16.歪まないギターと、素直な謝罪
理想と現実の狭間で・・・
# 16.歪まないギターと、素直な謝罪
最悪な雰囲気で終わった土曜日のスタジオ練習から一夜明けた、日曜日。
僕は自室に籠もり、一人でギターと向き合っていた。
「くそっ、なんであんな風に言われないといけないんだ」
リョウコの「ただの雑音だよ」という言葉が、頭の中で何度もリフレインしていた。
あいつにニルヴァーナの凄さが分からないだけだ。僕が完璧に『スメルズ・ライク・ティーン・スピリット』を弾きこなして、あいつらを見返してやる。
そう意気込んで、僕は愛用のギターをアンプに繋いだ。
ボリュームのつまみを右に回し、エフェクターのディストーションを思い切り踏み込む。
ジャカジャーン! ギュイィィン!
アンプから吐き出される、けたたましい音。
CDから聴こえてくるカート・コバーンのギターは、汚いノイズの中にも圧倒的な重圧感と、得体の知れないグルーヴがあった。
しかし、僕のアンプから鳴っているのは、本当にただの耳障りな「雑音」だった。
「違う、こんなペラペラな音じゃない」
歪みすぎているのかと思ってつまみを調整してみたり、逆に思い切り歪ませてみたりと悪戦苦闘するが、どうにもあの音にならない。
弾き方も、ただ激しくストロークすればいいというものではなかった。
休符のタイミング、ピッキングのニュアンス、すべてがあの特有のグルーヴを生み出していることに、自分で弾いてみて初めて気づいた。
「……無理だ」
数時間ほど格闘した末、僕はギターを置いた。
リョウコの言う通りだった。今の僕の実力では、到底ニルヴァーナには太刀打ちできない。
あの音は、単なるノイズなんかじゃなかった。絶望と孤独を抱えた天才にしか鳴らせない、魂の叫びだったんだ。
高校生の僕が表面だけ真似しようとしたところで、薄っぺらい雑音にしかならないのは当然のことだった。
「……お兄ちゃん!!」
不意に背後のドアがバンッと開き、妹のアヤカが仁王立ちしていた。
「またうるさい! この前、怒られたばっかりでしょ! テレビの音が全然聞こえない!」
「ご、ごめん……」
すっかり意気消沈していた僕は、反論する気力もなく素直に謝った。
アヤカは拍子抜けしたような顔をした後、「……もう、わかればいいのよ」と少しトーンを落としてドアを閉めた。
僕はベッドに仰向けに倒れ込んだ。
自分の未熟さと、リョウコに意地を張ってしまった恥ずかしさで、胸がいっぱいだった。
明日の学校、どうやって顔を合わせようか。
そんなことばかり考えて、日曜の夜はなかなか寝付けなかった。
## 気まずい月曜日と、素直な謝罪
月曜日の昼休み。
いつものようにプール前に集まった僕たちだったが、空気は最悪に重かった。
僕は俯いたまま、リョウコも無言。
ショウはオロオロと僕とリョウコの顔を交互に見比べ、どうにか空気を変えようと必死だった。
まだ現れないポンタは、何かを察して来ていないのかもしれない。
重くて長い沈黙が場を支配していた。
こうなった以上、僕から話すしかない。僕は姿勢を正し、リョウコとショウに向き直った。
「……ごめん。俺が間違ってた」
「え?」
リョウコが目を丸くする。
「昨日、家で一人でニルヴァーナ弾いてみたんだ。でも、全然ダメだった。リョウコの言う通り、ただの雑音にしかならなかったよ。今の俺たちには、まだ早い」
正直に自分の未熟さを認めるのは悔しかったが、同時に肩の荷が下りたような気もした。
「だから、来月のライブまでは、今の3曲に集中する。もっと質を上げて、最高のライブにしよう」
僕があっさりと頭を下げると、リョウコは予想外のことだったらしく、瞬きを数回繰り返した。
それから、ふっと柔らかく微笑んだ。
「ケイタがそんな素直に謝るなんて、明日は雪が降るかもね」
「なんだよそれ」
「でも、私もごめん。言い過ぎた。ただの雑音なんて言って……」
リョウコは少し申し訳なさそうに視線を落とした。
「あの曲、家でCD聴き直してみたんだ。……やっぱり、すごくかっこよかった。ケイタがやりたいって思う気持ち、わかるよ」
「リョウコ……」
「だから、約束。来月の初ライブが終わったら、ちゃんと4曲目としてみんなで練習しよう。それまでにケイタは、もっとあの音に近づけるように特訓しておくこと。いい?」
リョウコの言葉に、僕は力強く頷いた。
「ああ、もちろん! 完璧に弾きこなしてみせるさ」
「よし、決まりだね!」
ショウが嬉しそうに手を叩いた。「これでまた、みんなで楽しくやれるね!」
そこへ、購買部の袋をぶら下げたポンタが走ってきた。
「お疲れっす! いやー、焼きそばパン争奪戦、ギリギリ勝てましたよ! って、あれ? なんかいい感じっすか?」
「ああ、お前がいない間に色々解決したんだよ」
僕は笑いながら言った。
「ええっ!? なんすかそれ、ズルいっすよ!」
きょとんとするポンタを見て、僕たちはまた大きな声で笑った。
歪まないギターの音は、僕に自分の現在地を教えてくれた。
意地を張らずに素直に謝ったことで、バンドの結束は前よりも強くなった気がした。
このバカバカしくて最高なメンバーとなら、いつかきっと、あの痺れるようなノイズを一緒に鳴らせる日が来る。
僕はそう確信していた。
時には謝ることも大事ですよねー
謝れない人ばかりのバンドは、空中分解しがちですね




