五十一話『ちょっと待てええええええええええええええええええええ‼』
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「余計事をするなと言っただろ、ダーククイーン」
クロウサギの指令室で、ダーククイーンを詰めるダークマスター。
ダーククイーンは「余計事とはどれの事だ?私は今回かなりの余計事をしたぞ」とダークマスターを煽るように口角をあげる。
ダークマスターは「全部に決まっているだろ」とめんどくさそうに答えた。
「サルジマはあそこで死ぬ予定だった。本来のプロットでは。それに本来はレッドがあの場でサルジマを倒したときに普通に怪物に勝っているはずだ。軌道を勝手に変えるな。その上レッドの脳内にまで侵入して。ふざけるのも大概にしろ」
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ご立腹のダークマスターに、ダーククイーンは「いいじゃないか。仲間は一人でも居たほうが」と答える。
「ならなぜソードを助けない」とダークマスターが言うと、ダーククイーンは「お前だってあそこでソードを助けられるのに助けてないだろう?」と首を傾げた。
「…ソードは俺が求めるストーリーには必要が無いことが後からわかった。なぜならあいつは俺を信頼していない。あいつは俺を否定する存在だがストーリーに利用出来るかと思えば、そうでも無かった。ミドハラに殺意を向ける上に、協調性が無い。つまり、扱いづらいプログラムだったというわけだ。ただ正規の進行をするには必要不可欠。…最初からこうする予定だった」
ダークマスターの言葉を、ダーククイーンは要約する。
「さっさとダークビリーブを使いたかっただけか」ダーククイーンは続ける。
「お前は他人のことをなんだと思ってる」
ダーククイーンの問いに、ダークマスターは深刻そうな表情を浮かべる。
その横顔は顔がフードで隠れていようと美しく、整った顔立ちをしていることが手に取るようにわかる。
「沈黙」
ダーククイーンはそう言うと、「それが正しい答えだとでも言いたいのか」とダークマスターをバカにするように笑った。
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「おや? 不思議だな。貴様はアニメや漫画に興味が無いと言うのに、自然とこの台詞が出てしまったよ。でも、よく知ってたな。ピンクやブラックが読んでいる漫画も、お前が内容を知らないとこの世界に配置することなどできないだろ」
ダーククイーンの指摘に、ダークマスターはパソコンが置いてあるデスクに座りながら、「耳タコだったんだよ」と答える。
「ヒロム……いや、俺の親友が腐るほど漫画やアニメについて話してたんだ」
と切なげな声色でモニターに映る青髪の男子高校生が黒髪の女子高校生と帰宅する姿を眺めながら呟く姿は、何処か哀愁が漂っていた。
フードからチラリと見える赤い目は、モニターの映像に映る夕焼けとよく似通っている。
ダーククイーンは「友達には何も知らず幸せでいてほしい。そんなところか。お前は現実逃避が大好きなんだな、昔から」とダークマスターの優しさを嘲笑った。
「天下の大罪人が友達想いの少年。私が描いたストーリーのほうがお前が作るストーリーより出来が良いぞ」
ダーククイーンの言葉を聞いたダークマスターは「……黙れ」と地雷を踏まれ静かに怒る。
「嗚呼……地雷か」と目を丸くするダーククイーンを、ダークマスターは怒りのままに床へ強引に押し倒す。
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「きゃッ」と高い声をあげるダーククイーン。
「ダークマスター様……」
マツがガチャッと扉を開ける。
「え」
固まるマツ。
『ちがう‼誤解だ‼』
すぐさまボイスチェンジャーをつけてマツに叫ぶダークマスター。
「ええええええええええええええええ⁉」
マツは驚き「大変だああああああああああああ‼」と言いながら走っていく。
「待てマツ‼」
ダークマスターはすぐさまマツを追いかける。
「ふッ」と面白がるように笑うダーククイーン。
「久々に見たな。あそこまで焦るダークマスター様」
がら空きの扉を見ながらダーククイーンは呟いた。
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マツはクロウサギのアジトを駆け回りながら、「大変だ大変だ大変だ‼」とダーク戦士たちの移住地を走り回る。
「ダークマスター様とお妃様がセッ‼」と全員に言いふらしていくマツ。
ダーク戦士たちは「なんの騒ぎだ⁉」と次々アジトのロビーへ顔を出す。
「ダークマスター様がお妃様の上に、あ、あの、覆いかぶさって、その、命をはぐくむような行為を成され……」と混乱しながら見たものを説明するマツ。
末端のダーク戦士たちが、ざわざわ、ざわざわと顔を見合わせて話し出す。
「うそ……」
「ダークマスター様……」
「そんな……」
「まさか……」
などと噂話が各々飛び交う中、ムクロは黙って下を向いていた。
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お妃様が嘘をつくはずない。誤解だと信じているかのように。
当の本人、ダークマスターが現れると、「うわぁ……」とどよめきがロビー中に交差する。
サルジマが「ダークマスター様……。あぁダークマスター様、私は気にしませんよ⁉ そりゃあ人間ですもの‼ やりたいときはぱぱあっとやりた……」と言いかけるサルジマの尻を、ミドハラは思いっきり蹴とばす。
「ったく誰だくだらねぇ噂流してんのは」とキセルを蒸かしながら言うミドハラに、ダーク戦士の一人が「マツです‼マツが見たって」とマツを指さしながら叫ぶ。
「不敬罪で切腹モンだぞマツ‼」
怒鳴るミドハラに、「ヒィィ‼」とマツは怯える。
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ダークマスターに視線が集まる。
「……」
ダークマスターは数秒黙った後、
『変な噂が飛び交っているらしいが、全てはマツの誤解だ。ただ一つの噂如きで全員集まるな。末端は末端らしく調査や営業の仕事を。幹部はただのデマに踊らされるな、バカタレ。マツは後で私とゆっくり話そう』
とダークマスターは語った。
だがダーク戦士のうちの一人が、迫真の演技とやたら良い声で「嘘だッ‼」と大声をあげた。
ダーク戦士たちもがやがやと騒ぎ出す。
『静粛に‼』
ダークマスターは顔が見えないようにフードを深く被りながらドンッと杖を床に打ち付けて鳴らすのだった。




