五十三話『お前がはじめた物語だろうがあああああああああああ‼』
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クロウサギの指令室では、ダークマスターがカメラを怜士に向けていた。
「なぁ、なんで外にあの男を出しているんだ?あいつは強いから幽閉しているんじゃないのか」
ダーククイーンが尋ねる。
ダークマスターは「内通者の医者に葛城怜士の処方薬を従来の不安薬からエネルギーの増強薬にすり替えさせて貰った。本来は宇宙人ようだけどな」と説明する。
ダーククイーンは「は?敵を強化してどう……」
と言いながら、ぽかんと目を見開く。
ダークマスターは「人の話は最後まで聞け」と食い気味にダーククイーンを黙らせる。
数秒の沈黙。
「こちら側にスーパーイエローを引き摺り込む」 ダークマスターが言うと、「じゃあ最初から」とダーククイーンは言った。
だがダークマスターは首を横に振る。
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「どっちみちあの仕様のままじゃ使えなかった。閉鎖病棟に放り込んだのは正解だったよ。あの面倒なやつを味方にする策も浮かんだしな」
とダークマスターが説明する。
葛城怜士は確かに強力な味方になり得そうだが。
「でも、お前はひとつ考えが足りてないぞ。そんなのさらに強くしてこちらの領域に引き入れて此処で攻撃ぶっ放されたらどうするんだ」
ダーククイーンの指摘に、ダークマスターは「うぐ」と言葉を詰まらせる。
「スーパーイエローを味方に引き入れるためにやるべきは増強じゃなくて火力のバランス調整だろ」
ダーククイーンに言われたダークマスターは「悔しいがその通りだ」と答える。
「それに、私の質問は葛城怜士をなぜ外に出すか。だ。調整ぐらい中で出来る」
と言うダーククイーンに、ダークマスターは
「身体全体のステータスを整えなければ戦士の最大火力は発揮されない。葛城怜士は長いことベッドの上で過ごしてきた。ダーク戦士として戦闘に放り投げる前に徐々に身体を慣らす必要がある」
と葛城怜士の入院資料を見ながら説明した。
「つまり、リハビリか。にしてもやたらセキュリティーの甘い病院だな。お前が全てセットしているからそうなるのかもしれないが。本来の病院はそうも行かんぞ。」
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ダーククイーンの指摘に、「健康体だったものでその事情はわからないな」と口元だけで嗤うダークマスター。
「嘘をつけ、精神を病んでいたくせに」
ダークマスターの綺麗に手入れされた仮面が、パソコンの横に置いてある。
【国立創集院大学附属創衆院中学校・高等学校入学記念品】と書かれたシャープペンシルも、 名前の部分が黒く塗りつぶされている使い古したノートの上に乱雑に置かれている。
デスクは整頓されていて本や資料がズラリ。
指人形は雛人形のように段になっている透明のアクリル展示台に飾られている。
デスク後ろの本棚には愛読書が並んでいる。
百冊はあるだろうか。大人向けの心理学や日本憲法など真面目な本の中で【ヒーロー大全】なんて雑誌が異彩を放っている。
その隣には、資産家、レイ・テンダー氏の著書。以前より本が増えている?
写真立てには黒髪ロングヘアで控えめにピースサインを作る少女と、高校生ぐらいで赤髪、満面の笑みを浮かべ両手にピースサインを作る男子が遊園地でデートしているような、少し色褪せている写真。
すぐに隠せるようにか、裏面にはカラオケの椅子で変顔をする青髪の高校生男子の写真が。
所謂、リバーシブルフォトスタンドだ。
デスクの横には小型のテレビが配線が見えない状態で設置されている。
ダークマスターが日頃滞在する指令室。デスクの引き出しをダークマスターが開ける。
そこにも大量の資料が。ここまで調べて何をしようとしているのだろうか。
【光道教記 令和八年~】と書かれたドキュメントファイルをダークマスターが取り出す。
ダークマスターは、「……」とその書類に目をやった。
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「サユリとヒロムを高校生当時の姿にしたのは何か理由があるのか」
とダークマスターに尋ねるダーククイーン。
「お前が一番わかってるだろう?本当のヒロムは……。高校二年の時点で既に死んでいる。だからヒロムに合わせるには……」
と拳を握りながら言うダークマスター。
ダークマスターは壁にダーククイーンの背中を打ち付け、両手で首を絞める。
「大体お前がいなければそもそもこんなことしなくていいんだよ、俺も大罪人になんてなってなかった、カレンも、ヒロムも、…サユリだって‼お前がいなければこんなことにならなかったんだ‼すべての呪いのはじまりはお前みたいな死神が俺の前に現れたから‼俺の人生を全て壊して‼それでお前らだけ観測者気取りで‼調子のいいことを言って‼私たちの責任じゃないですみたいな面浮かべて‼俺の家族の人生も、俺の友達の人生も、俺の女の人生もぐちゃぐちゃにして、それでよく俺の隣にしれっと立ってるな⁉無いのかよ、罪悪感は、無いのかよ、ここまで俺を見てきて何か感情は⁉嗚呼無いだろうな‼無いだろうよ‼寧ろ楽しいんだろ⁉壊れていく俺で遊ぶのが、お前にとってはオモチャ同然、ただの物語の登場人物でしかないんだろ⁉なぁ、答えろよ、俺に、俺の家族に、俺の友達に、俺の女に‼謝れ‼」
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早口でダーククイーンに怒鳴るダークマスター。
ダーククイーンは白けた顔を浮かべる。
「死神は何をされても痛みを感じない無痛だ。どんな攻撃も聞かない。お前の怒りは全て無意味だ。それに、守るとか抜かして運命に従う事を選んだのはお前だ。今更後悔したって遅い」
ダーククイーンの言葉を聞いてダークマスターはガンッと壁を垂直に殴る。
「何が光道教だ、何がZ2だ。俺が……俺が本当にやりたかったのは……」
声を震わせるダークマスター。
ダーククイーンはするっとダークマスターの腕から避ける。
「諦めろ。」
ダーククイーンの冷たい声が槍のようにダークマスターを突き刺した。




