第九話 賽の目次第
入徳館高校のシステムは、すべてを数値化し、ブロックチェーン上に刻み込む。それが、この学校の『表』の絶対的なルールだ。
だが、どんなに精巧な監視網にも、必ず光の届かない『死角』が存在する。
放課後。矢川蓮が下駄箱を開けると、そこに一通の封筒が入っていた。漆黒の厚紙。宛名はない。
矢川は監視カメラの死角に身を寄せ、封を切った。中身は、手紙が一枚だけ。
『今夜二三時。旧理科棟、地下ボイラー室跡。 二階堂 夏希』
(……二階堂。生徒会長・二階堂冬美と、同じ姓か)
デジタルへの通知ではなく、あえて物理的な手紙を使った招待。これは「学校のネットワークを通さない」という、明確なメッセージだった。
深夜二三時。門限をとうに過ぎた静寂の中、矢川は佐竹が構築した監視網のバイパスを使い、寮を抜け出して旧理科棟の地下へと降りていった。
カビと鉄錆の匂い。冷たいコンクリートの階段。スマートウォッチを確認すると、Wi-Fiも学校システムへの接続も、すでに完全に途絶していた。ここは、圏外だ。
重い鉄扉を押し開ける。そこは、廃墟のイメージとは程遠い、豪奢で退廃的な空間だった。
アンティーク調のペルシャ絨毯。間接照明に照らされたビロードのソファ。中央には、緑の羅紗が張られたカジノテーブル。
「……時間通りね。歓迎するよ、一年の『保険屋』さん。今日は貸し切りだ」
紫煙の向こうから、一人の女子生徒が現れた。
生徒会長・二階堂冬美が「氷」や「白」を思わせる冷徹な美しさだとすれば、彼女は「炎」や「夜」を体現する、妖艶で危険な空気を纏っていた。緩められたネクタイ。肩にかかる、艶やかな髪。
「あなたが、二階堂夏希先輩ですか」
「そう。生徒会長、二階堂冬美の、出来の悪い、腹違いの姉。……表の連中からは『魔女』なんて呼ばれてるけどね」
夏希はソファに深く腰掛け、長い脚を組んだ。
「あんたの噂は聞いてるよ。B組のブローカーを潰し、監査委員の影山をねじ伏せ、廃部寸前の柔道場を『セーフハウス』に仕立てた。……システムに飼い慣らされた豚どもとは違う、面白い目をしてる」
「光栄です。ですが、俺の目にはここも大して違わない。……こんな最果てで、一体何が目的なんです」
「TOKさ」
「嘘ですね」
矢川は即座に切り捨てた。
「TOKはブロックチェーンで管理されている。ここで巨額を動かせば取引履歴が残り、システムに検知される。監視の届かない場所で、監視される通貨を賭けるのは、矛盾だ」
夏希の目に、獲物を見つけた肉食獣の光が差した。
「……正解。賢いね、あんた」
彼女は、真っ白なチップを無造作にテーブルへ放った。
「表の連中は、TOKって数字の鎖に繋がれた犬だ。履歴に残るものしか信じられず、数値化されたものしか評価できない。……でもね、人間の本当の『価値』は、ブロックチェーンなんかに刻めない」
夏希は立ち上がり、テーブル越しに矢川の顔を覗き込んだ。甘く、退廃的な匂いが香る。
「ここでは、TOKは一切使わない。賭けるのは、履歴に残らない『資産』だ。『情報』『他者の弱み』『特権へのアクセス権』。そして何より」
彼女は、矢川の胸元を指先でトン、と突いた。
「『信用』と『名誉』、敗者の『絶対的な服従(隷属)』。……システムが手出しできないこの地下で、私は人間の『魂』と直接取引しているのさ」
