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80. 平穏な日々

「午前の分は終わったか……」

「きゅー……」「たいへんだったね!」


 俺は今日、『城』で書類仕事をしていた。


 といっても報告書を読んでサインをするだけの簡単なお仕事だ。ただ量が多く、手続き上、責任者のサインがないと続けられない仕事とかもある。


 最低限のものだけで、けっこうな時間と労力をとられていた。


「トーマ様、ルマールさんが帰還されました」

「ただいま帰りましたぞ!」


 執務室にユイさんとルマールさんが入ってきた。


 泊りがけで魔物のたまり場へ狩りに行っていた獣人達と兵士達が帰ってきたようだ。


「皆、無事でしたか?」


 俺が行けば『戦の角笛』を使えるため、かなり安全に狩りができるんだが、最近は『城』での仕事があり、一緒に行けないことが多くなっていた。


「ケガ一つありませんな!」


 (ほが)らかに笑うルマールさん。


「エルナーザ殿の従魔で魔物の位置はわかりますし、いただいた『職業』の力、それに魔法の矢などでどんな数の魔物もこちらに近づく前に倒すことができますから」


「そうですか……。倒した魔物の持ち運びも大丈夫でしょうか?」


 俺がいないと『倉庫』も使えないのだが。


「ええ! ゴーグ兵士長が率いる兵たちの人手がじゅうぶんある上に、トーマ殿が、ダークエルフ達から荷運び用の従魔を借りてくださいましたからな! そちらも問題はありません」


