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23.ライブ!ライブ!ライブ!

いよいよ、ライブ当日です!

# 23.ライブ!ライブ!ライブ!


日曜日、午後2時。南栄にあるライブハウス『オレンジピット』。

汗と熱気が混ざったような特有の匂い。暗いハコの中に鳴り響く、重低音のサウンドチェック。


ついに・・・僕たちの初ライブの時間がやってきた。


「次は『音庭ビート』のみなさん、スタンバイお願いしまーす」

スタッフの声に促されるようにして、僕たちは狭いステージへと上がった。


照明がパッと点灯し、目の前が真っ白になるほど眩しく照らされる。


目が慣れてくると、薄暗い客席の様子が見えてきた。そこには、ポンタの親戚の集団や、チケットを買ってくれたクラスメイトたちの姿があった。


そして最前列のど真ん中には、蛍光ピンクのカッティングシートでデカデカと『ケイタ命』と書かれた手作りウチワを全力で振る、僕の母さんの姿があった。隣では妹のアヤカが「他人のフリをしたい」という顔でうつむいている。


さらに客席の後方には、腕を組んでこちらを鋭く睨みつける他クラスの浜田タロウの姿もしっかりと確認できた。


心臓の音がうるさい。緊張で頭が真っ白になっていた。


「……プレッシャーの幕の内弁当だな」

僕がボヤくと、隣でショウが小さく笑った。


その時、リョウコがみんなを近くに呼び寄せた。そして、円陣を組む。


「これまでの練習通りにやれば良いのだから、大丈夫!楽しんでやろう!」


それを聞いて、急に緊張が解けた。続けて、僕がコールする。


「音庭ビート、楽しんでいこうぜ!せーの!」


「「「「おぉー!!」」」」


メンバーみんなの声が一つになった。


そして、みんなが持ち場に着く。


ドラムセットに座るポンタがスティックを握りしめて頷き、マイクスタンドを握るリョウコが、昨日までの不安を微塵も感じさせない、堂々とした笑顔を僕に向けた。


「行くぞ!」

ポンタがスティックを高く掲げた。


「ワン、ツー、スリー、フォー!」


ポンタのカウントと共に、僕は思い切りギターの弦をかき鳴らした。

ジャキィィン! というディストーションの壁が、オレンジピットの空気を震わせる。

1曲目、ブルーハーツの『情熱の薔薇』。


直前まで震えていた指先が、嘘のようにスムーズに動いた。アンプから飛び出す自分たちの「騒音」が、僕の恐怖を全部吹き飛ばしてくれたのだ。


ショウのベースが床を揺らし、ポンタのドラムが心臓の鼓動とリンクする。そして、分厚い音の壁を切り裂くように、リョウコの高く澄んだ声がライブハウスに響き渡った。


客席から「おおっ!」という歓声が上がった。


母さんは狂ったようにウチワを振り、妹のアヤカも「お兄ちゃん、がんばれ!」と声を上げていた。

僕たちは完全に波に乗っていた。続けて2曲目の『トップ・オブ・ザ・ワールド』も、軽快なパンクアレンジで駆け抜けた。


そしてやってきた。魔の「MCタイム」だ。


2曲目が終わり、アンプの「サーッ」というノイズだけが響く静寂。

リョウコが僕を見る。ショウが僕を見る。ポンタが僕を見る。

そして、客席の全員が、僕が何か言うのを待っている。


僕は、マイクの前に一歩踏み出した。

昨日の夜、鏡の前で練習したカッコいいセリフ。「俺たちのビートで火傷すんなよ」「今日は最後まで盛り上がっていこうぜ」。


しかし、眩しい照明と、目の前に広がる大勢の顔を見た瞬間、僕の頭は完全に真っ白になった。


「えっと……」


静まり返るライブハウス。


「……こんにちは。音庭ビートです」


シーン。


気の利いたことなんて、一つも浮かばない。僕はただ、今自分が感じていることを口にするしかなかった。


「……正直言って、今、足がガクガク震えてます。緊張しすぎて、吐きそうです。……早く終わって、家に帰って寝たいです」


数秒の沈黙。

その直後、客席から「ドッ!」という大きな笑いが起きた。


「がんばれー!」と誰かが叫ぶ。

「帰りたーい!」とポンタが後ろから便乗して叫ぶ。


カッコいいロックスターにはなれなかった。でも、これでいいんだ。

これが、等身大の僕たちだ。


「でも……」

僕はギターを構え直し、ニヤリと笑った。


「最後まで、全力で音を鳴らします。最後の曲です。聴いてください、『TRAIN-TRAIN』!」


ドコドコドコドコ! と、ポンタのドラムが疾走感あふれるリズムを叩き出す。

僕たちは、持てる限りの力と熱量を、すべてこの1曲に注ぎ込んだ。

汗が目に入り、ピックを持つ指が痛くなっても、誰も止まらない。


リョウコの声に合わせ、客席も一体となって手を挙げているのが見えた。

最高の気分だった。このノイズの渦の中に、ずっといたいとすら思った。


最後のジャーン! という音が鳴り響き、長い余韻が消えていく。


「サンキュー!!」


僕たちは息を切らし、汗びっしょりの笑顔で、初ライブのステージを降りたのだった。


成功して良かったー

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