二十二話『ヒーローならヒーローらしくはっきり前向いて生きろって誰かが言ってた』
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「だりぃ…」ソードは相変わらず愚痴を吐きながら、如月市を歩く。
如月市を歩いていると、「きゃあ♡」と少女たちに手を振られる。
ガン無視しようとするが、少女たちがあまりにも期待のまなざしを向けるため、ふッと微笑んで手を振る。
「やったあ‼」嬉しそうに飛び跳ねる少女たち。
そんな少女たちを横目に、ソードは心の中で呟く。
まぁ、好かれるのも悪くないか、と。
だが横に仏頂面の若い女が一人。ハツネだ。
「アイドル気取りかこの一般人。芸能人になったのに三流でそれと言った特技も無く、常識もプロ意識の欠片も無いヘイトを溜めるのだけやたら一人前などこかの勘違い野郎みたいやわ」
ハツネの具体的な指摘に、ソードは「あの小娘か」と子犬のように威嚇する。
「小娘なんて酷いわ。キューティーヒロインハツネちゃんやで。んでもって喫茶キュアミラージュの看板娘!」
ハツネはぶりっこのようにピースをしながら名乗った。
ソードは「興味ねえ」と吐き捨てたいしたリアクションもせずに立ち去っていく。
「なんでや!ハツネちゃんやぞ!」
折れないハツネに、ソードは「だぁぁあぁぁ!!う
っせぇ!メスは嫌いなんだよ。男に生まれたら楽だった楽だったとか言って男が働いている間に外国行って美容整形して量産型の顔になり果てた挙句男と遊んでばかりでろくに知識も身につけない!量産型港区女が増えすぎてとりあえず涙袋でかくしておけばいいって思ってるようなテメェらに付き合ってる暇はねぇんだよ!」と偏見の塊を述べる。
「うっさいわ!アンタらオスだって頭ん中マ●コとお●ぱいのことばっかやろボケェ!足洗えよ、悪いこと辞めろよ、ほーらほーら。はよせぇへんとアンタら光太郎や江藤にボコボコにされるで」
細い目を向けソードに顔を近づけるハツネに、ソードは「うぜー。シャンプーの香りがプンプンする。近寄るな」と相手から離れる。
ハツネは、「光太郎に殺されても知らんからな!」と後ろを向きながらソードに手を振った後、「あんなんでも笑ったりするんや…」と呟く。
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ハツネは電柱を超え、二軒の家が並んでいる道路に進む。
片方の家の前では「お母さん!」とはしゃぐハツネと同い年ぐらいの赤髪の女の子が車のほうへ向かっていた。
母親も笑いながら「はいはい、猫のテーマパークはあなたを置いていかないから」と女の子のほうへついていく。父親も無言で後ろからやってくる。
よくある家族の情景に和んだハツネは、「~♪」と嬉そうに鼻歌を歌いながら歩いていく。
喫茶キュアミラージュの方向へハツネが歩いていると、「待ってヒロム!」と名前を呼びながら黒髪ロングの少し背の高い女の子が横切っていく。
「平和やな…」合流する女の子と、ヒロムと呼ばれた男の子を見て幸せな気分になるハツネ。
しばらく歩いた先でハツネはブティックのショーウィンドウを眺める。
「ええなぁ…」とうっとりするハツネ。
ハツネの後ろから江藤が、「ハツネちゃーん」と話しかける。「誰や⁉」と振り返るハツネ。
江藤は「買い出しに行ったと思ったら帰って来ないんだもん。光太郎さんが今一人で頑張ってるから一緒に行こ?」と手を差し出す。
ハツネは「江藤か。びっくりしたで…」と言った後、江藤の手を取り歩いていく。
「家族ってええよなァ」と語るハツネ。江藤も、複雑な表情を浮かべる。
「さっきな?幸せそうな家族に遭遇したんよ。まァ、 話しかけたりなんてせぇへんけど。私も家族が居ったらなよかったのにって。宇宙戦争が憎いで…クロウサギの幹部は使われてるだけやからあいつらを憎むつもりは無いんやけど…ダークマスターがほんまに気に入らんわ」
ハツネの言葉に、江藤は「僕らが家族じゃないか」と微笑む。「え」と希望を瞳に宿すハツネ。
「ダメかな?僕らが家族じゃ。ダメだよね。だって僕やれること少ないし、ヒーローとしても足引っ張ってばっかだし」
苦笑いを浮かべる江藤に、ハツネは「まァええで。メガネ掛け器として家に置いとくぐらいはしたるわ」と答える。
江藤は「僕って魂までメガネなの⁉」とツッコミを入れる。
ハツネは「ええやんええやん!魂までメガネ!江藤にお似合いや!」と笑いながら喫茶キュアミラージュへ走っていった。
江藤は「そんなのあんまりだよー!」と言いながらハツネの後に続いた。
