74.再会
了解。書く。
十一月に入ると、遊撃への臨時派遣が常態化した。
週に二回から三回、壁外に出た。初回のような偵察だけではなく、小型群の掃討や帰投路の安全確認も任務に含まれるようになった。
リュシアの役割は索敵と火力の両方だった。索敵で先を読み、遊撃班が展開し、取りこぼしや想定外の接敵にはリュシアが撃った。
その日の遊撃は、西方面の小型群の掃討だった。
壁外に出て四十分。索敵に引っかかった小型の群れを追い、班長の指示で展開する。リュシアは後方から索敵を張りながら、班員の死角に回り込んだ一体を横から撃ち落とした。
「右、クリア」
「了解。次」
コリン・ブレナーが先頭を走っていた。動きに迷いがない。リュシアの索敵を信用しているから、後ろを気にせず前に出られる。遊撃班の動きは、回を重ねるごとに噛み合ってきていた。
掃討を終え、帰投路を確認しながら壁に向かう。索敵を広げたまま歩く。異常なし。
「フォルティス中尉。後ろ、どうだ」
コリンが振り返らずに聞いた。
「反応なし。帰投路はクリアです」
「了解」
壁が見えた時、コリンが肩越しに笑った。
「やっぱ楽ですね。中尉がいると」
リュシアは返事の代わりに索敵を維持した。壁に入るまでは切らない。
壁に戻ると、そのまま迎撃配置に入った。
東区画から臨時要請が来ていた。小波の兆候があり、索敵を補ってほしいという。ハワードは既に了承していた。
外套の土を払う間もなく壁上に上がる。リンクを繋ぎ、索敵を開始した。
「東区画、索敵開始します」
「受領。南東方向を重点的に」
三十分後、小型の群れが壁に接近した。迎撃に切り替え、二体撃って索敵に戻った。波は小さかった。一時間で収まった。
壁を下りたのは夕方だった。朝から遊撃、午後は迎撃。身体は動いたし、魔力も持った。疲労はあるが、機能に支障はない。
夜間の索敵任務の前に食堂に向かうと、ミラがいたのでリュシアは驚いた。去年の今頃は食堂でオペ室の顔を見ることはもうなかった。
「今日はオペ室ではないのですか」
「今は交代が回るので。春の増員のおかげで、去年よりはだいぶましです」
「そうなのですか」
「去年は六時間眠れたらいい方でしたし、食事も仕事の合間に取ってた感じで」
「オペ室全員ですか」
ミラは少し黙った。
「……いえ、ハーウッド中尉は別です。抜けると困るので」
「そうですか」
「仮眠ベッドがオペ室の隣に置いてあって、ずっと詰めてました」
「それで休めるのですか」
「どうでしょうね。上がせめて一日四時間は寝るようにと管理してた状態です」
ミラはそこで少し気まずそうに視線を落とした。
「……今のは、ちょっとまずいですね。ここだけの話でお願いします」
リュシアは頷いた。それ以上は聞かなかった。
食べ終えたミラが席を離れる。
「フォルティス中尉」
呼び止められて振り返ると、オペ室の夜間担当の軍曹だった。
「今日の夜間索敵、第二補助観測点から西寄りに変更です」
「理由を伺ってもいいですか」
「南西帯の反応が薄いです。今夜は西壁寄りを見ます。詳細はこれを」
「了解しました」
軍曹はリュシアに紙を渡すと足早に去っていった。小さく折った紙には変更地点、時間と重点方位が書いてある。
「フォルティス中尉」
また名前を呼ばれた。振り返ると、見覚えのある立ち姿、フォルティス家の紋が入った外套が目に入った。
ユリウス・フォルティスだった。
リュシアは一瞬だけ間を置いて
「はい。ユリウス先生」
と答えた。ユリウスが口元を引き締めた。笑いを堪えているような顔だった。
「すみません。ちゃんと中尉をやってるんだなと思いまして」
「やっています」
「そうですね」
ユリウスは向かいの椅子を引いて座った。
「到着は今日ですか」
「はい。先遣が先週で、私は本隊と一緒に今日です。ずいぶんな活躍だと聞いていますよ」
「やれることをやっているだけです」
「そうですか」
ユリウスはリュシアの手帳と、外套についた土を見た。
「今日も出てたんですか」
「はい。遊撃と、午後に東区画の臨時支援がありました」
「両方?」
「はい」
「一日で?」
「はい」
ユリウスは少し黙った。それから穏やかな調子で聞いた。
「配置はどうなっていますか。全体像を教えてください」
「第三中隊所属で、遊撃と他区画支援に臨時で出ています。索敵の定点観測もあります」
「それは全部一人で」
「索敵は私しかできない範囲があるので」
「……そうですか」
ユリウスはそこで一度言葉を切った。切ってから、少し軽くした。
「まあいいでしょう。食べましょう。食べられていますか?」
「はい。食べています」
「それはよかった」
二人で食事をした。ユリウスは砦の配置や増援の到着状況について聞きながら、合間に家の話もした。リュシアも聞かれたことに答えた。ユリウスといると、自分の言葉が少し多くなる気がした。
食事を終えて立ち上がる時、ユリウスが言った。
「無理は禁物ですよ」
「無理はしていません」
意味がわからなかった。全部できている。全部回っている。
ユリウスはそれ以上何も言わずに困ったように微笑んでいた。




