三十二話『自分の好きな生き方すりゃあいいんだよ』
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「出番が」「無い」
あれから数日が過ぎた頃、
オカマバーを喫茶キュアミラージュがあるビルの三階で営むサチコと、
その手伝いで金銭に関する事を任されているサチヨが顔を客が向けるカメラの前に突き出しながら愚痴る。
客は「出番ってなんの出番だよ~」と二人の勢いに圧倒されながら笑う。
サチコは、「ヒーローたちは活躍しているのに!私たちは一切の活躍が無いじゃない!」
とカメラをぺしぺしと叩きながらご立腹の様子だ。
サチヨも、「そうよそうよ!あの子たちばっかりいい恰好して!私はいつもこの絢爛豪華なオカマのキャバクラで働くばかり!私だってね!恰好いいとこ見せてやるんだから!ば~っちり撮りなさいよアンタ!」と客にはっきりと言う。
撮影役を任された客は、「御意」と答えた。
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一気にゲーム会社のプロモーションビデオのような雰囲気を纏うサチコ。
サチコは、 「皆様。サチコの部屋へようこそお越しくださいました。私は世間ではオカマと呼ばれる人種。ちんちんが生えているけれど可愛い人。略してち●かわ」と真剣な表情、真剣な口調、真剣な仕草でボケる。
客は「はいはいアウトアウト!」と両手を叩いた。
サチヨは「サチコの何が気に入らないのよ!」と客を不当に怒る。
客は「ち●かわはどうみてもアウトだって。子供たち、さらには大人たちの夢まで壊しかねないから。」
と各所からのクレームに怯えながらツッコミを入れる。
サチヨが、「じゃあ私がやるわ」とサチコとハイタッチして交代する。
「ハーイエブリワン。ウェルカムトゥオカマバー。」
渋い男性風の低音ボイスで英語をスラスラと言うサチコ。
客が 「ネズミーランドみたいだな!それに顔と声が一致しねぇ!」 と慣れたように突っ込む。
テーブル席で飲んでいたほかの客とオカマの店員たちも、サチコとサチヨがいる方向を振り向く。
「なにをしているんだ?あれは」
と客の一人が言うが、
担当のオカマは、「さぁ?」と首を傾げる。
「ほーらカメラもっとちゃんと近づいてぇ!」と言うサチヨ。
サチコは「ちょっとアンタ私も映らせてよ」 とサチヨの横を陣取る。
サチヨは、「ちょっと!自分ばっか映ろうとしてるじゃない!」とサチコを退かそうとする。
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揉め事がはじまるのを察した客は、
「いまいるみんなで撮ればいいんじゃない?」
とオカマたちに提案する。
互いに胸ぐらを掴む寸前だった二人はカメラを持つ客がいるほうへ振り向いた。
そしてサチコが営むオカマバーのコマーシャルには、
シャンパンを掛け合い、昼から皆で酒を飲みながら、部屋が酒の水滴で汚れるまで騒ぐ楽しそうな映像が採用された。
「あ~。光太郎も呼べばよかった」 と言うサチコにサチヨは、「アンタ光太郎好きねぇ~」と揶揄う。
サチコは「だってあの子可愛いじゃない?」
とニンマリしながら言葉を返した。その言葉に対して、サチヨは、「恋の形は自由よ」と答える。
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輝く店内。シャンデリア。
赤い高級な英国製のソファー。
酒と未知なるオカマたちとの交流を愉しむ客たちは
皆笑顔で、悪いニュースばかりの世の中でも、
少し明るくなれるような、そんな空間だった。
ここが喫茶キュアミラージュの
三階にあるオカマバー。
人と人が交流し、数多の笑顔が産まれる場所。
こんな小さな平和も。ヒーローたちによって守られている。
ヒーロー。それは誰かの幸せを祈り、誰かを守るために存在する概念である。
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三階のオカマバーがどんちゃん騒ぎを繰り広げている間、
光太郎たちの姿は、当然のように喫茶キュアミラージュにあった。
喫茶キュアミラージュの一階では、
履歴書を光太郎に出し、正式にバイトとして勤める事が決まった春華が、江藤に調理を習っていた。
光太郎は春華の手際の良さを見て、「春華は江藤より呑み込みが早いな」と感心する。
春華は、フライパンで具材を炒めながら、
「中学時代は料理クラブだったから、多少の調理なら出来るわ、でも、ほんの一般的なものだけ。本格的なパスタとかになってくるとちょっと自信無いわね…あわわわ!!」
とフライパンを持つ手のバランスを崩しそうになる。
「ネキ!」
注意力が散漫する春華の名を呼ぶハツネ。
春華は、なんとかバランス感覚を取り戻し、
「セーフ!」 と微笑む。
「ごめんなさい、もう少し鍛錬しなければならないのになかなか上達出来なくて。でも頑張って皆さんぐらいうまくなるように頑張るわ!」
と言いながら、パスタとソースを混ぜた。
「春華ちゃ~ん!出来てるよ~!」
客席から声援を送られた春華は、
「ありがとうございます!」
と客に背中を向けたまま返事をした。
おばあちゃんが営む定食屋のように店員と話せるのも、この喫茶の好評な部分。
その上、ハツネの頻繁なSNSの更新により、ヒーローが売りの喫茶として人気は上々。
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光太郎は、秘密保持もクソも無いと言い反対したが、喫茶の壁に今は亡きアヤメが撮影した戦闘中の写真などを貼り、あまり本物のヒーローの戦闘を見る機会が無い客たちから好評。
さらにテーマソングをハツネがAIで作曲し、それに合わせて光太郎、江藤と歌いBGMとして流す事で幼稚な洗脳戦略にも恐らく成功。
だが、時々客に音痴だと評されることもある。
光太郎も、客が増える事は喜ばしいと感じており、ハツネのSNSに関しては炎上さえしなければ自由で何も制限を設けていない。
踊れ。と言われたときには光太郎は反対もした。ハツネが強引に踊らせることもあるが…。
最初は光太郎が一人で経営していた喫茶キュアミラージュ。
段々賑やかになっていくキュアミラージュに喜びを感じる反面、やはり一人での経営というのは、どこか寂しさがあったりもしたのかもしれない。
「お待たせしました~!」
春華が完成したパスタを客のほうへ運ぶ。
客も嬉しそうに、「ありがとう春華ちゃん!」 と微笑んだ。
江藤は、「じゃあ、僕一旦休憩入ってもいいですか?」 と光太郎に尋ねる。
光太郎は、「おっと。江藤の休憩時間そろそろだな、行っていいぞ」と答えた。
ハツネが、「ほんなら入れ替わりで私がネキのサポートするで!」と腕をまくり気合いを入れる。
「ありがとうハツネちゃん」
春華も嬉しそうにハツネを見た。
光太郎は、「それじゃテメェら後はよろしく」とあくびをしながら戻っていく。
「はーい」「ラジャ」と声を合わせる二人。
巷では日本一ダサいと言われるオリジナル曲が永遠に再生される。
刹那の日常。これも大切な一つの宝である。




