二十六話『悪いやつには天罰が下るように世の中上手く回ってんだよ。悪いこと出来ねぇなぁ~~』
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「先に眠ってしまったら何にもならないわ」と呟き、行動を躊躇うブルー。
ハツネも、光太郎も戦闘不能で、切り札を探す。
そんなことをしている間に、ブルーにあくびの泡が襲う。
ブルーはそれを飛び跳ねて避けた。
宇宙の力を蓄えれば、宙を浮遊することだって、自在だ。水色の剣を構えるブルー。
ブルーの剣が夢属性の怪物の子供を貫く。そして親にまでその剣先は到達した。
同時に、レッドも「ダークフレイムゥゥゥゥゥゥゥ!」と叫びながら炎を纏った剣を振りかざす。
ダークフレイムも、互角にレッドに応戦するが、ダークフレイムのほうが、やや、劣勢。
ダークフレイムは、炎を纏った剣で、レッドに腹を切り裂かれる。「うあああああああ!」
ダークフレイムの痛々しい悲鳴が、大きな地鳴りのように轟く。
「殺す…殺す殺す殺す殺す…!」
明確な殺意を抱きながら、大量の血液が身体から零れる状態で、ダークフレイムはレッドに迫っていく。
レッドはダークフレイムの様子に、違和感を覚える。
制御が出来ていない様子。
自意識をコントロール出来ていない。
龍のようにブルーが舞う一方で、
ダークフレイムは夜叉のように怒る。
「お前なんか偽善だ!何にもならない、正義、愛、友情、努力、勝利!そんなものを掲げながら一番の身内を見捨てた自分を棚にあげる!そんな価値の無い人間に、生命なんて尊いものは必要ない!お前っは偽善者だ!何者にもなることができないただの肉塊だ!なんか言いやがれクソ野郎!テメェに存在する意味があるのか⁉たいして必要とされない、心の腐ったお前に!」
ダークフレイムは裂かれた傷口を抑えながら、思うままにレッドへの罵倒を並べる。
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レッドは「それって…」と何かに気づいたような事を言う。
「後半は自己紹介?」
レッドの煽りに、ダークフレイムは「ッ⁉」と目を見開く。
「自分が人に悪口を言う時って、大体自分のコンプレックスと重なる部分があるんだって」
レッドはそう言うと、炎を纏った剣をダークフレイムの片目に突き刺す。
「グアアアアアアアア!」
片目を潰された上、顔の半分が焼ける痛みで、行動が制限されるダークフレイム。「ぐうううううう!」
ダークフレイムはショックで叫ぶ。レッドはその様子を見下ろした。
レッドは、やりすぎたかもしれない。と考えつつ、屋根から飛び降りて地面に着地した。
ダークフレイムは、変身を解き、ソードとしての姿で無様に倒れる。
顔全体に炎が広がり、身体中が焼き払われていくソード。
その後、ソードは「おれ…だッて…愛され…」と言いかけながら、粒子となって消滅した。
ソードがいた場所には、ソードが構えていた暗い赤色の剣が残り、炎の中で静かに焼き払われる時を待っていた。
怪物を全個体撃破したブルーは、レッドと合流し、ハイタッチをする。
落とし穴も、炎も、すべて、すべてが元通りに復元されるが、ソードの命だけは、そうもいかなかった。
気を失っていたハツネは目を覚ますが、光太郎はぴくりと動きもしない。
ハツネはすぐさま光太郎に駆け寄り、「光太郎!光太郎!」と光太郎の名を何回も呼んだ。
レッドとブルーは変身を解く。
「おれが…」と言いかける大佐に、江藤と春華は振り向いた。ハツネも顔をあげる。
「俺が光太郎くんを助ける!」と光太郎の身体を支える大佐。
江藤は「任せましたよ!」と大佐に笑顔を向けた。
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場面は変わり、クロウサギのアジトにある指令室のモニターの画面には、喫茶キュアミラージュで光太郎の体調を調べる大佐らの姿が映し出される。
それを眺めるダークマスターは、不愉快な様子だった。
『ソードは正しいことを言ったまでだ。なぜあいつが敗れなければならない』
