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25.作詞の才能と、消えたいほどの羞恥心

初めて作った歌詞、絶対こうなる

# 25.作詞の才能と、消えたいほどの羞恥心


初ライブの大成功から二日後の、火曜日の昼休み。

僕たちはいつものプール前に集まり、第一回『オリジナル曲作戦会議』を開いていた。


「……で、どうやって曲を作るんだ?」


僕の問いに、三人は顔を見合わせた。これまで既存の曲をコピーしてきた僕たちにとって、「無」から曲を生み出すというのは、あまりにも未知の領域だった。


「基本的には『曲先(曲を先に作って歌詞を後から乗せる)』か、『詞先(歌詞を先に書いてからメロディをつける)』の二択だな」

ショウが眼鏡を押し上げながら解説する。


「俺、メロディを一から作る自信なんて全くないぞ。コードを適当に鳴らすくらいしかできないし」

僕が白旗を上げると、リョウコがパンッと手を叩いた。


「じゃあ、まずは『詞先』でいきましょう! メロディは後回しにして、とりあえず全員で『これぞ!』っていう歌詞を書いてくる。明日はその発表会よ!」


そういうわけで、次の日の昼休みに、ノートの切れ端やルーズリーフを握りしめ、地獄の発表会が幕を開けた。


「まずは言い出しっぺの俺からいくぞ」

僕はわざと咳払いをして、昨日の夜、辞書を引きながら徹夜で書き上げた力作を広げた。


『黒い雨が降る 砕け散ったガラスの街

大人たちの鎖を引きちぎり

俺の魂が、血を流して叫ぶんだ――』


読み終えた瞬間、プール前はろ過装置のモーター音だけが響く完全な静寂に包まれた。


「……えっと、ケイタ?」

リョウコが引きつった笑顔で口を開いた。

「私たち、いつからビジュアル系バンドになったんだっけ? それとも中二病をこじらせた暗殺者かなんかの歌?」


「なっ……ニルヴァーナみたいな、ダークで社会への反逆的なメッセージを込めたんだよ!」

顔から火が出そうになるのを誤魔化すように叫ぶと、ショウがため息をついた。

「豊橋の高校生の日常に、黒い雨もガラスの街もないだろう。リアリティが欠如している」


「じゃあお前のはどうなんだよ!」

僕が食ってかかると、ショウは冷静に大学ノートを開いた。


『エントロピーが増大するこの宇宙で

引力という抗えない現実に縛られ

我々は事象の地平線を目指し、微小な振動を繰り返す――』


「ショウ先輩……それ、理科のテスト問題っすか?」

ポンタがポカンと口を開けた。「そもそも『エントロピー』って、どうやってメロディに乗せるんすか?」


「16分音符のシンコペーションを使えば、綺麗にハマるはずだ」

「ハマらないわよ! 誰が歌うと思ってんの!」

リョウコが容赦なく切り捨てる。


「じゃあ次は完全無欠の俺っすね!」

ポンタが自信満々にノートの切れ端を掲げた。


『唐揚げ マヨネーズ多めで

俺の胃袋が泣いている 早く白米をくれ

腹減った 腹減った 購買のパンじゃ足りないぜ――』


「ただの昼休みのボヤキじゃない! メモ用紙の裏に書くな!」

リョウコがポンタの頭をノートでスパーンと叩いた。


「いてっ! じゃあリョウコ先輩の歌詞はどうなんすか!」

「ふふん、見せてあげるわよ。ボーカルの意地ってやつをね」


リョウコは少し得意げに、可愛らしい柄のノートを開いた。そして、少しだけ頬を赤くして、小さな声で読み始めた。


『ずっと、あなたの背中を見ていた

あなたが鳴らすノイズが、私の退屈な世界を変えてくれたの

ずっと、あなたの隣で歌っていたい――』


「…………」

「…………」

「…………」


またしても、プール前に完全な静寂が訪れた。しかし、先ほどの僕の時とは違う、妙に居心地の悪い静寂だった。


僕の顔は、自分でもわかるほど一瞬で沸騰したように熱くなった。

浜田タロウの嫉妬の言葉。そして母さんの「付き合っているんだって?」という言葉が、頭の中で大音量でフラッシュバックする。


「お、おお……なんか、トレンディドラマみたいっすね……」

ポンタが空気を読まずにニヤニヤしながら言った。ショウはあからさまに目を逸らし、眼鏡を拭き始めている。


「な、なによ! なんでみんな黙るのよ!」

リョウコが顔を真っ赤にして、ノートをバタンと閉じた。


「い、いや……その、『あなた』って、誰のことかなーって……」

僕がしどろもどろになりながら聞くと、リョウコは「バカじゃないの!?」と叫んだ。


「少女漫画の主人公になりきって想像で書いたに決まってるでしょ!! あんたのことじゃないわよ、変な勘違いしないでよね!!」


「勘違いなんてしてないよ! ただちょっと、青臭いなーと思っただけで……!」

「ケイタの『黒い雨』よりはマシでしょ!」


僕とリョウコが顔を真っ赤にして言い合っていると、ショウが冷静に割って入った。


「わかった。全員の発表を聞いて、一つだけ確かな事実が判明した」

「何よ!」

「なんだよ!」


「作詞というのは、自分の中の隠しておきたい部分を曝け出す、消えたいほど恥ずかしい作業だということだ」


ショウの言葉に、僕たちはぐうの音も出なかった。

オリジナル曲への道は、思っていたよりも遥かに険しく、そして恥ずかしい道のりになりそうだった。


## 反省を踏まえて


翌日の昼休み。僕たちは再びプール前に集合していた。

昨日の「地獄の作詞発表会」の惨状を踏まえ、全員が少しだけ神妙な顔つきをしている。


「……というわけで、いきなり自分たちでゼロからポエムを書こうとしたのが間違いだったんだ」

僕が切り出すと、三人が深く頷いた。


「昨日の夜、冷静になって自分の『黒い雨』の歌詞を読み直したら、恥ずかしすぎて枕に顔を押し付けて絶叫したよ」

「奇遇ね。私も昨日の夜、自分の書いた『あなたのノイズ』ノートを丸めてゴミ箱にダンクシュートしたわ」

「俺なんか、今日の弁当が唐揚げじゃなくて焼き鮭だったっすからね。もう何も信じられないっす」


それぞれが心の傷を舐め合う中、ショウが眼鏡を押し上げながら提案した。


「つまり、僕たちには『基準』がないんだ。だから、まずはプロの作詞を研究すべきだと思う。各自、自分の好きなバンドの、好きな曲の歌詞を持ち寄って分析してみるのはどうだろうか」


「なるほど! どんな言葉を使えばカッコよく聞こえるのか、プロの表現から盗むってことね」

リョウコがポンッと手を叩く。


「名案だ。じゃあ明日の昼休み、みんなそれぞれ一番好きな曲の歌詞カードを持って集合ってことで」

「了解っす! 俺、絶対に最高の歌詞を見つけてくるっすよ!」


こうして僕たちは、オリジナル曲を作るための第一歩として、偉大なる先人たちの言葉から「作詞の研究」をすることになったのだった。



この後、どうなることやら…お楽しみに。

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