24.ガストでの打ち上げ、饒舌なショウ
打ち上げするよー
# 24.ガストでの打ち上げ、饒舌なショウ
「あんたたち、最高だったわよ! 今日はお母さんの奢り! これで美味しいもの食べてきなさい!」
ライブハウスの外に出た途端、興奮冷めやらぬ母さんが僕の手に一万円札をねじ込んできた。普段は倹約家の母さんが、こんな大金を気前よく出すなんて信じられない。
妹のアヤカも「ウチワは死ぬほど恥ずかしかったけど……まあ、ちょっとだけカッコよかったんじゃない」と、ボソッと呟いてくれた。
母さんのありがたい資金提供を受け、僕たち四人は楽器を抱えたまま、近くのファミリーレストラン『ガスト』へと転がり込んだ。
「お疲れ様ー!!」
みんなでメロンソーダやコーラが入ったグラスを一気に飲み干す。
テーブルの上には、ハンバーグに山盛りのフライドポテト、ピザなど、高校生が大好きなメニューが所狭しと並べられていた。
「いやー、マジでヤバかったっすね! 1曲目の最初のシンバル叩いた瞬間、客席がドワァッて沸いたの、見ました!? 完全無欠の俺のリズムが豊橋を揺らしたっすよ!」
ポンタが口の周りにケチャップをつけながら、身振り手振りで熱弁を振るう。
「あんたのリズムじゃないでしょ、私のボーカルよ! でも本当に気持ちよかった! スピーカーから自分の声がバーンって出て、それが大音量で、みんなの心に刺さるって感覚。あんなの初めて!」
リョウコも顔を紅潮させ、目をキラキラと輝かせている。
「俺も、最初は指が震えてピック落としそうだったけど……音出したら全部吹っ飛んだな。本当に最高だった」
僕はフライドポテトをかじりながら、深く頷いた。未だに指先には、ギターの太い弦の感触と振動が残っている。
「全くだ。あの空間の支配感は、理論だけでは説明がつかない」
ふと、横から早口の言葉が飛んできた。ショウだった。
普段は「眠たいな」か「現実は並べないと倒れる」くらいしか口にしない彼が、眼鏡の奥の目をギラギラさせて前のめりになっていた。
「オレンジピットって箱は、本当響きが良いよね。狭い練習スタジオも良いけど、今日の会場は、低音の反響がすごく良かった。2曲目で僕がベースラインをギターに合わせた時、ケイタのディストーションの帯域と完璧に分離して、信じられないほどの音圧が出たんだ。それにリョウコの声の周波数が見事にマッチして……」
「……えっと、ショウ?」
僕が戸惑って声をかけると、ショウはハッとして口を閉じた。
「あ、ごめん。……喋りすぎた」
ショウが少し照れくさそうに頭を掻く。
「いや、いいんじゃないの! ショウ君があんなに喋るなんて珍しいし、それだけ興奮してるってことでしょ!」
リョウコが笑い飛ばす。
「当然だ。計算通りにいかないライブという生モノの熱量は……異常だ。あれは癖になる」
ショウはコーラをゴクリと飲み干し、ふうっと満足げなため息をついた。冷静沈着なショウの理性を狂わせるほど、ライブには圧倒的な魔力があったのだ。
「そうだよな!? じゃあ俺たち、明日からプロ目指して学校辞めましょう! 『ヘイヘイ! ガストの客ども! 俺たちが音庭ビートだぜェ!!』」
テンションが振り切れたポンタが、突然座席の上に立ち上がり、ガストの店内に響き渡る声で叫んだ。
周囲の客が、ギョッとして一斉にこちらを見る。
「バカ! 座れポンタ!」
「恥ずかしいからやめてよ!!」
僕とリョウコが全力でポンタの服の裾を引っ張り、強制的に着席させる。
「す、すみません……」
ショウが店員さんと周囲の客にペコペコと頭を下げた。
「痛いっすよ! なんで叩くんですか!」
「お前が調子に乗るからだろ!」
「周りの迷惑も考えなさいよ、このバカドラム!」
ワイワイと文句を言い合いながら、僕たちは再び笑い転げた。
「……でも、大成功だったな」
僕はポテトをつまみながら、改めて言った。
「ああ。色々と問題はあったが、結果としては最高だった」
ショウが頷く。
「で? 次はどうするの?」
リョウコがストローを噛みながら、僕たちを見回した。
「次は……決まってるだろ」
僕はニヤリと笑った。
「ニルヴァーナだ。今度は誤魔化しなしで、あのノイズを完璧に鳴らしてやる」
「おっ、言いましたねリーダー! 次のライブはいつにします!?」
ポンタが再び前のめりになる。
「まあ、まずは曲を仕上げてからな。でも、そう遠くないうちにもう一度ステージに立とう」
ガストのドリンクバーで作った甘いメロンソーダの味と、初ライブの強烈な興奮を、僕は一生忘れないだろうと思った。ガストの楽しい時間はあっという間に、過ぎていった。
## 次の目標を話し合おう
そして、ライブ大成功の興奮の中で、珍しくショウが口を開いた。
「ニルヴァーナもいい。コピーバンドとして技術を磨くのも重要だ。だが……」
ショウはそこで言葉を区切り、眼鏡の位置をクイッと直してから僕たちを見渡した。
「僕たちが『バンド』として本当の意味で一人前になるためには、やっぱり……オリジナル曲を作らないとだめだよな」
その言葉に、テーブルの空気が一瞬だけピタッと止まった。
「……オリジナル曲」
僕がその言葉をオウム返しに呟く。
自分たちの曲。自分たちだけのメロディ、自分たちだけの言葉。
それは、単なるコピーバンドをしている高校生なら誰でも一度は憧れる、最高で、だけど少しハードルの高い領域だ。
「ショウ先輩、マジすか……!?」
ポンタが目を丸くして身を乗り出した。
「オリジナルって、あの、自分たちで作るやつですよね!?」
「そうだ。今日、オレンジピットのステージで、他人の曲であれだけの熱狂を作れたんだ。もしそれが、僕たち自身の曲だったら……どうなると思う?」
ショウの言葉は、普段の理屈っぽいトーンとは違い、静かな熱を帯びていた。
「……最高じゃない!」
リョウコがバンッ! とテーブルを叩いた。
「私、歌いたい! 誰かのコピーじゃなくて、自分たちの曲を! 絶対にカッコいいに決まってる!」
「だろ!? 俺たちの曲で豊橋を揺らすんすよ! うおおお、なんか想像しただけで鳥肌立ってきたっす!」
ポンタが両腕をさすりながら興奮し始める。
そうだ。そうだそうだ!
僕の心臓も、さっきのライブ本番の時と同じくらい、いや、それ以上に激しく高鳴っていた。
「……やろうぜ。俺たちだけのオリジナル曲」
僕が顔を上げてそう言うと、三人の顔がパァッと明るくなった。
「よっしゃあああ!!」
「絶対作ろう! 次の目標が決まったわね!」
「俺、最高のドラムソロ入れますからね!!」
「……ポンタ、曲の構成は理論的に組み立てるべきだから、安易なドラムソロは却下だ」
「ええーっ! ショウ先輩、そこはノリでいきましょうよー!」
ガストのテーブルを囲んで、僕たちは新たな目標に向けて最高潮に盛り上がった。
「音庭ビート」の、本当の意味でのバンド活動が、今まさに始まろうとしていた。
ライブ後の打ち上げって、本当楽しいですよね。