ダークマスターはそう言うと、ソードに見立てた小さな指人形を、指の腹で倒した。
残りはミドハラ、サルジマ、マツ。そして、あと一人。
マツは末端の上、新入りで、使い物にはならないだろう。
『ムクロを呼べ』ダークマスタはダーククイーンに命令する。
「なぜ末端を?寄りによって最年少。気でも狂ったか」とダーククイーンはダークマスターを馬鹿にする。
『ダークビリーブの称号を奴に与える』ダークマスターはダーククイーンに静かに伝えた。
ダークマスターはムクロに見立てた少女の指人形を、倒れたソードの指人形があった場所に配置する。
ダーククイーンは、「いい加減夢から醒めろ、ダークマスター」とダークマスターに吐き捨てた。
ダークマスターは『これは醒められるような浅い眠りじゃないんだよ。』と笑った。その声には、少しだけ自虐の意も込められているような、そんな波長だった。
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指令室の外、二階にある廊下にダークマスターは立った。
ダーククイーンも隣に並ぶ。
ロビーにはミドハラとサルジマを前に末端の人間まで整列する。悪の組織の集会だ。
『ソードが、死んだ。』
真っ先にダークマスターが口を開けば、ざわざわと闇の戦士たちが近くの戦士たちと言葉を交わす。
前に並ぶサルジマ、ミドハラもいつになく暗い表情をしていた。
『これは私たちクロウサギにとっても逆行の流れだ。我々の目的。レッドの首を斬る事。そのために私はまだ称号の無い末端の者から、たった一人を任命することに決めた』
ダークマスターが言うと、マツが「僕ですか⁉僕ですよね⁉」と、称号を貰えるのは自分であると勘違いしながら飛び跳ねた。
暗い話題のはずなのに不謹慎に喜ぶマツに、「黙れ!」とミドハラが怒号をあげる。
「はぃぃぃ!」マツは背筋を伸ばす。
ダークマスターは『ムクロ。称号を受け取るのはムクロだ』と語る。
マツや他の戦士たちが、「ぇ⁉」と振り返る。
まだ身長が百五十二センチほどしかない、十五にも満たない少女が選抜された。
ムクロと名付けられた白猫のような姿をした少女は俯く。集まる視線から逃げるように。
「ちょ、ちょっと⁉彼女はまだ最年少ですよ⁉ダークマスター様、僕を抜かしてこんな小娘に!」と年下の昇進に不満があるのか、マツが反論する。
「そうだそうだ!」マツの隣にいたハゲ坊主の戦士も、声をあげた。
『反対!反対!反対!』拳を突きあげながらコールをする戦士たちに、サルジマは「ダークマスター様の言うことを聞け!」と叫んだ。
「うるせーサル!」
とどこかからサルジマを非難する声が上がった。
「おい誰だ⁉俺に向かってサルとかいうやつは!無礼者!」
怒るサルジマを見て、「オコリザル」と四方八方からこだまするような小声と、笑い声が聞こえる。
見かねたダークマスターが、ドンッ。と悍ましい色の杖を床に打ち付けた。途端、静寂。
『意義のあるやつは直接指令室に来い』
ダークマスターは言葉だけ残して、指令室へと戻る。ダーククイーンも後に続いた。
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ミドハラは、辛い表情を浮かべる。
「ソード…」
サルジマの傍に自分がいる嫉妬からか、毎日のようにソードに命を狙われながらも、一番ソードの事を理解し、寄りそってきたのがミドハラだった。
ミドハラが落ち込むような姿を見たサルジマは、
「ミドハラ。辛いだろう、ゆっくり休んだらどうだ」と声をかける。
既に各々部屋へと帰っていく闇の戦士たち。
ミドハラは、「わりぃ、そうさせてもらうよ」と言った後、サルジマの隣を去った。
サルジマも、風呂の用意のためにロビーから離れていく。
本当にソードがいない。ソードはもう死んだ。
自分たちが命を懸けてまでやっていることが正しいのだろうか?
サルジマは風呂の用意しながら頭を悩ませた。
このままダークマスターに仕えるべきなのか?
サルジマがどれだけ思考を巡らせようと答えは出なかった。




