第十一話 外見特化の金策
ロックは、地面に散らばったパーツを一つ一つ拾い集めていた。
腕。
脚。
そして――胴体。
「これで……全部か?」
「そうみたいっすね〜」
セラは、のんびりと答える。
拾い集めたパーツは袋に詰められ、ロックがそれを背負う。
一方で――
セラは神のスキルを使い、クローゼットを軽々と浮かせて運んでいた。
「おい!」
ロックが振り返る。
「神のスキルで、こっちも運べよ!」
「そこまでサービスはしないっすよ」
「くそぉ〜っ……!」
ズシッ、と肩に重みがのしかかる。
「関節がギシギシ言ってるぜ……」
「新しいボディもバラバラになるっすか?」
「その時はブタ出せよ」
「いやっす」
「チッ……」
軽口を叩きながらも、足取りは重い。
やがて――
二人はボロ屋へと戻ってきた。
「ふぅ〜……やっと着いたぜ……」
ロックは袋をドサリと床に下ろす。
「よっ……と」
セラもクローゼットを部屋の隅へと置いた。
ギシギシと音を立てる床。
相変わらずのボロ屋である。
「で、このバラバラ、どうするんだ?」
「人形師に頼むしかないっすね〜」
セラはポケットから、小さな袋を取り出した。
「これ、勇者に渡す支度金っす」
「おっ、忘れてたぜ。確か……十万セインだったよな」
ロックは袋の中を覗き込む。
――そして、固まった。
「……」
「天引き後っす」
「……一万」
空気が凍る。
「借金、残り四千九百九十一万セインっすね」
現実が、容赦なく突きつけられる。
「……」
ロックは無言のまま、袋を見つめる。
震える手。
わずか、一万。
「ちなみに」
セラが、追い打ちをかける。
「修理費、多分一万セインっすね〜」
「スッカラカンになるじゃねーか!!」
ボロ屋に、絶叫が響き渡った。
「ボディの修理は一旦やめだ」
ロックは、なけなしの一万を見つめながら決断した。
「金を手に入れる方法……やっぱ、あれしかないな……」
「おっ?」
セラが耳をピクリと動かす。
「そう言えば、当てがあるって言ってたっすね」
「まぁな」
ロックはニヤリと笑う。
「これも、日頃の行いが良いからな」
「その当て……当てになるんっすか……?」
「行けば分かるさ――」
胸を張り、堂々と宣言する。
「はははははーっ!」
(怪しすぎるっす……)
セラは半目で呟いた。
――そして。
二人は街へと向かった。
街に入ると、見慣れた人々が声をかけてくる。
「お? ロックさん、今日も来たのかい? 珍しいな」
「あら、本当ね〜」
先日とは違うボディ。
しかし――
誰も、その違いには気付かない。
イケメンボディシリーズは、顔がほぼ同じなのだ。
そのせいで、ロックは街全体で顔馴染みになっていた。
「おう。事情があってな」
ロックは軽く手を上げる。
「しばらく、こっちに住むことになったぜ」
「本当かい?」
「あらあら、色男が住んでくれるなんて嬉しいね〜」
街の人々は、好意的に笑う。
――その瞬間。
ロックは、間髪入れずに切り出した。
「それでよ」
一拍。
「金がねーから貸してくれよ」
「…………」
沈黙。
「…………」
もう一拍。
――スッ。
「……え?」
――スッ。
「……ちょっ……」
――スッ。
「……な……?」
気付けば。
そこにいたはずの人影は、綺麗さっぱり消えていた。
「おい!?」
ロックが辺りを見回す。
「何でいなくなるんだよ!!」
「……日頃の行いっすね〜」
セラが、呆れたように呟いた。
「チッ! あいつら、俺のイケメンで得してただろうが!」
「なんすか? イケメンで得って……」
「あ?」
ロックは当然のように言い放つ。
「目の保養に決まってんだろ!」
一拍。
「タダで保養してたんだ、金くらい貸せよな!」
「アホっすね……」
「だろ? あいつら――頭わりーんだよ!」
「いや……せんぱいがっす……」
「……何だと……?」
ロックの眉がピクリと動く。
しかし――現実は受け入れない。
そのままズンズンと街の奥へ進んでいく。
「やぁ、ロックさん」
「ロックさん、こんにちは」
「ロックさん、今日もイケメンだね〜」
再び集まってくる街の人々。
ロックはニヤリと笑った。
(ほらな……やっぱり俺は人気者だ)
「おう」
軽く手を上げ――
「ちょっと金が足りなくてな、みんな貸してくれよ」
「…………」
一瞬の静止。
――スッ。
――スッ。
――スッ。
誰も、何も言わずに消えていく。
「お、おい! 待てよ!」
ロックが手を伸ばすが――
誰もいない。
「もう居ないっす……」
セラが淡々と告げる。
「な、なんで……?」
ロックはその場に立ち尽くした。
「初回サービスで私も付いて回ってるっすけど」
セラが腕(前足)を組む。
「全然ダメダメじゃないっすか」
「くそっ!」
ロックは頭をかきむしる。
「勇者はどうやって金借りてたんだよ!」
「勇者はお金、借りないっす」
あっさり。
「何?」
「じゃあ、どうやって……?」
「魔族を倒すと、お金が勇者に自動で振り込まれるっす」
「……何だって?」
ロックの動きが止まる。
この世界の勇者は、召喚されたイレギュラーな存在。
そのため――
まるでゲームのように、天界から管理されていた。
「いや、これマニュアルに書いてあるっす」
「……勇者の項目なんて興味なかったんだよ」
「でも」
セラがじっと見る。
「せんぱいの紙装甲ボディじゃ戦えないっすよね〜」
「……兵士を使えばいいだろ」
「人望もないっす」
「てめぇ……」
即死級の正論だった。
「あとはクエストっすね」
「……クエスト?」
「まぁ、人助けっす」
一拍。
「せんぱいには一番向いてない金策っすね」
「ぐっ……」
的確すぎる一言。
クエスト――
それは、人助けをすることで天界から報酬を得る仕組み。
勇者に与えられた、もう一つの収入源だった。
「人助け……って」
ロックはボソリと呟く。
「まずは俺を助けろよ……」
「お金を貸すクエストなんか、誰もやらないっす」
「くっ……」
ロックは拳を握りしめる。
借金。
戦えない。
人望ゼロ。
金策――全滅。
すでに、詰んでいた。