(……表の冬美が『システムとルール』で秩序を築いているのに対し、この夏希は『人間の欲望と恐怖』で混沌を支配している。表の絶対君主と、裏の魔女。この学校は、二人の二階堂によって両面から統治されているのか)
「さて、矢川蓮」
夏希は、滑らかにトランプを繰り始めた。
「あんたを呼んだのは他でもない。私と『ゲーム』をしてほしいからだ」
「断ると言ったら」
「別に構わないよ。ただ明日、あんたの大切な『お花畑』に、うちの飼い犬を何十人も送り込んでめちゃくちゃにするだけさ。……言ったろ? 私はシステムのルールに縛られない」
圧倒的な裏のネットワークに裏打ちされた、実態を伴う脅迫。
だが、矢川は眉一つ動かさなかった。ただ静かにため息を一つ落とし、夏希の向かいの椅子に腰を下ろす。
「……いいでしょう。俺が勝てば、柔道部への不可侵と、あなたの持つ『二階堂冬美の弱点』を頂く。あなたが勝てば、俺はあなたの手駒になりましょう」
「交渉成立だ。最高に痺れるね、その冷たい目」
夏希は、カジノテーブルの奥から、年季の入った陶器の「どんぶり」と、三つの小さなサイコロを取り出した。
「ルールはシンプルさ。……チンチロリン。知ってるだろ?」
「奇遇ですね。うちの柔道部が引き取った元野球部の工藤も、この確率の偏った賭博で脳を壊されていました。……彼を追い詰めたのは、あなたたちですか」
「ああ、あの壊れたおもちゃね。いい客だったよ」
夏希は悪びれもせず、妖艶に笑った。
「デジタルな数字の増減なんて、所詮おままごとさ。どんぶりの中でサイコロがぶつかる音、運命が『偶然』に握られる瞬間のヒリつく恐怖。……人間はね、システムの安心より、こういう理不尽な混沌にこそ依存するんだ」
彼女は、どんぶりを矢川の前へ滑らせた。
「親は私、子はあんた。勝負は三回。……ただし、一回ごとに賭け金は動かさない。三回打って、多く取った方が、賭けたものすべてを、総取りする。それがルールだ」
矢川は、無言でどんぶりを見つめた。
(……完全なアナログ。サイコロの重心、どんぶりの摩擦、投擲の角度。物理法則には従うが、変数が多すぎて確実な演算は不可能だ。彼女の言う通り、純粋な運否天賦)
だが、と矢川は思う。運を支配できずとも、支配できる領域はある。
「じゃあ、いくよ」
カラン、カラララッ!
陶器を打つ甲高い音。夏希の出目は「三・三・五」。ペアを除いた「五」が、彼女の強さだ。
「まあまあの出だしだね。さあ、あんたの番だ、合理主義者さん」
矢川は、三つのサイコロを手に取った。
(……サイコロの目は操作できない。だが、どんぶりの中の『乱数』を最小化することはできる。縁の、最も傾斜の緩い一点。そこへ、跳ねさせずに滑らせる)
ただし、と、矢川は己に確認する。この投げは、諸刃の剣だ。手首から指先、そして全身が、一片の揺らぎもない機械であることが絶対条件。心拍の乱れ一つ、指の震え一つで、ベクトルは崩れ、サイコロは無軌道に散る。完璧に凍った身体だけが、これを扱える。
矢川は、内側の揺らぎを、意志の力で凍らせた。恐怖も、焦りも、鼓動の一つの乱れさえも。
その瞳から、一切の光が消えた。欲望と恐怖に歪むギャンブラーたちとは対極の、無機質な「ゼロ」の顔。
矢川は手首を固定し、縁ギリギリを狙って、サイコロを滑らせるように落とした。
チリッ……カラン。
サイコロは激しく跳ねることなく、数回転して、吸い込まれるように底へ収まった。
出た目は「四・五・六」。無条件勝利の役。
「!?」