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喫茶キュアミラージュへ帰ると、「遅い」と光太郎が怒っていた。
客の一人が「光太郎くんカラスミパスタちょーだい!」とキッチンに声をかける。
「はいはいカラスミカラスミ。俺人生で何回カラスミつくりゃいいんだ!」
光太郎の嘆きも空しく、
「トースト~!」「カルボナーラ!」と次々注文が入り、光太郎は「あああああ!」と混乱状態になる。
「やりますやります!」と慌てて入る江藤。
ハツネも、布巾を手に取り机を拭いたりと手伝う。
そんなことをしているうちに次々と飲食を終えた客が出てくる。
会計の列が出来ては、江藤がレジの対応をする。
「はい会計合計四百二十円!はい会計二百十六円!」
レジ打ちを終えた江藤は「はァ」と息を整えた。
客の一人に、「美味しかったよ」と言われては、
江藤は嬉しそうに「ありがとうございます!」と頭を下げる。
働いて昼間の時間が終わっては、すべての客が帰宅する。
「今日はこれ以上の客は見込め無いですかね」と江藤が言っては、「そうだな」と光太郎は答え、
扉にかけられた看板を『CLAUSE』に裏返した。
それとほぼ同じタイミングで、喫茶の近くから「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」と男の子の悲鳴が聞こえる。
江藤、ハツネ、光太郎は「⁉」と同時に驚く。
駆け付ける江藤、ハツネ、光太郎。三人が駆け付けると、すでに生身で小次郎が戦っていた。
ユニバースカードのインカムカードが、全員のポケットの中で振動する。
江藤たちは一斉にユニバースカードリーダーにインカムカードを差し込んだ。インカムを具現化させ耳に取りつける江藤、ハツネ、光太郎。
「ファウストルミナス!」
怪物に襲われそうになると同時に白い光に包まれ一瞬で変身を済ませるロイヤルホワイト。
ソードが扮するダークフレイムは、「ままためんどくさいのが出てきやがった」と舌打ちする。
ホワイトは、「めんどくさいやつじゃない!ロイヤルホワイトだ!」と言い返した。
インカム越しにマナが、『あなたたちも後に続いて変身して!無数の怪物の気配がする!』と焦りながら言う。
光太郎は、「はァ?無数?嘘つけよ」とため息を吐く。
三人が変身しようと中央に寄ったと同時に、四方八方から怪物が「グオオオオオオオ」と呻き声をあげて現れる。
火を噴く怪物。水を操る怪物。植物を操る怪物。もう多種多様でわけがわからない。
江藤が「な、なんですかこれぇぇぇ!」とあまりの怪物の多さに涙を浮かべる。
「泣くな少年!」と江藤に言うホワイト。江藤は「負けない…!」とユニバースカードリーダーに変身カードを差し込み、「バーニングフェニックス!」と叫ぶ。
赤い光に包まれ一瞬で変身するレッド。
「ユニバースランスロット!」「フレッシュピーチサンシャイン!」
黒い光、ピンクの光に包まれ二人も一瞬で戦士の姿へと変わる。
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「ダークマスターに比べたらダークフレイムさんなんてちっとも怖くない!」と言うレッドに、
ダークフレイムは、「っはは!生意気な口だな。やれ!ラビット・フレーバー共!」とまるでゲームでもするかのように指示を出す。
ラフな格好をした怪物、子供服を着た怪物、ワンピース、おばあちゃんのような服と多種多様な姿だ。被害者の大体の雰囲気がわかる生々しい仕様である。
植物を操る怪物が、ホワイトの身体を縛る。『ホワイト!』声を揃える三人。
ホワイトは、「心配無用!」と笑った後、
「ホワイトブレードハリケーン!」と叫び、空間から刃物をいくつも出現させ植物を斬る。
「強い!」と笑顔になるレッドに、ホワイトは「ヒーローですから」とドヤ顔を浮かべる。
続いて水を使う怪物が大量の水を街に放水し、地面をまるで海のように変えてしまう。
「足の踏み場が!」ピンクが叫ぶのも無理は無い。洪水同然の水の量に、戦士たちは流されていく。
ダークフレイムは一人だけ屋根の上に避難して無事だ。
追い打ちをかけるように炎を操る怪物が「グオオオ!」と呻き声をあげながら、光線を放ち辺り一帯を燃やしていく。
建物の瓦礫や濁流と共に流れていく戦士たち。
「苦しい…」と言うブラックに、「でもどうにかしなきゃ…!」とレッドは流されながら策を考える。
ピンクは、「フレッシュ・ラブ・リーチェーン!」と必殺技を叫び、チェーンで怪物たちの動きを止めこれ以上の侵攻を食い止める。
