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第十話 豚に真珠、ロックにブタボディ

 ボロ屋の中。

 一匹のブタが、ぐったりと横になっていた。

 外からは、子どもたちのはしゃぐ声が聞こえてくる。

「……セラに見捨てられたら……」

 ブビッ……ブビッ……

 それが泣き声なのか、ただの鳴き声なのか。

 もはや本人にも分からない。

「……俺が……何したって言うんだよ……」

 ――原因は全部お前だ。

 そんなツッコミが入りそうだが、本人は一切気づいていない。

 見事なまでのクズである。

 カタッ。

「……セラ?」

 わずかな物音に、ロックが顔を上げる。

 しかし――

「おい!このボロ屋、入れるぞ!」

「マジで!? 俺たちの秘密基地にしよーぜ!」

「えー? でも誰かの家って聞いたぞ?」

「そんなわけねーじゃん、こんなボロ屋!」

(な、何だ……ガキどもか……?)

 バタバタバタッ――

 子どもたちが、遠慮なく中へとなだれ込んできた。

「あー! ブタがいる!」

「マジ?」

「ほんとだ……」

「げっ……」

 ロックの全身に、緊張が走る。

「おい! 捕まえてやろうぜ!」

「今日は豚肉だぜ!」

「えー? 捕まえられるかなぁ……」

(か、囲まれた……!)

 じりじりと距離を詰めてくる子どもたち。

「くっ……!」

 次の瞬間――

 ドンッ!!

 ロックは壁へと突進した。

 バキィッ!!

 そのまま壁をぶち破り、外へと飛び出す。

「よし! このまま逃げるぞ!」

「あっ! 逃げたー!」

「追えー!!」

「わっ、ちょっと待って〜!」

 ロックは、ただひたすらに走った。

 ――夢中で。

 だから、気づかなかった。

 自分の身体の“強さ”に。

 セラが用意した予備ボディ。

 それは、見た目こそブタだが――

 耐久性は、かなり高い。

 本来なら。

 神のスキルすら扱えるほどの性能を持っていた。

 だが――

「ヤベぇって!! ガキども、マジでヤベぇ!!」

 ブタは逃げる。

 必死に逃げる。

 子どもから。

「た〜すけ〜て〜!!」

 ――元・神は、落ちる所まで落ちた。


 ブビッ……ブビッ……

「ま、まだ……追ってくる……!」

 背後から、子どもたちの声が迫る。

「あっちだー!」

「行けー!! 捕まえろー!!」

「ちょっと〜待ってよ〜!」

 ブビッ……ブビッ……

 走る。

 ただひたすらに、逃げる。

 息も絶え絶えになりながら――

 ようやく辿り着いた、その場所は。

「ブビッ……ブビッ……ここは……俺の……イケメンボディの……」

 ――現場だった。

 かつての自分の身体が、無惨にもバラバラに散らばっている。

 そこへ――

 子どもたちが、追いついた。

「わーっ!」

「何!? どうしたの……?」

「えっ……し、死体!?」

「バラバラ……」

「殺人……事件……」

「ギャーーーーッ!!」

 蜘蛛の子を散らすように、子どもたちは一斉に逃げ出した。

 あっという間に、静寂が戻る。

「……あ……」

「……助かった……?」

 ロックは、その場にへたり込んだ。

 これまでの人生――いや、神生で味わったことのない恐怖だった。

 その時。

 チーン――

 何もない空間に、軽い音が響く。

 次の瞬間。

 ピシッ、と空間に亀裂が入り――

 パキン、と割れた。

 その中から。

 大きな箱を抱えたセラが、ひょっこりと顔を出す。

「あれ? せんぱい。家で待っててって言ったっすよね? どうしたんすか?」

「セ、セラ……?」

 一瞬の静止。

 そして――

「セラぁぁぁぁぁ!!」

 ブビッ! ブビッ!

 ロックは勢いよく飛びついた。

 ブタのまま、猫のセラに抱きつく。

「うわっ!? ちょ、何すか急に!?」

 ブビッ……ブビッ……

 それは、泣き声なのか。

 それとも、ただの鳴き声なのか。

 ――もう誰にも分からなかった。


「お前! 何で俺を一人にしてんだよ!!」

「えっ? ……あ〜、気がついてないなら、それでいいっすけど……」

「何だよ! ハッキリと言えよ!」

「その前に、これっす」

 セラは、抱えていた大きな箱を指差した。

「あ……? 見覚えが……」

「せんぱいの部屋のクローゼットっす」

「なに?」

「せんぱい。新しいボディっすよ」

 テッテレー♪

 ――どこからか、そんな効果音が聞こえた気がした。

「おぉ〜……俺のイケメンシリーズ……!」

「イヤなネーミングっすね」

 ブタのロックは、箱の中を覗き込む。

 そして――一つを選び取った。

 次の瞬間。

 ブタの体から、光がふわりと抜け出し――

 イケメンボディへと流れ込む。

 ピクッ。

 指が動く。

 ゆっくりと、身体が起き上がる。

「お、おぉ〜……やっと……やっと戻れた……!」

 ロックは自分の身体を確かめるように、腕を回し、足を踏み鳴らす。

 そして――

 キメ顔。

「見ろ、この完璧なスタイル……!」

 サッ、とポーズを決める。

「せんぱい。同じボディ、何個持ってるっすか?」

「違うだろ! よく見ろ!」

「え〜?」

 セラはジロジロと観察する。

「……分かんないっす。興味もないっす」

「あ? 高身長イケメンボディだぞ!? この黄金比!」

「中身が借金まみれのオッサンだって知ってるっすからね……」

「ぐっ……!」

 痛いところを突かれる。

「まぁでも――」

 ロックは軽くジャンプしてみせる。

「ブタより百倍、動きやすいぜ!」

「じゃあ、返してもらうっす」

 セラは、地面に転がっていたブタのボディに触れる。

 そして――

 ふわり、と光に変え。

 小さな空間へと収納する。

「ちなみに」

 セラが、さらっと言った。

「私のボディ、強度マックスっすから。神のスキル、普通に使えたっすよ」

「……何?」

 一瞬、時が止まる。

「どうしたっすか?」

「……おい」

 ロックの顔が引きつる。

「それ……早く言えよォォォォォ!!!」

「え?」

「あんなに怖い思いしなくて済んだじゃねーか!!」

「……何のことっすか?」

 とぼけるセラ。

「ブタを寄越せ!! あれ俺のボディだろ!!」

「ダメっすよ。私のボディっす」

「ブタに戻せぇぇぇぇ!!!」

 ロックの絶叫が、虚しく空に響いた。

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