表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/36

20.思わぬ伏兵と、恋愛の噂

今日も昼休みの風景から。

# 20.思わぬ伏兵と、恋愛の噂


「えー、本日はお忙しい中、お集まりいただき……」

「だから、それじゃあ校長先生だってば!」


火曜日の昼休み。僕たちは昨日に引き続き、プール前でラジカセを囲んでイメトレを行っていた。相変わらずMCの内容は一向に定まらず、ほうきをマイクスタンド代わりにして悪戦苦闘を繰り返していた。


「もういいよ、私がやるから貸して!」

リョウコがほうきを奪い取る。

「ヘイヘイ豊橋のヤンキーども! 今日は最後まで……」

「リョウコ先輩、それ俺のヤンキーキャラっす!」ポンタが突っ込む。


「あーもう、わかんない! そもそもバンドのMCって何喋ればいいのよ!」

リョウコがほうきを地面に叩きつけた、その時だった。


「おい、鈴木!」


突然、背後からドスの効いた声が響いた。

振り返ると、そこには他クラスの男子生徒が立っていた。短めの髪に、少し釣り上がった目。制服のシャツのボタンを少しだけ開けて、いかにも不機嫌そうな顔をしている。


「……えっと、誰だっけ」

「隣のクラスの浜田タロウだ。忘れたとは言わせないぞ」


浜田タロウ。そう言われて、かすかに記憶が蘇った。体育の合同授業や、廊下ですれ違った時に何度か顔を見たことがある程度だ。特に話した記憶はない。


「その……浜田君が、俺に何の用?」

僕がほうきを持ったまま尋ねると、浜田タロウはずかずかと僕に歩み寄り、胸ぐらを掴みかからんばかりの勢いで睨みつけてきた。


「とぼけるな! 噂は聞いてるぞ!」


噂? 僕はポンタをチラリと見た。またこいつが「俺たちはニルヴァーナをやる凶暴なバンドだ」なんて適当なことを吹聴したのだろうか。


「いや、俺たちは別に凶暴なパンクバンドってわけじゃなくて……」

僕が弁解しようとした言葉を、浜田タロウが遮った。


「バンドの話なんかしてねえよ! お前とリョウコが、付き合ってるっていう噂の話だ!」


「……は?」

「……ええっ!?」


僕の口から間抜けな声が漏れ、リョウコが信じられないというように叫んだ。ショウは眼鏡の位置を直し、ポンタは「おおっ」と目を輝かせた。


「お前、リョウコに近づくためにわざわざバンドなんか組んだんだろ! 姑息な手使いやがって!」

浜田タロウは顔を真っ赤にして僕に詰め寄る。


「ち、違うって! 誤解だ! 俺たちは純粋に音楽を……」

「言い訳すんな! だいたい、男女が放課後に密室のスタジオにこもって、何も起きないわけがないだろ!」


「起きないわよ!!」

ついにリョウコがキレた。顔を茹でダコのように真っ赤にして、浜田タロウの前に飛び出した。


「ちょっと浜田君、あんた勝手に変な噂信じて、何言いがかりつけてきてるの! 私とケイタなんて、ただのクラスメイトで、音楽の趣味が合ったからバンド組んだだけ!」


「リョウコ……」

浜田タロウは、リョウコに凄まれると急に声のトーンを落とした。どうやら、本当にリョウコに片思いしているらしい。


「俺は……俺はただ、心配だったんだ。鈴木みたいなチャラチャラしたバンドマンに、リョウコが騙されてるんじゃないかって」


「俺、別にチャラチャラしてないけど……」

僕が反論しようとしたが、浜田タロウは僕を鋭く指差した。


「鈴木! 今週の日曜日のオレンジピットのライブ、俺もチケット買ったからな! お前がリョウコの隣でギターを弾くのにふさわしい男かどうか、俺の目でしっかり確かめてやる!」


「ええっ、来るの!?」


「いいか、中途半端な演奏したら許さないからな! リョウコ、本番楽しみにしてるから!」

浜田タロウはそれだけ言い残すと、顔を真っ赤にしたまま、嵐のように走り去っていった。


後に残されたのは、ぽかんと口を開けた僕たち四人だけだった。


「……なんだ、あいつ」

僕が呟くと、ショウが冷静に分析した。

「典型的な、嫉妬からくる暴走だな。ポンタが学校中にバンドの宣伝をして回ったせいで、情報に尾ひれがついて恋愛の噂まで発生したんだろう」


「俺のせいっすか!? でも、青春って感じで最高じゃないっすか!」

ポンタは一人で盛り上がっている。


「最高じゃないわよ! なんでよりによって、あんな変な噂が立つのよ!」

リョウコはほうきを拾い上げ、バンバンと地面を叩いた。顔はまだ赤い。


「まあまあ、リョウコ。落ち着けって」

僕が宥めようとすると、リョウコは鋭い目で僕を睨みつけた。


「あんたも、変な勘違いしないでよ! あたしはただ、歌いたいからこのバンドにいるだけなんだからね!」


「わ、わかってるよ! 誰が勘違いなんか……」

僕もなんだか急に恥ずかしくなって、顔から火が出そうだった。


「……現実は並べないと倒れる」

ショウがぽつりと言った。

「これでまた一つ、ライブのプレッシャーが増えたな。下手な演奏をすれば、あの浜田タロウという男に何を言われるかわからないぞ」


ショウの言う通りだった。

初ライブの極度の緊張感。それに加えて、突然持ち込まれた「思春期の恋愛の噂」という、高校生特有の青臭いプレッシャー。


「ああもう、MCも決まってないのに、変な客まで増えちゃったじゃないか……」


僕は頭を抱えた。

決戦の日曜日まで、あと5日。僕たちの精神力は、すでに限界ギリギリだった。


恋のライバル出現?!・・・この物語、そういう話だったの?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