だが流される現状には一切変わりない四人。
建物にしがみつこうにも、建物が燃えていて不可能だ。ブラックは、「もうだめだ…」と意識を失う。
「ブラック!」と叫ぶホワイト。レッドは、燃え盛る建物に無理矢理しがみつく。
「うぐッ!」レッドの手と脚に炎が着火する。少しばかり痛みを覚えるレッド。
「レッド!何をしている!」ホワイトはレッドの奇行に驚きの声をあげる。
「僕は火の戦士…!多少の炎には耐性があります!」身体の一部が燃えながら言うレッドを見てホワイトは
「無茶を言うな!死ぬ…ぞ」と叫ぶが、あまりの激流に流され言葉を発せなくなってしまう。
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レッドは身体の熱さ、痛みを覚えながら燃える屋根伝いに、ラビット・フレーバーたちがいる方向へ向かう。
水を操る怪物が、レッドに向かって水の攻撃を放つ。びしょ濡れになるものの身体に付着していた炎が消火される。
大勢の怪物たちがピンクの必殺技で拘束されたまま動けずにいる。
「レッド。手と脚。せっかくのヒーロースーツが裂けてるぞ」とレッドの無様な姿を見て馬鹿にするように笑うダークフレイム。
レッドは「あなたの上司に感謝してます。あなたの上司が痛みを与え続けてくれたおかげで多少の痛みには耐えられるようになりました。でもね」と言うと、
レッドの声は怒りで普段の穏やかな声色から低い声色へと変化する。
「調子に乗るなよ外道が」
レッドの声にダークフレイムは背筋を震わせる。
「僕は僕をどう扱おうと知ったこっちゃないんですが…仲間を酷い目に遭わせたらただじゃ帰しませんよダークフレイムさん。僕はスーパーレッド。すべての悪意を許さない正義のヒーロー!」
レッドがそう言うと、胸から赤い光が出現する。
ダークフレイムはその胸の輝きに顔を避ける。
「やっちまえ!」と怪物たちに指示を出すダークフレイム。
レッドの胸から今までの剣とは違う輝きを放つ赤い剣が出現した。
「レッド・ブラッド・マディストリーム!」
レッドの剣から火炎放射が凄い勢いでマグマのように放出される。
レ ッドの火炎放射に水の怪物が対抗するが、消火が追い付かず周りの怪物たちに着火する。
意識を失い瓦礫に埋もれるほかの戦士たちをよそに、レッドは核兵器並みの威力がある炎を剣から放ち続ける。
次々と消滅していく怪物たち。最後の一体。水の怪物はなかなか倒せない。
燃え盛る炎の中で足場を失ったダークフレイムは「ッチ」と舌打ちして空中に浮遊する。
水の怪物がレッドに大量の水を吹きかける。
「うぐッ!」レッドは水の勢いの強さに圧倒され落下しそうになってしまうがなんとか持ち直す。
これでは全員が死んでしまう。無謀な戦いだ。
どうする。レッドは頭を悩ませる。
ブラックも、ピンクもダークマスターに囚われたとき、真っ先に助けに来てくれた。
今がその借りを返す時。出来るとしたら、一回だけ。
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レッドは息を整え、バカの一つ覚えで怪物に炎を放ち続ける。
ダークフレイムが、「ははははッ!もうあきらめて仲間もろともくたばっちまいなァ!」と高笑いをする。
怪物が水を放つ。レッドは、勝利を確信する。
水が蒸発する。大量の水が一気に蒸発する。高圧の水蒸気爆発が発生する。
爆風に飛ばされるレッド、ダークフレイム、怪物。最後の怪物が消滅したことで街が元通りになる。
変身を解く江藤。江藤は変身が解除された状態で倒れている光太郎、ハツネ、小次郎のもとへ駆け寄る。「みんな!」と声をかける江藤。
「…」と目が覚める三人。小次郎は「少年!無事でよかった」と江藤を抱きしめる。ハツネは「うわあああああん!」と大泣き。
「よかった…よかった…。」と繰り返し呟き、江藤は小次郎の腕の中で意識を失う。
「江藤⁉」と驚く三人の戦士。
怪物を産み出すエネルギーを利用された人々が各々目を覚まし、「何をしていたんだろう」と呟いて帰っていく。
光太郎に担がれて運ばれていく江藤。
心配そうにハツネや小次郎も後ろをついていく。そんな戦士たちを横目に、ダーククイーンが喫茶キュアミラージュを通りすぎる。
ダーククイーンの肩に乗った黒猫が、「あの男はいつになったら満足するんだ」と渋い声で喋る。
ダーククイーンは、「いつまでも気が済むまでやらせておけ」と答える。
黒猫は「ダークマスター…ね」と呟いて暗くなる途中の夕焼けを仰ぎながら、「にゃー」と鳴いた。




