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第百十六話 神ロック

(オードン……アイツはどこまで知ってるんだ? 俺の過去を……)

 ――氷の魔導士。

「アリエス……」

 かつて神だった頃、自ら召喚した少女の名。

 王族として生まれながら、理不尽な陰謀に巻き込まれ、その若い命を散らした少女だった。

 ロックが、生まれて初めて「救いたい」と思った存在。

(世界樹を見た時も……同じ事を思い出したよな……)

 当時のロックは、勇者担当の神として将来を嘱望されるエリートだった。

(あの頃のオードンは……確か、勇者課だったよな……)

「ふぅ……」

 ロックは小さく息を吐き、静かに横たわるイリヤへ視線を向けた。

「……姿も性格も、全然似てねぇよな……」

 そう呟くと、約二百年前の記憶がゆっくりと蘇っていく。

(あの頃の俺は……勝つために必死だったな……)

 異世界へ召喚された勇者たちは、誰もが見知らぬ世界に戸惑い、不安を抱えていた。

 だが――

「皆様、大丈夫でしょうか?」

「はい! 次も頑張りましょう!」

 アリエスだけは違った。

 召喚されて間もないというのに、すぐに異世界へ馴染み、その明るさで仲間たちを笑顔にしていた。

 その様子を天界から眺めていたロックは――

(へぇ……楽しそうじゃん)

(俺も、あの輪に入りたいな……)

 そう思った。

 そして、ロックは下界へ降りてアリエスに会いに行った。

 ジャラジャラ……

「あ、ロック様! いつこちらへいらしたのですか?」

「さっきだよ……」

 アリエスはロックの姿を見るなり、くすりと笑う。

「流石に目立ちますね、そのお姿」

(そういや、この頃のボディは……今みたいなイケメンじゃなくて、普通のオッサンだったな……)

 ジャラジャラ……

 全身には、これでもかというほど派手な装飾品。

 神らしく見せようと、豪華さだけを追求した格好だった。

「……変か?」

「そうですね……神様とは思えないですよね」

「そ、そうか……」

 少しだけ肩を落としたロックは、その日のうちに天界へ戻った。

 そして、新しいボディを発注する。

(あの時、一番有名だった人形師――リベットに頼んだんだったな……)


「違うっ! 何度言えば分かるんだよ!!」

 人形師の工房中に、ロックの怒鳴り声が響き渡る。

「イケメンの顔を作れって言ってるだろ!」

「あぁ?」

 向かいにいたドワーフの男――リベットは、不満そうに眉をひそめた。

「作ってるだろうが! これ以上ないくらいのイケメンだ!」

「どこがだよ!」

 ロックは目の前の人形を指差す。

「髭モジャじゃねーか!!」

「そこがイケてるんだろ!!」

「違う!!」

「何だと!?」

「わーわー!!」

「ぎゃーぎゃー!!」

 ロックとリベット。

 二人の言い争いは、しばらく終わることがなかった。

 そして――

「……あら?」

 聞き慣れた声に、ロックは振り返る。

「もしかして……ロック様?」

「あ、あぁ……」

 そこに立っていたのは、アリエスだった。

 そして、彼女の前に現れたロックの姿は――

 以前の冴えない中年姿ではない。

 整った顔立ち。

 高身長。

 神々しさすら感じる容姿。

 新しく作られた、現在のイケメンボディだった。

「どうかな?」

 少し照れながら尋ねるロック。

 すると――

「……凄く素敵です」

 アリエスは優しく微笑んだ。

 その一言で、ロックは全ての苦労が報われた気がした。

 それからロックは、度々下界へ降りるようになった。

 もちろん――

 アリエスに会うために。

「なぁ……」

「はい?」

「その話し方……ちょっと堅くないか?」

 ロックは首を傾げる。

「もう王族じゃないんだから、もっと普通でいいんじゃねぇか?」

「え……?」

 アリエスは少し戸惑ったように目を伏せる。

「でも私……昔、話し方については、とても注意されておりまして……」

「そうなのか?」

「はい……」

 アリエスは少し恥ずかしそうに笑った。

 そんな何気ない会話。

 そんな穏やかな時間。

 二人の間には、確かに温かな日々が流れていた。

 ただ――

 それは、魔王軍との戦いの合間だけだった。

 当時のロックは、五人の勇者たちの活躍もあり、上位クラスで勝利を重ね続けていた。

 相手は、先輩や上司にあたる神々。

 それでも――

 ロックを止めることはできなかった。

 勝つために努力し。

 仲間を信じ。

 結果を積み重ねていく。

 あの頃のロックは、確かに輝いていた。

 そして――

 その姿を見ていた一人の神がいた。

 現在、天界を統べる社長。

 セラの父でもある――ゼス。

 当時のゼスは、ロックの上司として最上位クラスを担当していた。

 彼は、誰よりも近くでロックの活躍を見ていた。

「ロックは、いずれ大物になる」

 そう評価する声も少なくなかった。

 次期社長候補とまで噂されていたゼスに認められる存在。

 それを面白く思わない神々もいた。

 そして――

 当時、魔王担当の神だった男も、その一人だった。

 名は――

 オルドー。

 後にロックの運命を大きく変えることになる、もう一人の神だった。

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