夏希の表情から、初めて余裕が消えた。
「ただの偶然です。……ですが、震える手で投げるより、揺らぎを排した投擲の方が、イレギュラーを防げる」矢川は淡々と告げた。「俺は運命など信じない。ただ、己の制御できる領域を極限まで広げるだけだ」
夏希は、底の「四・五・六」を見つめていたが、やがて肩を揺らして低く笑い出した。
「……ふふっ、あはは! 傑作だ。あんた、本当に人間かい? いいだろう、一回戦はあんたの勝ちだ」
どんぶりからサイコロを拾い上げる夏希へ、矢川は静かに切り込んだ。
「二回戦の前に、一つ聞かせてください。工藤大介のことです」
その名に、夏希の指がピタリと止まる。
「彼は『賭場でTOKを溶かした』と語っていた。だが、ここでTOKは使わない。肩を壊して自暴自棄だった彼に、賭けられる情報や特権があったとも思えない。……彼は、このどんぶりの底で、何を賭けたんです」
夏希は息を吐き、ソファに背を預けた。獲物をいたぶるように、妖艶に笑う。
「なんだ、そんなことかい。……最初は、チームメイトのスキャンダルやレギュラーの弱みを売って、チップに換えてたよ。落ちぶれても、あいつの頭の中の情報は本物だからね」
「仲間の秘密を、売らせたわけですか」
「でも、そんな安い情報はすぐ底をつく。だから私は、賭けるものを失った彼に『最後のゲーム』を提案した。……負けたら、『自分の手で、退部届を顧問に出しに行く』ってね」
「……自らの手で」
「あいつは、リハビリに耐えても元の状態に戻らないかもしれないという恐怖に、押し潰されそうだった。だから、誰かに夢を終わらせてほしかったのさ。サイコロに負けたから仕方なく辞めるんだ、っていう言い訳がね。……結果、あいつは負けて、言われた通り、自分の手で退部届を出してきた。絶望で空っぽになった、最高の顔でね」
(……七瀬の直感は、正しかったな)
工藤はギャンブルに依存していたのではない。野球を愛するがゆえの恐怖から逃れるため、自ら未来を断って、自分を罰していたのだ。
「退部届が出ている以上、彼の処遇は完結しているはずだ。だが、彼はまだあなたの影に怯えていた。……最初に買い取った『仲間の秘密』を、まだ握っているからですね」
「もちろん。いつでも裏掲示板に流せる状態でね。あいつがもし立ち直って、またここで笑って野球をやろうとしたら、『裏切り者』だと突き落とすためにとってある。……どう? 勝てたら、冬美の情報に加えて、その元データもあげようか」
「俺は彼に同情してここへ来たわけじゃない。だが」矢川は、まっすぐ夏希を見た。「再起した顧客に致命的な負債が残るのは、事業の信頼性を損なう。……賭けに、加えてください」
「あははは! いいよ、乗った!」
夏希は、手の中のサイコロを一度テーブルに置き、くすくすと笑い出した。
「どうしたんですか」
「いやね、あんたがあまりに綺麗な眼をしてるから、仕込んでおいた細工を使うのが、馬鹿らしくなっちゃってさ」
夏希は、テーブルの下のスイッチから足を離した。磁石によるイカサマ。矢川が凡庸なギャンブラーなら、とうに勝負は決していただろう。
「チンケな細工で勝っても、どうせ、あんたは見抜く。……私はね、あんたのその余裕ぶった顔が、理不尽を前に屈して、絶望でぐちゃぐちゃになるのが見たいんだよ」
夏希は、サイコロを鷲掴みにし、一切の計算も躊躇もなく、乱暴にどんぶりへ叩き込んだ。
ガランッ、カラカラカラッ!
