壊れ、ブタになり、子どもに追い回され。
家はボロ屋、街では金も借りられない。
「ロクな一日じゃなかったけど……」
だが――
同じ勇者のエリシアとノエル。
助けてくれるリベットやココ。
そして、これから出会うであろう人たち。
それを思い浮かべると、不思議と胸が高鳴る。
「……やってやる!」
ロックは拳を握りしめる。
「すぐに借金返済してやるぜ! 待ってろよ、天界……」
・・・
・・・
・・・
――翌朝。
ジジジッ、とノイズが走る。
「ん……?」
ジジジッ。
「もしも〜し。ロックせんぱ〜い?」
セラからの通信だった。
「うぅ〜……何だよ〜……セラか……」
「クエスト、忘れずに行くっすよ」
「分かってるよ、うるせーな……」
「行く前に、ノエルの定食屋に行って食事をするっす」
「……え? そりゃいいけど、何でだよ」
「あの子の料理は食べたらバフがかかるっす。紙装甲のせんぱいでも、力仕事が出来るっす」
「そうなのか? ま、ノエルちゃんに会えるなら、言われなくても会いに行くさ」
「頼んだっすよ〜」
ジジジッ……プツンッ。
通信が途切れる。
「クエストはめんどくせーけど……よし! ノエルちゃんの店に行こう」
ロックは上機嫌で立ち上がり――
ボロ屋を後にした。
ノエルの定食屋に着いたロック。
カラカラッ――扉を開ける。
「ノエルちゃん、来たよ〜」
ロックの声が店内に響く。
「……セラから聞いてる……もう出来てる……」
すでにテーブルには、料理の数々が並べられていた。
「おぉ、美味そう! いただきま〜す」
ガツガツガツッ。
モグモグモグ。
(いつも……いい食べっぷり……)
ノエルは、ロックの様子を見つめる。
――
――
――
「ごちそうさま」
「……どうも……クエスト……ガンバ……」
「おう、行ってくるぜ!」
ロックは勢いよく立ち上がる。
そのまま店を後にし、廃墟へと向かっていった。
その身体には、料理によるバフの力が満ちている。
力が漲る感覚。
――今日こそは、やってやる。
そう言わんばかりに、ロックは歩き出した。
そこで死闘が行われる事になるとは、この時のロックはまだ知らなかった。




