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第十二話 聖職者と武闘家

 ――絶望。

 ロックは、その場から一歩も動けずにいた。

「これは、ダメっすね……」

 セラが小さく呟く。

 日頃の鬱憤を晴らせた満足感と――

 じわじわと広がる不安。

「はぁ……何とかせんぱいを動かさないと……」

 セラはため息をつく。

「私の給料も減給確定っすよ……」

 ロックの引き継ぎによる特別手当は出るものの、あくまで一時的なもの。

 このまま領土が増えなければ――

 いずれセラも巻き添えで減給になる。

 つまり。

 ロックは、どうしても動かさなければならない存在だった。

「どうするっすかね〜?」

 頭を抱えた、その時だった。

 少し離れた場所から、一人の少女が歩いてくる。

 ふわり、と。

 腰まで伸びた淡い銀髪が、静かに揺れる。

 透き通るような白い肌。

 澄んだ青の瞳が――

 立ち尽くすロックを、真っ直ぐに捉えた。

「……え? か、神様……?」

 少女の声が震える。

「なんで……?」

 その少女は、五人の勇者の一人。

 “聖職者”の役職を与えられた存在。

「いつもは……月に一回程度……だったのに……」

 ロックは、給料日にだけ下界へ降りていた。

 ――目的は、もちろん。

 四人の女勇者に会うためである。

「エ……エリシアちゃん……?」

 一瞬の間。

「エリシアちゃーん!!」

 ロックの目が、カッと見開かれる。

 絶望の底に現れた――

 まさに“聖女”。

「え……? ちょ……ひ、ひぃ〜!」

 ――逃げた。

 エリシアは全力で踵を返す。

「お〜い、エリシアちゃ〜ん!」

 追いかけるロック。

「あっ! 待つっす〜!」

 さらに追うセラ。

 人の気配が消え、静まり返った街に――

 ドタドタドタッ!

 三人の足音と叫び声だけが、虚しく響き渡った。


 三人は教会の中で、荒い息を整えていた。

「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」

「はぁ……はぁ……はぁ……」

「ひぃ〜……ひぃ〜……」

 ロックの呼吸は、明らかに一番ひどい。

 イケメンボディの耐久は――限界が近かった。

「エ、エリシアちゃん……」

 ロックが息も絶え絶えに声をかける。

「なんで……逃げるんだよ〜……」

「か、神様が追いかけてくるから……つい……」

「人望ないっすね〜、せんぱい」

「ね、猫が……喋った!?」

 エリシアが目を見開く。

 逃げることに必死で、今まで気付いていなかったらしい。

「始めましてっす」

 セラがぺこりと頭を下げる。

「私はロックせんぱいの後任の神のセラっす」

「後任の……神様?」

「チッ……」

 ロックが小さく舌打ちする。

「せんぱいは、もう神じゃないっす」

 一拍。

「君と同じ、召喚された勇者っす」

「勇者……?」

 エリシアの表情が固まる。

「……ん?」

「なんですか? 勇者って……」

「あちゃ〜……」

 ロックが額に手を当てる。

「ちょ、せんぱい!」

 セラが振り返る。

「何も説明してないっすかー!!」

 その後――

 セラは事情をすべて説明した。

「戦うなんて危険だろ?」

「君は街でこそ光る!」

「ここにいるのが幸せなんだ!」

 ロックは横で必死に言い訳を並べていたが――

「せんぱいが召喚しといて何を言ってんすか?」

 セラのツッコミが鋭く突き刺さる。

 当然。

 エリシアには、一切響かなかった。

「つまり……」

 エリシアが、ゆっくりと口を開く。

「……魔王軍と戦って領土を奪えば……帰れるんですね」

 その視線は――

 キッ!

 まっすぐロックを射抜いていた。

「そうっす」

 セラが頷く。

「でも……怖いよ……それに私の役職は……」

 エリシアが視線を落とす。

「俺を癒すための役職だ」

 間髪入れずに、ロックが割り込む。

 そして――

「さぁ、エリシアちゃん」

 ニヤリと笑う。

「俺を……癒してくれ」

 ――バキッ。

「ぐほっ……」

 鈍い音と共に、ロックの身体が吹き飛んだ。

 エリシアの蹴りが、完璧なフォームで決まっていた。

 ゴロゴロゴロ……

 床を転がるロック。

 教会の中に、静寂が戻る。

「……武闘派っすね」

 セラがぽつりと呟いた。


「エリシアちゃんのステータス、確認するっす」

 セラの瞳が、すっと細められる。

 その視線に捉えられた瞬間――

 エリシアのステータスが、淡い光となって空中に浮かび上がった。

「おぉ!」

 セラが声を上げる。

「“聖職者”だけじゃないっすね」

 一拍。

「“武闘家”の役職もあるじゃないっすか」

「え……?」

 エリシアが目を瞬かせる。

「ちょっと待てよ! 俺はエリシアちゃんには戦って欲しくないんだよ……」

 ロックは戸惑いを隠せない。

 どうやら意図的に戦闘系の役職は与えていなかったらしい。

「どこで覚えたんすか?」

「覚えた……というより……」

 少しだけ考えてから、エリシアは答える。

「召喚される前に、空手を少々……」

「へぇ」

 セラは興味深そうに頷いた。

 役職は、神に与えられるものだけではない。

 経験によって、その場で習得することもある。

 ――そして。

 この場の誰も気付いていないが。

 エリシアは日々、ロックを踏みつけ続けた結果、武闘家の素質を開花させていた。

「決まりっすね」

 セラが、ぱん、と手を打つ。

「エリシアちゃんは戦闘スキル持ちっす」

 ロックをちらりと見る。

「そして、こっちは雑魚勇者っす」

「おい」

「なので」

 セラは、にこりと笑う。

「二人で組んで、魔王と戦って下さいっす」

「エリシアちゃんと一緒?」

 ロックが顔を上げる。

「俺は嬉しいけど……危険だろ……?」

「せんぱいより強いっすよ」

「えっ?」

「魔王と……?怖い……イヤだけど……」

 エリシアが即答した。

「フフフ……」

 セラの笑みが、ゆっくりと深くなる。

「今は――私が神っす」

 一歩、前へ出る。

 空気が、わずかに重くなる。

「強制だって……出来るんすよ」

 その瞬間。

 セラの瞳が、鋭く光った。

「ぐっ……わ、分かった……分かったから……」

「うっ……」

 ロックとエリシアの身体が、わずかに震える。

 言葉にされない圧力。

 抗えない“上位存在”の気配。

 普段の軽い口調からは想像もつかない。

 だが――

 セラは紛れもなく“神”。

 この場を支配する、絶対的な存在だった。

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