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夢と現実

「だれか一人が見ただけの夢なら、それほど気にしませんが、三人が同じ夢を見たとなると、話は別です。

無視するほうが愚かです」

騎士団長は答えた。


「私が夢で見た感じで言うと、魔物たちの数は300ほどいる可能性がある。

これで勝ち目はあるか?」

ジルベルトは尋ねた。


「どういうタイプですか?羽の生えたものはいましたか」

騎士団長は答えた。


「いや……、羽の生えたのはいなかった。猪のような魔物が大半だった」

ジルベルトは言った。


「それは四つ足でしたか?」

騎士団長は答えた。


「そうだな。四つ足だな。獣に近いと思う」

ジルベルトは言った。


副団長が戻ってきた。

騎士団長は副団長に経緯を話した。


「副団長、もしお前ならどうする?」

騎士団長は尋ねた。


「そうですね。正面からまともにぶつかり合うと、我が軍は壊滅するでしょう。

奇策が必要ですね」

副団長は答えた。


「奇策か……。俺はそういうのが苦手なんだよね」

騎士団長は頭をかいた。


「私もだ。正面から叩くのが好きだ」

ジルベルトは言った。


「私もです。剣と剣との戦い。男と男の戦い。そういうのが好きです」

騎士団長は答えた。


「ごほん。では私が……、

まずこの谷に魔物が入ってきたところで、

上から岩を落とし、入り口と出口を防ぎます」

副団長は言った。


「成果は出そうだが、騎士としての名誉が……」

ジルベルトは眉間にしわを寄せた。


「そうだな。それは俺にも指揮はできん」

騎士団長は答えた。


「ちょっと待ってください。騎士としての名誉より、領民たちを守ることのほうが大切では?」

副団長は机を叩いた。


「とはいえ、それでは恥知らずになる」

ジルベルトは言った。


「ああ、まったくその通りだ。入口で待ち伏せするほうがよっぽど良い」

騎士団長は答えた。


「しかし……それでは」

副団長は言葉を失った。


「そういうことだ。では偵察からの報告がありしだい、入り口で叩こう」

ジルベルトは言った。


「わかりました」

騎士団長は答えた。


副団長は唇を噛みしめたまま、何も答えなかった。


……


副団長は考え込んでいた。

たしかに入口で待ち伏せをすれば、勝てる見込みはゼロではない。

しかし、

もし300の魔物に100の兵で立ち向かえば、ケガ人だけではない。

死人も必ず出る。

自分にそれが耐えられるのか?


かといって、名誉を重んじる騎士や領主に、正論で立ち向かっても、勝ち目はない。

本人たちも、

自分が間違っていることは認識している。

ただ、

騎士や領主という立場が、彼らをそうさせているのだ。


私は違う。

平民の出身だ。

名誉よりも、今日食べる食料。今日生き抜ける保障だ。


副団長は家に帰った。

身重の妻と娘との三人暮らしだ。

自分が戦いで傷つけば、彼女たちの未来も保障できない。


「相談があるんだ」

副団長は言った。


「どうしました?」

妻は尋ねた。


「国が危機的状況に陥る可能性がある。しかし上は名誉を重んじて、愚策を取ろうとする」

副団長は答えた。


「はい。私に何かお手伝いできることはありますか」

妻は言った。


「策を講じたいのだが、人手がいる。金をなんとかできないか?」

副団長は答えた。


「人手はどのくらい?」

妻は言った。


「多ければ多いほどいいが、最低でも10人は欲しい」

副団長は答えた。


「その任務は命の危険は伴いますか?」

妻は尋ねた。


「完全に安全だとは言えないが、安全なところからの作業だから、命の危険まではないだろう」

副団長は答えた。


「具体的な作業を聞いてもいいですか?」

妻は尋ねた。


「谷の上から、岩を落とす作業だ」

副団長は答えた。


「あなた、申し訳ありません。うちには余裕がありません。しかし男衆10人くらいなら集めることはできます。

それでよろしいですか?」

妻は言った。


「ありがとう。しかしどうやって」

副団長は尋ねた。


「それを聞いて、どうされるおつもりですか?」

妻は言った。


「いや。別に」

副団長は答えた。


「それであれば、聞かないのが男ってもんですよ」

妻は笑った。


……


次の日の夕方。

偵察は帰ってきた。

報告によると、

魔物の数はおよそ400。

ジルベルトの予想より多かった。


騎士団長は、

騎士団員に号令をかけ、入口付近に向かわせた。

丸太で柵を作り、魔物たちを迎える。


副団長は、

身体を壊したと嘘をつき、

任務を逃れた。

副団長がいないということで、部隊の指揮は下がっていた。


そして副団長は、

谷のもう一つ奥の谷へと向かっていた。

そこで策を仕掛けるためだ。


仕掛けがようやく整ったその時、

谷に土煙を上げて、魔物が突っ込んでくる。


「今だ」

副団長は叫んだ。


谷の頭上から、

岩が降ってくる。

瞬く間に、

前方は魔物の血で真っ赤に染まった。

行進が急に止まり、谷は混乱している。

後続の魔物の牙が前方の魔物の背や腹に突き刺さり、

さらなる混乱を呼び起こす。


「次だ」

副団長は叫んだ。


彼らは再び岩を落とす。

今度は魔物を岩で封じ込めるように、

戻る方向を岩でふさいだ。


行き場を失った魔物たちは混乱を極め、同士討ちを始めた。


空腹だったのか、

魔物たちは同族を食い、

さらなる混乱を招いた。


「地獄絵図だな」

誰かが言った。


副団長は、

ジルベルトや騎士団長が、

名誉を求める理由が少し理解できた。

こういう策は、

兵を損なうことはないが、

心に深い傷を受けることを、

身をもって感じたのだった。


(うぎゃー)

辺りから魔物たちの断末魔の叫びが聞こえる。


3時間ほどして、

谷は静かに静まり返った。

どこからともなく、獣や鳥がやってくる。


凶悪な捕食者である魔物たちも、

死んでしまえば、ただの餌なのだ。


魔物がいままで捕食していた生物達に捕食される姿は、

いささか滑稽でもあったし、

哀れでもあった。


冷静さを取り戻したとき、副団長は考えた。


領主と騎士団長にどう詫びようかと。


そもそも詫びる必要はあるのかと。


そして、

もし咎められたら、騎士団をやめようと、

そうも思っていた。


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