四話:登校
そして朝ごはんを食べ終わり、ゆっくりしていると学院の登校時間になった。
「じゃあ、いってきま〜す」
「いってきます」
「「いってらっしゃい」」
◇
二人で通学路を歩く。
「もうすぐ九月なのに、まだ暑いねぇ〜」
「うん。そうだねぇ〜」
この街は暑い。
村にいた頃は、もう少し涼しかった気がする。
「えへへ」
「何、急に笑って……」
「だってさ、お兄ちゃんとはいえ、男の子と一緒に登校するなんて夢みたいだから」
「昨日の始業式も一緒に登校したでしょ?」
「昨日は街の案内が中心で、あんまり話せなかったし……それに、ちょっと緊張してたから」
陽菜は少し照れたように笑う。
「昨日は、お兄ちゃんと登校するの恥ずかしかったけど……今日はなんか、恥ずかしいって気持ちよりも、嬉しいって気持ちの方が大きいかな?」
朝、起こすときに使った言霊が効いているのかな?
「男の子と登校するのが夢みたい、って言ってたけど。陽菜は彼氏とかいないの?」
「か、彼氏は、いないよ!」
陽菜は慌てたように手を振る。
「だってほら、私女子校に通っているから、いい出会いがないの。ああ、白馬の王子様現れないかな〜」
そして、じっとこちらを見る。
「そういうお兄ちゃんはどうなの?」
「僕? 僕も彼氏はいないよ」
「違うよ!?」
陽菜が思いきりツッコむ。
「お兄ちゃんの場合は彼氏じゃなくて彼女でしょ!……いや、でも多様性で彼氏がいても? でも妹としては、お兄ちゃんに彼氏がいるのは嫌だなぁ〜」
「多様性?」
「うん。なんか最近は、身体は男だけど、心は女みたいな人がいるの」
「あ……」
それ、多分。
僕たちの村の誰かが、この街に来たときに男の人へ
「女になれ」って言霊を使った影響です。
……もしそうなら、本当にすみません。
「何? どうしたの?」
「その……身体が男だけど、心は女っていう人がいるのは、この辺の地域だけ?」
「いや、違うよ。世界中にいるよ」
「それなら良かった」
じゃあ、多分、僕たち言霊使いのせいじゃない。
僕たちの村の人は、買い出しに来るとしても、この街くらいまでだ。もし僕たちが原因なら、世界中にそんな人がいるのはおかしい。
「良かったって何?」
「何でもないよ……気にしないで。それより、世界中にそういう人がいるって、どうやって知ったの?」
「普通にニュースだけど……」
「ああ、そうなんだ……」
ニュース。
そういえば、村の外にはインターネットというものがあるらしい。世界中の人と繋がれる、とても便利なものだとか。
もしそれを使えば、言霊を世界中の人に使うことだってできるのだろうか。
……いやいや。
そんなことする人、村にいるわけない。
うん。きっとそうだ。
僕たちは悪くない。
世界は、僕が思っているよりもずっと広くて、複雑なんだ。
「それでね、ニュースで言ってたんだけど」
陽菜が思い出したように言う。
「今まで普通に身体が男で、心も男だった人が、突然心が女になった、みたいな人も現れているらしいのよねぇ〜」
「あ、それって……」
「何? どうしたの?」
「……この話題はやめとこう」
「急にどうしたの? まぁ別にいいけど……じゃあ、そうだねぇ〜。あ、アレの話なんだけどさ……」
こうして僕たちは、学院に着くまで、陽菜と何気ない話をしながら歩いた。
◇
そして学院に着いた。
昨日は僕がこの学院に来たことでかなり騒がしくなったが、言霊の影響もあってか、今日は比較的静かだ。……それでも所々、ざわざわしているけれど。
「昨日の転校生、近くで見ると意外とかっこよくない?」
「うん。あれ、隣にいる人って彼女さん?」
「いや、あの子は確か妹だったと思うよ……」
「妹さん。いいなぁ〜。こんなかっこいいお兄ちゃんがいて……私もイケメンなお兄ちゃんが欲しい!!」
「わかるー!」
……うーん。
あまり内容ははっきり聞こえないけど、なんだか落ち着かない話題な気がする。
「やっぱり、お兄ちゃん注目されてるねぇ〜」
「そうだねぇ〜。まぁ、何日か登校したら、この騒ぎも落ち着くでしょ……」
「うーん。そうかなぁ?」
陽菜は少し首を傾げた。
「じゃあ、私は一年B組にいるから。困ったら訪ねてきてね!」
「うん。わかった。じゃあ、また」
そう言って陽菜と別れ、僕は自分の教室――二年A組へと向かった。
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