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第百七話 決着

 ズズズズズ……

 魔法使いの杖へ、禍々しい魔力が集束していく。

「まずい……!」

 ミーナの表情が青ざめる。

 もう避け場はない。

 この魔法が放たれれば――終わりだった。

 その瞬間――

 スッ……

 魔法使いの背後へ、一つの影が音もなく忍び寄る。

「――捕まえた」

 セリーナだった。

 シュルッ――!

 ミーナが作り上げた拘束用のロープが、一瞬で魔法使いの身体を包み込む。

 ファァァ……

 ロープが淡い光を放った。

「グルッ!?」

 魔法使いの身体がビクリと震える。

 ズズズズ……

 集束していた魔力は霧散し、掲げられていた杖が力なく下がった。

 ガクッ……

 その場へ膝をつき、身体が小刻みに震え始める。

「動きが……止まった」

 セリーナは小さく息を吐く。

「良かった……このロープは効くわね」

 その声に反応するように――

「グルルッ!!」

 盾使いと短剣使いが、一斉に振り返った。

 その視線は、完全にセリーナへ向いている。

(今……!)

 ミーナは、その一瞬を逃さなかった。

 ダッ――!

 弓を背負い、懐から二本目のロープを取り出す。

 一気に短剣使いとの間合いを詰めた。

「お願い……!」

 シュッ――!

 ロープが放たれる。

 スルリ……

 短剣使いの身体を囲み、一つの輪となった。

 ファァァ……

 淡い光が再び森を照らす。

「グルッ……!?」

 短剣使いの動きが止まる。

 膝から崩れ落ち、その場で苦しそうに肩を震わせた。

「ハァ……ハァ……」

 ミーナは大きく息を吐く。

「これで……二人……!」

 残るは――

 盾使い、一人だけだった。


「グルルル……」

 盾使いは困惑したように首を動かした。

 前には――ミーナ。

 後ろには――セリーナ。

 ギロッ……

 前を見る。

 ギロッ……

 今度は後ろを見る。

 二人に挟まれ、どちらを狙うべきか判断できない。

 セリーナは剣を構えたまま、一歩踏み出す。

 ジリ……

 さらに一歩。

 ジリ……

 ミーナも弓を構えたまま、ゆっくりと距離を詰めていく。

 ジリ……

 逃げ場は、もうなかった。

 その時――

「リーダー!」

 森の奥から叫び声が響く。

「無事か!?」

 ザッザッザッ――!

 一人の剣士が森を駆け抜けてきた。

 その後ろには、十数人もの聖魔法の使い手たちが続いている。

 冒険者ギルドから駆け付けた援軍だった。

 その声を聞いた瞬間――

「……!」

 盾使いの身体が小さく震える。

 ゆっくりと振り返る。

 その先に立っていたのは――

 共に旅をしてきた仲間の剣士だった。

「リーダー……!」

 その呼び掛けは、闇へ沈みかけていた意識の奥底へ届いたのか。

 カラン……

 盾使いの手から、大盾が滑り落ちる。

 カランッ……

 続いて剣も地面へ転がった。

「今よ」

 セリーナは静かに歩み寄る。

 抵抗は、もうない。

 シュルッ――

 最後のロープが盾使いの身体を包み込む。

 ファァァ……

 淡い光が森の中へ優しく広がった。

 ガクッ……

 盾使いも力なく膝をつく。

 三人とも、もう動かなかった。

 セリーナは静かに息を吐く。

「……終わった」

 ミーナも安堵したように、その場へ座り込んだ。

「た、助けられた……」

 こうして――

 瘴気に侵された三人の冒険者は、ついに全員の拘束に成功した。


 張り詰めていた森の空気が少しずつ緩んでいく。

「はぁ……」

 ミーナは大きく安堵の息を吐いた。

 そこへ、セリーナがゆっくりと歩み寄ってくる。

「ごめん。早々に吹き飛ばされちゃって……」

「い、いや……無事で良かったよ……」

 互いの無事を確かめ合い、二人はようやく肩の力を抜いた。

 ――その時だった。

「……あっ」

 ピクリ――

 森の奥で、何かが揺らいだような不思議な気配を感じ取る。

「どうしたの?」

 セリーナが声を掛ける。

 ミーナはゆっくりと森の奥へ視線を向けた。

「い、今……誰か……」

 木々の隙間。

 そこに、一つの人影が立っていた。

 こちらをじっと見つめるように佇む、その姿。

「誰!?」

 セリーナも反射的に振り向く。

 しかし――

 フッ……

 人影は、まるで最初から存在しなかったかのように消えてしまった。

「消えた……?」

 ミーナは目を瞬かせる。

 敵意は感じなかった。

 むしろ――

(さっきの気配……悪い人じゃなさそうだったけど……)

 そう思った、その時。

 キラッ……

 人影が立っていた場所の足元で、何かが光った。

「……?」

 二人はその場所へ近付く。

 地面には、小さな物が一つ転がっていた。

 ミーナはそっと拾い上げる。

「な、何だろう……」

 手のひらにも収まるほどの、小さな不思議な物体。

 石にも見える。

 けれど、石とは違う。

 滑らかな手触りと、淡い光沢を放つその材質は、今まで見たことがなかった。

「それは?」

 セリーナが覗き込む。

 ミーナは小さく首を横へ振る。

「わ、分からない……」

 もう一度、森の奥へ視線を向ける。

 静まり返った木々が風に揺れるだけで、あの人影はもうどこにもなかった。

(あの人……一体……)

 胸に小さな疑問を残したまま、ミーナはその不思議な物を大切に握り締める。

 そして――

 拘束された冒険者たちと、彼らを迎えに来た仲間たちの元へ、静かに歩き出した。 

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