報告
朝ご飯を食べ終わり、
俺は悩んでいた。
歯磨き……。
どうしよう。
歯磨きをするには、下の階の洗面所にいかないといけない。
しかし、この部屋から出ることはできない。
俺は歯を舌で確認する。
いつもは粘っこい口内がやけにスッキリしていた。
「あれ……、口の中がスッキリしている」
俺は呟いた。
「口の中がどうしたの?」
ジュノは尋ねた。
「いや。歯も磨いていないのに、口の中がスッキリしているんだ」
俺は答えた。
「人間って歯を磨くの?」
ジュノは尋ねた。
「妖精は磨かないのか?」
俺は尋ねた。
「私はダンちゃんにやってもらってるから」
ジュノは言った。
「それは便利だな」
俺は呟いた。
しかし、
ちょっと待てよ。
身体がかゆくない。
いつもはどこかしら、かゆいことがあるのだが、
まったくかゆくない。
ふと顔を触る。
顔も脂ぎっていない。
服のニオイを嗅ぐ。
ニオイもない。
靴下を脱いで、ニオイを嗅ぐ。
「ニオイもしない。かゆくもない」
俺はつぶやいた。
ジュノがダンちゃんと話している。
「ダンちゃんがね。ツヨポンが汚れてたからキレイにした。
悪気はないけど、あのままだとヤバかったから……、
俺らは気持ち悪がる人間も多いから。
気を悪くしたらゴメンだって」
ジュノは言った。
そうか……。
ダンちゃんがキレイにしてくれたのか。
ジュノはダンちゃんの頭をなでている。
「ダンちゃん。ありがとう……。
怒ってはないよ。
良かったら、またやってくれるかな?」
俺は尋ねた。
ジュノがダンちゃんと話している。
「気が向いたらな。だって」
ジュノは笑った。
俺はしばらくジュノと話をし、
掲示板に向かう。
スレ民達に聞いてみよう。
……
71 :さすらいの自宅警備員:
ありがとう。
クエストは成功した。
72 :ながしの女:
良かった。
73 :名無しのオカルトマニア:
それ夢で見たよ。
74 :すらいむ:
俺も見た。
住民が歓喜に沸いていた。
75 :名無しのツボ民:
まさか、
このスレの住民達が、
異世界の住民達の命を救うなんて
76 :ながしの女:
救われたのは、私のほうかもしれない……。
77 :名無しのオカルトマニア:
76なにかあったのか?
78 :すらいむ:
いや触れないでおこう。
79 :ながしの女:
ごめん。
アニメの名言っぽいセリフ言ってみたかったのorz
80 :さすらいの自宅警備員:
ありがとう。
ただ、
まだ4999の街や村が残っている。
あまりにも多すぎて絶望すら感じる。
81 :名無しのツボ民:
そうか……。
どれくらいのスピードでやる必要があるんだ?
……
俺はその書き込みで、
背筋がぞっとした。
そうだ。
無期限でできるわけではない。
ふとジュノを見ると、
美少女フィギュアの観察をしている。
フィギュアのようなジュノが、フィギュアを見ているのは、
なんかおかしな様子だった。
「ジュノ……、
このクエストには期限とかあるんだよな」
俺は尋ねた。
ジュノはその一言に、
ビクっと体を震わせる。
あぁ何かロクでもない事なんだろうな。
俺はそう直感した。
しばらく沈黙が続く。
「そうね。長くて3年……、
持てば良いほうね」
ジュノは言った。
「そうか……、
わかった」
俺は答えた。
俺は再び掲示板に戻る。
……
82 :さすらいの自宅警備員:
長くて3年……、
持てば良いほう
だそうだ。
83 :ながしの女:
長くて3年って、
それにあと4999ある。
どうすれば良いの?
84 :名無しのオカルトマニア:
1年365日。
長くて3年なので、
仮にタイムリミットを2年と設定し、
730日
1日6.8クエストの消化が必要になる。
85 :すらいむ:
1日6.8クエストの消化って、
回線の負担は大丈夫なのか?
……
俺は、
ジュノを見る。
この小さい身体に、
その負荷は大丈夫なのか?
それに俺やスレの住民たちも一日たりとも休めない。
身体も心も持つのだろうか?
ジュノは美少女フィギュアとにらめっこをしている。
その姿がほほえましく、
守りたいと思った。
……
86 :さすらいの自宅警備員:
耐えられるかどうかは、
データ量しだいだし、
先のことはわからない。
ただ負担は減らしてやりたい。
87 :名無しのツボ民:
そうだな……。
考えなしに聞いてしまった。
すまん。
そうだな。
リバーシのように、
どこか触ったら一気に盤面が変わるようなことはないのだろうか?
……
俺は、
しばし考える。
たしかに、
4999の街や村に一つずつ指令を出すのではなく、
一気にかたをつけるような、
そんな何かはないのだろうか?
ふと気が付くと、
ジュノは掲示板を見ていた。
「ジュノ、見ていたのか」
俺は言った。
「ごめんね。ずいぶん心配をかけているみたい。でも大丈夫よ」
ジュノは笑った。
俺にはジュノの笑顔が、ムリをしているように見えた。
「わからないかもしれないが、この一気にかたをつけるような何かって、ないだろうか?」
俺は尋ねた。
ジュノは考える。
「ごめんなさい。私にはわからないわ。でもないわけじゃないとは思う」
ジュノは答えた。
ないわけじゃない……。
思うという彼女の希望的観測に過ぎないが、
それは少し心強いものだった。
「そうか……。
じゃあこれからは、
俺らスレ民達の出番だな」
俺は笑った。
俺は掲示板に戻る。
……
88 :さすらいの自宅警備員:
希望的観測に過ぎないが、
”わからないわ。でもないわけじゃないとは思う”
と言われた。
89 :名無しのツボ民:
それは誰に?
女か?
90 :ながしの女:
私も興味ある。
91 :名無しのオカルトマニア:
詳しく
92 :すらいむ:
禿同
……
俺はジュノを見る。
どうぞと彼女は言った。
なぜここまで無警戒なのだろうか。
そうか……、
ここは外界と隔離された場。
情報が漏れたところで、
問題ないのかもしれない。
それに妖精と言ったところで誰も信じないだろう。
……
93 :さすらいの自宅警備員:
妖精の女の子だ。
94 :名無しのツボ民:
マジか。
なんてリア充な。
95 :ながしの女:
すごい。
96 :名無しのオカルトマニア:
うらやましい。
97 :すらいむ:
禿同
98 :名無しのツボ民:
可愛いのか?
99 :さすらいの自宅警備員:
あぁ。
みんなやる気がなくなったか……。
なんかすまん。




