三十八話『なんか社会って一定数、自分が正しいって思ってるやついるよね』
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後日。ダークマスターは仮面にマント姿で真っ先にムクロに会いに行った。
ムクロは「ダークマスター様」と目の前の男の名前を呼び、会釈する。
ダーククイーンも後ろに現れては、「お妃様」と、女にも会釈をした。
ダーククイーンは、「上出来だな。」とムクロを褒める。
「この馬鹿な男に気に入られただけある」
ダーククイーンに言われたムクロは、
素っ気なく「そう」とだけ返事した。
ダークマスターは『この女と意見が合うのは気に食わないが。ソードがいない今、お前が一番期待出来る』と頷いた。
技術。思考。どちらをとってもムクロは優秀だ。
ダーク戦士をプロデュースする身としては、彼女を選ぶ他、無い。
ムクロは、「ダークマスター様に更なるお褒めの言葉を頂けるように、勤めて参ります」と跪いた。
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ムクロの部屋は綺麗に整頓されていて、壁は白一色。
白のシングルベッドにはネイビーで統一された寝具が配置されている。
机もホワイトとネイビー。後はムクロの好みか、
白檀のアロマの香りが、部屋に漂っていた。
『ムクロ。お前の武器を改良させて貰った。私の杖のマイナスエネルギーと共有できるようになる。これは強力だ。その上、ラビット・フレーバーのその個体も少し強化した。あいつらならきっと倒せるはずだ。だがお前は全力でレッドを殺しに行け。』
ダークマスターに言われたムクロは、「当然です」と答える。
「また私が戦士たちに勝てたらその時は再度お褒めの言葉を頂けますか」
ムクロの問いに、ダークマスターは『いいだろう』と答えた。
満足気に微笑むムクロ。
その表情を見ては、『お前は笑っているほうが似合うな』と仮面の下で口角を上げるダークマスター。
ダーククイーンは、「ムクロ。お前はこの男に褒められることが目的なのか?」とムクロに尋ねる。
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ムクロは、無機質な瞳をダーククイーンに向けた後、
「ええ」と水面のように透き通った声色で答えた。
十三の幼気な少女の声であるのに、何処か含みがあり、不気味さを感じられる。
「どうしてこの男に褒められたいんだ」
と尋ねるダーククイーンに、
ムクロは「それでしか自分を高める手段がないから」と答える。
どうやらムクロはダークマスターしか眼中に無いようで、ダーククイーンには何処か冷たく接する。
ダーククイーンは、「そうか……」と少し慈悲の視線を深く被ったマントのフードから、ムクロへ向けた。
『また近日。レッドを襲撃しろ。』
ダークマスターに指示を出されると、ムクロは嬉しそうに「御意」と答えた。
新たな鎌と、強化されたラビットキューブをムクロへ与えては、
ダークマスター、ダーククイーンの二人はムクロの部屋から去っていく。
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指令室に帰っては、装置に触れて妨害電波を宇宙警察ステーションに向け放っていく。
なぜ彼がそう言った事をするのか。
ダークマスターは宇宙警察ステーションに滞在する者たちに先にこちらの思惑を見抜いて欲しくないからだ。
こちらの思惑を見抜くのはレッド。
江藤新一ひとりで充分。
そんな考えがダークマスターにはあった。
狙いは、江藤新一。
ダークマスターは江藤が負けて絶望しても、江藤が勝って自分を裁いたとしても。
どちらに転んでもこの偽りの宇宙で覆われた繭に閉じこもる行為には価値があった。
まぁ、望みは後者であることには変わりないが。
とにかく、ダークマスターはレッドに
【自分をこの無限の地獄から救ってほしい】。
そんな叶わぬ願いがあった。
ダークマスターは特別な視点を持つ。
この宇宙の誰もが辿り着けない真実を握っている。
ダークマスターは知っている。
江藤たちが知りたく無いことを。
ひとつひとつの記憶の欠片を。
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特に、佐倉光太郎は発狂するだろう。想像に容易い。今までの行為が全て【無意味】だと真正面から告げられるようなものだ。
そんなこと、誰も受け入れることが出来ないだろう。
そもそも、レッド以外は自身に、【勝てないようになっている】。
絶対的な力を前にして、戦士たちはどんなことを思うか。
ダークマスターはブラックに見立てた指人形を、倒す。
そしてレッドに見立てた指人形を、サユリに見立てた指人形が置いてあるアクリル展示台の下の段に、置いた。
さらに下の段には、ホワイトにピンクやブルー、
マナや、カーガ、大佐に、佐野本部長のフィギュアまで。
レッド以外の戦士たちが鎮座している段には、
まだ現れていない黄色の戦士と、緑の戦士の姿も。
ダーククイーンは「全部お前の思い通りだな」と対象の観察を愉しむように笑った。
ダークマスターは『お前たちの干渉以外はな』と不満げにする。
「世界を構築するなら結界ぐらい張れバカタレ」
ダーククイーンに言われては、『そんな高度な事、死神で無ければ無理だろう』とダークマスターは愚痴を吐く。
「だからお前が死神にさえなればこんな面倒も無ければお前だって辱めを受ける必要などなかった」
ダーククイーンが責めるようにダークマスターに言うと、
ダークマスターは『自分で考えた最適解がこれだった だけだ』何かまた次の行動の策を考えながら言葉を返した。
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「死神でも無い癖に地獄に来てまで能力を欲求するとはな。能力を使えば使うほど業へ反動が来る。来世がどうなっても知らないぞ。それともこのループを続けて本当に泡になる気か。お前はいつも選択を間違える。まぁ、お前を擁護するのであれば、お前に能力を授けた無責任な死神もこれまた馬鹿であるがな。」
ダーククイーンの言葉に、『お前だって。いつも俺の行動に口出しするだろ。そもそもな話、お前がいなければこんなことする必要も無いんだよ。一生言ってやる。言い続けてやる。お前が嫌いだと』と恨み節を交えながら答える。
ダーククイーンは「……」と寂しそうな表情を浮かべた後、
「私を散々利用してきたのはお前のくせに、よく言う」と言い返した。
沈黙。指令室は沈黙で包まれる。
暫くして沈黙を遮るように、
ダーククイーンが「出かける」と呟き部屋を立ち去って行った。




