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18.曲と曲の間、誰が喋るの問題

バンド練習から始まります

# 18.曲と曲の間、誰が喋るの問題


本番一週間前。土曜日のスタジオ練習は、これまでにないほど熱を帯びていた。

森田先輩の「三曲を止まらず最後まで」という言葉を守るため、僕たちは本番を想定した「通し練習」を行っていた。


1曲目、ブルーハーツの『情熱の薔薇』。


ポンタの勢いのあるドラムカウントから始まり、僕のギターがジャキッと鳴る。最初はバラバラだった四人の音が、今は一つの太い束になってスタジオの空気を震わせていた。ショウのベースがボトムをしっかり支え、リョウコの高く澄んだボーカルが、ディストーションの壁を突き抜けて真っ直ぐに響く。

演奏している僕自身が鳥肌を立てるほど、文句なしのグルーヴだった。


間髪入れずに2曲目、少年ナイフの『トップ・オブ・ザ・ワールド』。


少しテンポを落とし、ポップで可愛らしいメロディをリョウコが歌い上げる。僕のコーラスもばっちり決まった。ポンタのリズムもブレることなく、バンド全体が完全に波に乗っていた。


そして最後の3曲目、『TRAIN-TRAIN』。


全員が持てる力のすべてをぶつけるように、全力で音を鳴らす。汗が目に入っても、ピックを握る手が痛くなっても、誰も止まらない。最後のジャーン!という音が鳴り響き、シンバルの余韻がすーっと消えていく。僕らは自然とガッツポーズをしていた。


「……やり切った」


僕は汗びっしょりの顔を上げ、息を切らしながら言った。


「最高! 今の、今までで一番良かったんじゃない!?」


リョウコも顔を紅潮させて叫んだ。ショウも静かに頷き、ポンタはドラムスティックをくるくると回してドヤ顔をしている。


僕たちのバンドは、確実に仕上がっていた。音の塊が、僕たちを本物のバンドマンにしてくれたような気がした。


だが、最高の達成感に包まれたその直後、ショウがぽつりと恐ろしい事実を口にした。


「……ところで」


「ん? なに?」


「1曲目から2曲目の間って、誰が何を喋るんだ?」


その瞬間、スタジオの空気がピタリと凍りついた。

音庭ビート最大の弱点。それは、曲と曲の間の無音時間、「MC」だった。


「……えっと。リョウコ、ボーカルなんだから、なんか言うんだろ?」

僕が言うと、リョウコは全力で首を横に振った。


「無理無理無理! 歌うだけでいっぱいいっぱいなのに、お客さんの前で気の利いたことなんて言えないよ! ケイタがやってよ、リーダーでしょ!」


「言い出しっぺだけどさ! だいたい俺は、次の曲のためにギターのエフェクター踏み変えたり、チューニング確認したりで忙しいんだよ。ショウ、お前やれ!」


「俺はベース弾きだから、無口キャラでいく」…ショウはベースのネックを磨きながら、あっさりと拒否した。


「じゃあ俺っすか!? 任せてください! 『イェーイ! お前ら最高だぜー!』」…ポンタがドラムセットの奥から叫んだ…


「ポンタはうるさいから却下」

「そんな殺生な!」


最高の演奏から一転、僕たちは「誰が喋るか」で醜い押し付け合いを始めた。


## ミスタードーナツでのMC会議


スタジオを出た後、僕たちはいつもの駅前のミスタードーナツに寄り、机にドーナツとコーラを広げて「MC会議」を開いた。


「とにかく、誰かが喋らないと放送事故みたいにシーンとしちゃうでしょ。何かお手本になるようなMCってないの?」

リョウコがフレンチクルーラーをかじりながら言う。


「MCといえば、さだまさしじゃないか?」

ショウが真顔で言った。

「親父が言うには、さだまさしのライブは、歌よりもMCの時間の方が長いらしい。トークの秀逸さはもはや伝説レベルで、観客は落語を聞きに来ているようなものだそうだ」


「いや、俺たち高校生のロックバンドだぞ!? なんで曲の合間に『北の国から』みたいな人情話とかしなきゃいけないんだよ!」

僕がツッコミを入れると、ポンタがポンと手を打った。


「じゃあ、ユニコーンの奥田民生さんみたいなのはどうっすか?」

ポンタはオールドファッションを口にくわえながら続けた。


「うちのオカンが好きでよくビデオ見てるんすけど、民生さんのMC、めっちゃカッコいいっすよ。なんかこう、脱力系っていうか。『ひとりで歌うのはしんどい』とか『もう帰りたい』とか、ライブ中なのにめっちゃ適当なこと言って、それが逆にお客さんにウケてるんすよ!」


「なるほど、ぼやき系MCか」

ショウが感心したように頷く。「気負わず、自然体で笑いを取る。あれは高度なテクニックだな」


「よし、じゃあちょっとやってみてよ、ケイタ」

リョウコが無茶振りをしてきた。


「えっ、俺!?」

「脱力系なら、ケイタの普段のやる気ない感じを出せばいけるって」


僕は咳払いをして、手元のコーラのストローをマイクに見立てた。


「……あー、えー。今日は来てくれてありがと。……ギター弾くの、なんか疲れちゃったな。もう帰って寝たい」


「……」

「……」


リョウコとショウが、冷ややかな目で僕を見た。


「ただの嫌なヤツじゃん」

リョウコが容赦なく切り捨てる。


「やっぱり才能が必要なんだな……」

ショウがため息をついた。


「あーもう、わかんない! 『俺たち、音庭ビートです! 次の曲聴いてください!』だけでいいんじゃないの!?」

僕が頭を抱えると、リョウコも机に突っ伏した。


「でも、それだと15秒で終わっちゃうよ……。あー、誰か代わりに喋ってくれないかなー」


ドーナツが減っていくのとは裏腹に、僕たちのMCのアイデアは一向に固まらなかった。

伝説のシンガーのように泣かせることもできなければ、ロックスターのように笑わせることもできない。


「まあ、本番のノリでなんとかなるっしょ!」

ポンタだけが、能天気に二個目のドーナツを口に放り込んでいた。


ライブ本番まで、あと一週間。

音の準備は完璧だが、言葉の準備はまったくのゼロ。

不安と期待が入り混じったまま、僕たちの初ライブがすぐそこまで迫っていた。


音楽とMCって別の才能なんですが、大物のMCはやっぱり大物らしさがありますよね

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