三十四話『良い子は早く寝るべきって言うけど寝不足な大人はどうなるんだ?』
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僅か十三の少女、ムクロは夜の街を彷徨い歩いていた。夜はクロウサギが来ない。
ヒーローたちにもそんな先入観があるだろうと考えて。
そもそも、敵がヒーローたちの時間を考えて襲撃していた従来の幹部たちのほうがおかしいのだ。
その上、深夜ならばヒーローたちも眠っている最中。寝起きで戦おうとコンディションは良くないはずだ。
「月」
ムクロは夜空を見上げた。
ムクロは太陽より月のほうが好きだった。
なぜなら親近感が湧くからだ。 多くの人が見る日中の光は、なんだか自分の手の届かない位置にあると思っていた。
自分は日の光を浴びるより月の光を浴びたほうが気分が良くなる。
波長が月の光に合っている。ムクロは以前のダークマスターの言葉を聞いてそう思った。
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月の光照らす如月の街を、ムクロは静かに歩く。人っ子一人いない。
ムクロは、ジャストタイミングで現れた細身の男を、「…」と不審に思い、見つめた。
男は喋らない、動かない、ただその場で佇む。後ろを束ねた長い髪、紫色の目。
「…」
男は一切の発言をしない。
まるでプログラミングされているかのように。
でも確かなマイナスエネルギーを感じた。
「…憑かれてる」
ムクロはそう言うと、「ワン・デバイド」と唱え、変身する。
ダークビリーブ。ダークマスターに与えられた、称号。
ダークビリーブは、白猫の耳を生やし、尻尾を揺らしながら暗い紺色の髪の先を揺らす。
「にゃー」
と無機質に鳴いたあと、爪で男の首を引っ搔き、意識を失わせる。
そのまま無言で放出される男のマイナスエネルギーを使い、怪物を産み出す。
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怪物は、「グオオオオオ!」と控えめな声で鳴いた。
スーツ姿の怪物。怪物の呻き声は控えめであれど、夜の街には充分すぎるほど、轟く。
地鳴りと勘違いしてしまいそうだ。
怪獣映画ほど派手な鳴き声ではないものの、その鳴き声に気づいた住民らが、
寝ぼけたまま「なんだ?」と目をこすって扉を開ける。
怪物を連れて普通に歩く白猫の姿をした宇宙人・ダークビリーブ。
ダークビリーブは、「どうも」と住民にぺこりと頭を下げる。
住民も、「ど、どうも」と頭を下げ、「?」と夢を見ているのかと確信し、そのまま眠りに戻っていく。
怪物を連れたダークビリーブは、特に如月の街を荒らすわけでも無く、
喫茶キュアミラージュの方向へ直進する。
ただ、必要なのはレッドの首。
それ以外の被害を大きくする気は、ダークビリーブには一切無かった。
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喫茶キュアミラージュの前に辿り着くダークビリーブ。
『CLAUSE』看板には確かにそう書いてあった。だが、それが通用するのも、客だけ。
ダークビリーブは、客じゃない。
「好きにしていいわ」
ダークビリーブが怪物に言うと、
怪物は黒い銃で三発、喫茶キュアミラージュのガラスを撃った。
襲撃─────────────────!!
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「グオオオオオオ!」
控え目だった怪物も、興奮してきたのか暴れる。
ぴょんぴょんと飛び跳ねる姿は、正しくうさぎそのもの。
「グオオオオオオ!」
怪物は割れた窓を突き進み、再び「グオオオ!」と鳴きながら、
移動用に身体を小さくして階段の上を浮遊していく。
ダークビリーブは、「…」とハイライトの無い虚な目でその様子を眺める。
レッドさえ殺せば、こっちのもの。
ダークマスター様にお褒めの言葉を頂けるかもしれない。
十三の少女はそんな期待も胸に、従順にタスクをこなそうとする。
罪悪感など、欠片も無い。
むしろ、ダークマスターの言葉が、彼女を行動へと駆り立てる。
階段を上った怪物が大きくなり、ドンッと大きな音を鳴らしながら飛び跳ねる。
「うわああああああああああ⁉」
情けない声をあげて、光太郎が起き上がる。「な、なんだお前は!」
まさかの時間に現れた怪物の姿に騒ぐ光太郎を、当の怪物は興味なさげに冷たく見下ろす。
光太郎を無視し、気づかずに眠る江藤の腕へ爪を立てる怪物。
ハツネが隣の部屋から、「うっさいな‼」と起きてくる。
「なんですか一体…」と眠たそうに目覚める江藤。
「ぎゃあああああああああああああ!」
こちらに爪を向ける怪物と顔が合った瞬間、光太郎同様、江藤も情けない声をあげる。
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深夜、三時半過ぎ。「バーニングフェニックス!」
江藤がレッドに変身し、戦士の力で怪物の爪の攻撃を防ぐ。
だが、腕から大量出血。レッドの腕から、血がポタポタと流れる。
「レッド⁉」とハツネが声をあげる。
「僕たちの眠りを邪魔しないでくださいよ…」
と言うレッドに、ダークビリーブは、
「怪物が襲撃するのは昼だけ。なんて先入観。…阿呆なの?そんなに危機感の無いあなたたちに眠りの時間なんて必要ない」
ハツネよりも背丈が低い女の子が退屈そうに呟く様子を見て、
光太郎、ハツネもレッドの両サイドに立ち女の子、つまりダークビリーブがいるほうを睨みつける。
「フレッシュピーチサンシャイン!」「ユニバースランスロット!」
光太郎とハツネも変身を済ませては、深夜に相応しい緊迫した雰囲気がその場に漂う。
年齢にそぐわない死んだ顔のダークビリーブは、紺色の鎌を振りかざす。
『うぐぐぐぐぐぐ!』
三人の身体に電流が走り、苦しみに声を上げる。
立て続けに、怪物が真ん中にいる獲物に、銃口を向ける。
「ダメッ!」
ピンクはスーツの中で目を瞑る。ブラックは黒紫の剣を召喚した。
「ランスロット・ブラック・ライトニング‼」
剣からイナズマが黒紫の光と共に現れ、怪物へと放たれる。
ピンクは「フレッシュ!ラブ・リー・チェーン‼」と叫び、自分たちをピンクのチェーンで縛ることで拘束を重複し電流攻撃を無効化する。
特殊効果は封じられた。
「ありがとうピンク!」
レッドは赤色の剣でピンクが出した鎖を斬り、全員を特殊効果と拘束から解放する。
ダークビリーブは「…」とさぞつまらなさそうにヒーローたちを見つめる。
「私はダークマスター様の下僕。ダークビリーブ。スーパーレッドを倒す事こそ使命。」
ダークビリーブはそう言うと、マイナスエネルギーをブラックとピンクに一気に放つ。
二人は『うッ!』とマイナスエネルギーに取り憑かれる。
「スーパーピンク!ロイヤルブラック!」
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焦るレッドの様子を見て、ダークビリーブは嗤った。
「正義なんて理想は、圧倒的な悪意の前には敗れる。とっとと終わらせて」
ダークビリーブの指示通りに、怪物はレッドへ迫る。レッドは赤い剣で対抗するが、
洗脳されたブラックとピンクが、黒紫の剣とピンク色の金属バット、
それぞれの武器を持って、こちらに迫ってくる。
「え…?」
レッドは驚きの声を上げ、行動を止めた。