無軌道に跳ねる、純粋な物理法則の暴走。止まった目は「二・二・五」。強めの「五」だ。
「私の目は五だ。さあ、あんたの番だよ」
矢川は無言でサイコロを拾い上げる。
(……やることは一回目と同じ。乱数を殺し、イレギュラーを防ぐだけ)
「ところで」
矢川が振ろうとした、その瞬間。夏希が、甘く粘つく声で囁いた。
「あんた、なんで工藤なんかを気にしてるんだ? 『顧客の不利益は排除する方が合理的』なんて、とってつけた理屈だろ。本当は違うんじゃないの? ……あんた、あの柔道部の仲間たちに、感化されてるのさ」
夏希は、急所を舐めるように言葉を紡ぐ。
「特に、あの琥珀色の目の子……七瀬柚葉。彼女のお人好しな共感力に、あんたの冷たい論理が侵食されて、余計なノイズを抱え込んじまったんじゃないか?」
(……くだらない盤外戦術だ。無視しろ)
「あんたは今、電波も届かないこの地下で私と遊んでる。……でも表では、冬美の生徒会が、あんたの可愛い柔道部をどう料理しようか、動いてるかもしれないよ?」
ドクン、と。矢川の心臓が、凍らせたはずの制御を破って、不規則な鼓動を一つ打った。
「あの温室育ちのお嬢さんが、冷酷なシステムの手先に囲まれて、どんな顔で泣くか……想像しただけでゾクゾクするねえ」
(七瀬——)
一瞬。ほんの一瞬、図書室で『夜と霧』を差し出した彼女の顔が、フラッシュバックした。
凍っていた身体に、罅が入る。指先に、微かな震えが走る。
「さあ、振りな!」
鋭い声に、矢川は反射的にサイコロを放ってしまった。
完璧だったはずの投擲角が、コンマ数ミリ、ずれた。
諸刃の剣は、揺らいだ者を斬る。滑るはずのサイコロは緩斜面を外れ、硬い底に激突した。
カンッ、カラララ……ッ!
三つのサイコロが無様に跳ね回り、どんぶりから零れ落ちる。即負け。矢川が防ごうとしていたイレギュラー(ションベン)。
「……」
矢川は、自分の震える指先を見つめた。
制御できなかった。他でもない、自分自身の中に芽生えた、『誰かを案じる』という非合理な感情によって。それが、彼の最強の技を、内側から握り潰した。
「あはははははッ!!」
夏希が、腹を抱えて笑い狂った。
「わかった!? 今のあんたの顔! 完璧な機械が、たった一粒の『感情』でぶっ壊れる瞬間! ああ、たまらないねえ!」
彼女は身を乗り出し、蛇のように囁く。
「これで一勝一敗。……次の三回戦が、すべてを決める。あんたのその脆いメンタルで、私の悪運に勝てるかな?」
夏希は、恍惚とした表情でどんぶりを引き寄せた。
「あんた、私がどうしてこんな泥臭い賭場を開いてるか分かるかい? 冬美の『表』のシステムは完璧だ。でもね、あそこには『本気』がない。TOKに守られ、計算されたリスクしか取らない連中ばかり。……私はそれが、吐き気がするほど嫌いなんだ」
夏希の瞳の奥で、暗い炎が揺らめく。
「私は見たいのさ。人間がすべてを失う極限で、虚栄の仮面を剥がされ、剥き出しの『本気』を晒す瞬間を。……そして何より、私自身が心底震えるほど『本気』になれる相手を、ずっと探してる!」
カランッ、カラララッ!