「それは良かったです」


 と、ホッとする。


 隣国の村で、ダークエルフ達が使っていたトカゲ型の従魔。あれと同じ種類のものを、荷運び用の目的でダークエルフ達から期間限定で借りていた。


 エルナーザさんが、この『城』に来たときに交渉したのだ。例のダークエルフの裏切り者の魔法に対抗する護符なんかも一緒に作ったりしているな。


 この地では使えないだろうとのことだが、裏切り者は、ダークエルフを洗脳した魔法なんかも使えるから、その対策だ。


 ジュナンの作った調査用の魔道具が高性能だったようで、驚かれていた……


「……ルマールさん達は、余裕はあるみたいですけれど、くれぐれも気をつけてくださいね」


 魔物狩りは、防御力を高める『戦の角笛』がないと、攻撃を受けたときに危険なのだが……


「なーに、ご心配()されるな!」


 そう答えるルマールさん。


「私も『ソルジャーズ・シールド』という技を新しく使えるようになりましたからな! 何かあれば、それを使って時間を稼ぎますぞ!」


『ソルジャーズ・シールド』というのは、魔物を倒していたら解放された、新しい能力だ。自分の前面に、大きなバリアを短時間だけ出すことができるとか。


 ヨシュア君も『アーチャーズ・シールド』という似たような能力を得ていた。


『城』の住人になり『職業』を()た兵士たちも、ほとんどが『パワー・ショット』や『パワー・スラッシュ』を使えるようになっていて、全体的な戦闘力は高まっている。


 大体のことには対応できると思うのだが、ちょっと心配は残るな……


 うーん、と考え込んでいると、ちょんちょんと体をつっつかれる感触がして――


「ねーっ、トーマ! 魔物、ポイントにして良い!?」


 イェタだ。


「……魔物は、いつも通り『城』の外に置いてあるんですよね?」


 ルマールさんへの質問に、彼が「ええ!」と返答する。


「じゃあ、そこに行こうか」


 イェタが「うん!」とうなずき、俺たちは『城』の外へと出た。


「おー、トーマさんか!」


 ジュナンか。


「暴れ大岩グマの素材を採っていたのか……」


 手元にある石の山を見て、そう判断する。

 あのクマの岩からは希少な鉱石がとれることがある。


「ああっ、もう終わったけどな! なかなか良いのが採れた!」


 それは良かった。


「もう作業はしていなさそうだし、全部ポイントにしちゃって大丈夫かな……」

「そうだな!」


「わーい! ポイントにするーっ!」

「きゅーっ!」


 喜んだイェタ。積んである魔物の間を元気に駆け回った。


「ポイントにしたーっ!」

「きゅっ!」


 手早くポイント化を終えたようだ。

 といっても、このポイントの使い道がないんだけど。


『城』の住人となれた兵士全員に、もう『職業』を与えてしまった。作れる施設も作っている。今はイェタの楽しみのため、一日一個ペースで兵器を増やしているところだ。


 今日も、それを求めてくるはずだが……


「今日は『魔動投石機』を作りたいーっ!」

「きゅっ、きゅーっ!」


「良いんじゃないかな」


 予想通り。


「こっちに作るーっ!」


 グイグイと引っ張られて、兵器が集まっている壁の方向に行き、そこに『魔動投石機』を設置したのだ。


「今さらですが、ずいぶんと増えましたね……」


 ユイさんの感想に、「そうですね」とうなずく。


『城』に設置した『魔動投石機』『魔動大型連弩』などの数は全部で六十ほど。そのうちの三十が、この方向の城壁に集まっているから、特にそう思うのだろう。


 イェタの目を楽しませるため、ここの壁に兵器を集めている。


 大昔に大規模な魔物の襲撃があったという方向で、隣国の方向でも町の方向でもない。


『城』以外にも、『城下町』であるカルアスの町や領内の村にも兵器を設置していた。


「けっこうな数の魔物を倒しているはずだからな!」


 そう言ったジュナンが、何を思ったのか首をかしげる。


「……そういえば、鉱山のあたりに村を作るって話はどうなったんだ? なんか、魔物をいっぱい倒せば、魔物が近寄りたがらない場所が、あそこらへんにできるって話だったろ」


「あー……まだ、しばらくはかかるはずだな」


 一年ぐらいだったか?


「早くて一年。三年、四年あれば村を作れるほどになるのではと予想しています」


 ユイさんが補足してくれる。俺も報告書で見た情報を伝える。


「なんか、鉱山付近よりも、街道付近のほうに影響が出ているらしいぞ。魔物が少しずつ出なくなってきているとか」


 人が多い場所、人がよく通る場所は影響が出やすいようだ。


 まあ、あくまでも『影響が出やすい』というだけなので、いくら経っても影響が出ないという場合もあるようなんだが。


「そのおかげで、食糧の輸送がちょっと楽になりましたね。他の町に薬草を売りに行って、ジュナンさんが必要とされる鉱石を購入して帰ってくる。そういう行為も簡単になり始めています」


「それは重要だな!」


 ユイさんの言葉に、ジュナンがうなずいた。


「魔物などの心配が少なくなった分、有力貴族への付け届けなども、ずいぶんと気軽に送れるようになっています」


「貴族への贈り物か……。そんなこともしていたんだな」


 ユイさんの言葉にジュナンが感心していたが、付け届けに使っているのはジュナンが作った高価な霊薬とかだ。


 言われたから作っただけで、その他の細かいことは気にしてなかったのだろう。


「王の密偵など、エルナーザ様が滞在している隣国にも力が及ぶ可能性が出てきたので、少し対策をしていますね」


 そう言った彼女が、何かを思い出したようで俺を見る。


「そういえば、追加の付け届けを贈るつもりだったのを忘れておりました……。それに関する書類をトーマ様にわたしますね。サインが必要なので」


 聞きたくない情報が、ユイさんから来たな。


「まだ増えるんですか……」


 読む書類が全然、終わっていないのに……


「トーマ、元気出して!」

「きゅーっ!」


 ガックリしているとイェタがなぐさめてくれた。


「わたし、この前、作った『ぷりん』今日も作るからっ!」

「きゅーっ!」


 おおっ、あのお菓子か。『調理場』のレシピブックを見て、イェタが作ってくれたものだ。料理がうまい獣人と一緒に作ってくれたのだが、俺も初めて見た食べ物だった。


「今日は、わたし一人で作ってみるからねー!」


 ……それは、ちょっと心配だが。


「イェタが作ってくれるってだけで嬉しいな!」


 そう言って、彼女の頭をなでたんだ。


 レシピは火を使うから、誰か大人の人に近くにいてもらおうか。


 それから俺は『城』の中に戻りがんばって仕事を終え、イェタは、約束どおりプリンを持ってきてくれた――


「トーマー、作ったーっ!」

「きゅっ、きゅーっ!」


「あいかわらずおいしそうだな!」


「たべてーっ!」

「きゅーっ!」


 スプーンをわたされたので、すくって食べる。


「んっ! この前のより、うまい気がする!」


 なんでだ?


「入ってる、疲労を回復する薬草変えたーっ!」


 ……そんなものが入っていたのか。


「甘い草入れたよーっ!」

「きゅーっ!」


 ……うん。


「カーマ草を入れたのか……」


 体力を回復してくれるが、男性の下半身も元気にしてくれる甘い草である。


 出会ったときからもらっているから、今さらいらないとも言えない俺だった。


「わたしも、ちょっと食べるーっ!」

「きゅーっ!」


 一皿しか作らなかったとかかな?


「じゃあ、みんなで分けようか」


 そう言って、イェタとウニにもスプーンですくって食べさせてあげたのだ。


 女性には体力回復の効果しかないから、安心して食べさせられる。


 量が減ったのはラッキーだった。


 そんな、平和な日々――


 事態が動いたのは、この翌日だった。

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