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第十六話 人形師とイケメン

 カン、カン……

 キィィィン……

 カチャ、カチャ……

 外まで響く、もの作りの音色。

「ここです」

 工房の入り口は大きなガラス張りで、中の様子がよく見えた。

 カランコロン――

「こんにちは」

 店内に入ると、カウンターには小さな少女が座っていた。

「あっ! エリシア、いらっしゃ〜い!」

 カウンターから飛び出してきたのは、ポニーテールに大きな瞳、工具を携えた元気な少女だった。

 エリシアの周りを、ぴょんぴょんと飛び回る。

「人形師って、このちびっ子か?」

 ロックが眉をひそめて言う。

「ちびっ子じゃないよ! ココだよ! おじさん!」

「おじ……よく顔を見ろ。イケてるだろ」

「中身はおじさんじゃん。分かるよ」

 ココは鋭い視線でロックの身体を見つめる。

「ココちゃん、こんちわっす」

「セラちゃん、久しぶりだね〜!」

 どうやらセラとも顔見知りらしい。

「せんぱい。ココちゃんはこう見えて百歳は超えてるっすよ」

「なにっ?」

「ちょっと、セラちゃん! 歳は言わないでよ〜」

「ドワーフっすから」

 その一言で納得するロック。

 カタンッ――

 工房の奥から音がした。

「ココ、客か?」

 現れたのは、立派な髭と鋭い目を持つ小柄なドワーフだった。

「父さん! セラとエリシアだよ。それに……」

 その姿を見た瞬間――ロックの目が見開かれる。

「お前……まさか……リベット!?」

「てめぇは……ロック!……何しに来たんだよ、クレーマーめ」


 ロックとリベットは、互いに一歩も引かず睨み合っていた。

「ココ、二人は知り合いなの?」

 エリシアが小声で尋ねる。

「あのボディ、父さんが作ったんだよ。でもその時……」

「その面見ると、叩き壊したくなるぜ!」

「お前の腕が悪いから、何度も何度も作り直したんだろ?」

「お前のオーダー! 何だ、あれは!」

 リベットは苛立ちを隠さず、一枚の紙を叩きつけた。

 エリシアがそれを拾い上げる。

「……え?」

 そこに書かれていたのは――

 ・課金あり

  かっこいい顔

  かっこいい顔ロングヘアー

  かっこいい顔ショートヘア

 ・課金なし

  高身長

  低身長

  細マッチョ

  ゴリマッチョ

「何、これ?」

「せんぱい、こんな適当なオーダーしてたんすか……」

「父さん、かっこいい顔ってオーダー見て、ドワーフの英雄をモデルに髭ボーボーで作ってね……何度も返却されたんだよ」

「かっこいい基準は人それぞれっすからね〜」

「リベット、お前は俺に感謝すべきだ。イケメンとは何かが分かったんだからな」

「けっ!あんなオーダー、てめぇしかいねーよ。とっとと帰んな!」

 吐き捨てるように言うと、リベットはそのまま工房の奥へと戻っていった。

「あ、ロックさんの手を……」

 エリシアが慌てて声を上げるが――

 その時には、もうリベットの姿はなかった。


 ココがロックの手をじっと見つめる。

「私が治そうか?」

 工具に手をかけながら、ココは静かに問いかけた。

「ココ、出来るの?」

「人型のボディは初めてだけど、手だけなら多分出来るよ」 

 その鋭い視線は、ロックのボディを捉える。

 かつて父が手掛けたそのボディ。

 父の技術。

 素材。

 可動部。

 ロックのボディ構造をほぼ見抜いていた。

「せんぱい、ココちゃんの腕は確かだよ〜」

「……まぁ、あの頑固親父よりは、ちびっ子の方がいいか……」

「ちびっ子じゃないって……」

 ピッ――

 工具のスイッチが入る。

 チュイィィィーン……

「言ってんだろうが……」

 ココの目が――本気だった。

「はい! さーせん! ココさん!」

 ロックはピシッと背筋を伸ばして返事をする。

(あれはマジの目だった……怒らせたらヤバい……)

 作り物のボディであるにもかかわらず、ロックは冷や汗をかくような感覚に襲われていた。


 テーピングで固められていた右手を、一度外す。

 ココは接続面をじっと見つめた。

「なるほど……ここが割れたのか……」

 コンッコンッ

 キュッキュッ

 コロンッ

 破損していたパーツが外れる。

「新しいのに……変えて……っと」

 キュッキュッ

「よし」

 腕の中には一本のワイヤーが残っていた。

「このワイヤー……」

 届かないのか、ワイヤーがココの手を何度もすり抜ける。

 額に汗が流れる。

「慌てんなよ」

 ロックのひと言が、ココの緊張を和らげる。

「ありがと!……ふぅ……よしっ!」

 再び集中するココ。

 その一瞬、一流を思わせる様な静かでキレのある動きを見せる。

「くっ……もうちょっと……」

 パシッ

 ようやくワイヤーを掴む。

「よし!」

 それを引き出し、手の側と繋ぐ。

「うん……あとは……」

 手と腕を接続する。

(……シンプルな作りだけど……拡張性が高い……)

 キュッキュッ

「よし! ロック、右手を動かしてみてよ」

「えっ……分かった」

 ロックは恐る恐る、右手を動かす。

 グーパー、グーパー。

「おぉ! 動く……動くぞ!」

「よっしゃ! じゃ、次は左手をやるよ」

 左手のテーピングも外し、接続面を確認する。

「……右手と同じだね」

 同じ手順で修理は進み――

 キュッキュッ

「よし」

「おぉ、左手も動く! ココ、やるなぁ」

「ドワーフの娘として、これくらいは楽勝だよ!」

 工具を片付けると、椅子からぴょんっと飛び降りた。

「ありがとう、ココ。代金を支払うよ」

「二千セインね。毎度あり〜」

 エリシアから受け取った金を、ココはレジに収める。

 ふと、ココの視線がロックに向いた。

「ところで、ロックのボディ……」

 じろじろと全身を観察する。

「おい! セクハラだぞ!」

「せんぱいが言うなっす」

「お金をかけてカスタムすれば、かなり強度が出る仕様だよ」

 そう言いながら、ココはロックの身体を軽く触って確認する。

「父さん、強度に課金されてないから手をつけてないけど、後からカスタム出来るようにしてたんだ」

「リベットさん、流石職人だね」

「せんぱいのこと、心配してたっすね」

「けっ! 俺の欲しいボディは、やつしか作れねーと思ったから頼んだだけ……」

 そこまで言って、ロックはハッと口を押さえた。

「ロックさん。リベットさんの技術、認めてたんですね」

「二人とも、素直じゃないんだから〜」

 ココはくすりと笑う。

 最初から――この二人の関係が、悪くないことを知っているかのように。


「ココ、サンキューな」

 ロックは、元通りに動くようになった手を軽く振る。

「金が貯まったら、また頼むぜ」

「はーい! またのご利用、お待ちしてまーす!」

「ココ、またね」

「ココちゃん、またっす」

 一行は工房を後にした。

 ――静かになった店内。

「……行ったか……?」

 工房の奥から、リベットが姿を現す。

「父さん。自分の作品なんだから、治してあげれば良かったじゃん」

「……あいつの対応は……ココ、お前がやれ」

「えっ?いいの?」

「あれは……顔はともかく、俺の傑作のボディだ。お前が見て、触って、学べ……」

「父さん……」

「一人前に……なれ」

「うん!」

 遠ざかっていくロックたちの背中を見つめながら――

 親子の物語も、静かに前へと進み始めていた。

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