渇望をぶつけるように投げ入れたサイコロは、「三・三・四」。手堅い「四」だ。
「私の目は四だ。……振りな、矢川蓮。あんたの隠した『本気』を、見せてくれ」
矢川は、しばらく下を向いていた。
だが、拾い上げたその指先に、もう震えはなかった。
「……なるほど。あなたの行動原理は、理解しました」
矢川は、ゆっくりと顔を上げた。その瞳は、怒りでも絶望でもなく、透き通った薄氷の冷たさを湛えている。
「先に、一つ認めておきます。……二回戦のあの動揺は、演技ではない。本物です」
「……何?」
夏希の笑みが、止まった。
「七瀬たちの顔がよぎった瞬間、俺の制御は、完全に崩れた。あれは、俺の紛れもない弱さだ。……ですが」
矢川の声が、氷の刃に変わる。
「崩れたその一瞬で、俺は理解した。あなたが本当に欲しいのは、俺に『勝つこと』ではなく、俺が『壊れる姿』だ」
夏希の顔から、血の気が引いていく。
「だから俺は、崩れた投擲を中途半端に取り繕うのをやめた。むしろ、最も無様な負け『完璧な破綻』を、あなたに差し出した。あなたを満足させ、警戒と小細工を、根こそぎ解かせるために」
「……まさか、あの負けを、餌に——」
「本物の動揺を、そのまま囮に使わせてもらった。……あなたは、見事に食いついた」
矢川は、三つのサイコロを指の間に挟んだ。
心拍、血圧、呼吸、体温。すべての揺らぎが、矢川自身の意志で、再び凍りつく。
「乱数の揺らぎを、完全に相殺する。……これが、俺の『本気』だ」
手首が、機械のように正確な軌道を描いた。
チリッ。
サイコロは内側の曲面を滑るように走り、ぶつかり合うことなく、最初からそこにあったかのように、静かに底へ着地した。
出た目は「一・一・一」。最高役。
「なっ……ブっこみ……!?」
夏希は、どんぶりの底を凝視したまま凍りついた。
彼女が求めていた『人間の本気』。それは、泣き叫ぶことでも、怒ることでもなかった。極限の重圧の中で己の心身を完璧に支配し、恐怖すらねじ伏せる、この薄氷のような男の姿、そのものだった。
「ピンゾロ。三回打って、二勝一敗。……俺の勝ちですね、夏希先輩」
重い沈黙が、地下室を支配する。
やがて、夏希はガクリと肩を落とし、顔を覆って、高く、澄んだ声で笑い出した。退廃的な狂気ではない。憑き物が落ちたような、純粋な歓喜の響き。
「……あははっ、負けた。完敗だ。あんた、本当に化け物だね。すべてを失うかも知れない土壇場で、あんなブっこみを……」
夏希は、火照った頬に手を当て、熱っぽい瞳で矢川を見た。
「ありがとう。久しぶりに、心臓が爆発するくらい『本気』になれた。あんたに出会えて、よかったよ」
「勝負は終わりです。約束通り、『工藤が売った情報』と『二階堂冬美の弱点』を頂きましょう」
夏希は、シガーケースから小さなUSBメモリを取り出し、テーブルへ滑らせた。
「工藤が売った情報だ。オマケも入れといた、監査委員会の犬が、あんたたちをどう料理する気か、そのレシピもね。……そして、冬美の情報だけど」
彼女は座り直し、初めて真剣な、微かな恐怖の混じった目を向けた。
「冬美はね、完璧なシステムを信奉する冷酷な女王に見えて……『自由』がない。あの子もまた、『怯えている』からさ」
「怯えている?」
「冬美は毎月一度、学校ネットワークの奥底にある『不可視のアカウント』へ、膨大なデータを送り続け、代わりにTOKを得ている。……生徒会の五重の塔も、この裏の賭場も、所詮は『ある存在』が作った実験施設の一部にすぎないのさ」
矢川の脳裏に、かつてないスケールの回路が開かれる。
「……その『不可視のアカウント』の主が、この入徳館の、真の支配者だと」
「名前は誰も知らない。冬美はただ、彼らを『観測者達』と呼んでいたよ」
夏希は自嘲した。
「あいつらを出し抜くなんて、私にはできない。……でも、あんたのその狂った頭脳なら、あるいは、ね。せいぜい、冬美のように利用されないよう、気をつけることだ」
矢川は、USBメモリを静かにポケットへしまった。
「……有益な情報に感謝します。いずれ、その『観測者達』も、俺が制圧してみせましょう」
踵を返し、重い鉄扉へ向かう矢川の背中を、夏希は、極上のエンターテインメントを見つけた者の、熱を帯びた瞳で見送っていた。




