二十一話『俺に何か言いたい事があるならテメェらでやれよ。』
▽
食事を済ませた小次郎は、「じゃあな光太郎。」とレジにお代を置いて帰っていく。
江藤が、「やっぱり、マナさんにあんな言い方って、無いと思うんですけど」と苦言を呈すと、光太郎は、「俺ァ真剣なんだよ」と答える。
「ヒーローが正義だなんだ言うならお前はまだ未熟だ」光太郎の少々キツイ指摘に江藤は「ヒーローって正義を提唱しちゃいけないんですか」と拳を震わせる。
「江藤は感情的になりすぎやねん。熱くなりすぎると視野が狭くなってまう。人間一番歯止めが効かなくなるのは、正義を味方にした時や。」
光太郎の指摘の補足説明をするハツネ。光太郎は、「そうゆうこと」と頷く。
江藤は「僕は誰かを守るためにヒーローになったんです。困っている人に手を差し伸べられるような人間になりたくて」と斜め下に視線を向けながら語った。
光太郎は「それで?まど●ギのさ●かはどうなった」
光太郎の問いに、江藤は「いやしりませんよ」と真顔で返す。
「どうなったの」とハツネに尋ねる江藤。
「ネタバレになってまうから言えへんけど、取り返しがつかないことになったんや」
ハツネの回答を引用し、「取り返しのつかないことになった」と答える江藤。
光太郎は「目的も定まらないまま他人軸で生きてもまったく意味がねえの。まず考えるべきは自分のことだ。なんのためにお前は誰かに手を差し伸べたいんだ。自分がすごい!って言ってもらいたいから。とかクソみてえな言葉並べんならゲンコツもんだぞ。ヒーローってのは見返りが一切ねえ慈善事業なんだよ。誰かに認知されなくても孤独に戦わなきゃなんねえんだ。江藤。テメェまだその覚悟ねぇだろ。」
江藤は光太郎の言葉に耳を傾ける。
「他人を守るってんなら、まずはテメェの信念固めろ。何があっても守り抜く。感謝されなくても守ってやるって覚悟を持て。ヒーローなんてメンタル強くなきゃやってけねえんだよ」
皿を洗いながら語る光太郎に、江藤は「鍛錬します!」と真っ直ぐな瞳で答えた。
江藤の真っ直ぐな瞳を見た光太郎は、ふッ…とどこか嬉しそうに微笑む。
「小次郎さんも来てくれたことだし、これで戦士も四人になりましたね」
光太郎は意味深に流し目を向ける。
江藤は布巾を手に取り、「あ、洗ったの拭きます」と光太郎の隣に立つ。
「光太郎さん。光太郎さんは、ロイヤルブラック。ですよね?なんで僕はスーパーレッドなんですか。僕もロイヤルが良いんですけど」
ロイヤルの称号をうらやましがる江藤に、光太郎は「知らね。気づいたらロイヤルになってた」と答える。
「最終戦前後の記憶が本当に曖昧でよ…。いつロイヤル化したかわかんねぇんだよ。スーパーブラックだった時代は確かにあるけどな」
語る光太郎に、江藤は「じゃあ僕も気づいたらなれますかね。ロイヤルに」ときらきらした目を少し上に向け思いを馳せる。
「勝手にロイヤル名乗ればロイヤルレッドなんじゃねぇの。よッ。ロイヤルレッド」
江藤を揶揄う光太郎。そんな光太郎に、江藤は「ロイヤル詐欺じゃねぇか!」とツッコミを入れる。
光太郎は「ロイヤルなんてやめとけやめとけ。徐々に身体なまってる気がしてなんねぇよ」と江藤が拭いた皿を片付けながら言った。
「なんで光太郎さんはヒーローになったんですか?光太郎さん、アンタ、ヒーローなんてガラじゃないでしょ」
江藤に問われては、光太郎は「いや本当はね?エロ本作家になりたかったんだけど」とまさかの発言をする。それにしらける江藤。
「ヒーローって金ねぇ代わりに衣食住全部世話してもらえるって言うからなったのよ。無賃じゃねえかって最初キレ散らかしたよ俺。でも抗議してるうちに目の前で赤ん坊が怪物に踏れ…ああ、やるしかねえんだって」
光太郎の言葉に、ハツネは鼻をほじりながら、「ふうん。意外と優しいんやなぁ光太郎も」と呟く。
光太郎は「意外は余計だ」と言い返す。「まァ東京のモンは冷たい思ってたから宇宙人的には意外やでほんま。」ハツネは読んでいた漫画を重ねながら言った。
「ハツネちゃん、何読んでるの」と問いかける江藤。
ハツネは「帰ってきた美尻三郎」と答える。
「なにそれ」と理解が追い付かない江藤に、「美尻って尻派のオッサンが尻の研究するために助手の玲子を連れまわしてセクハラかます話や」と説明する。
「子供が読むものではありません!」と言う江藤に、ハツネは「うっさいなァ!」と反抗する。
「急に大根芝居で家族ごっこはじめんのやめてくんなぁい」と横やりを入れる光太郎。
『おじいちゃんは黙ってて!』江藤とハツネが声を揃える。
光太郎は「まだ二十七歳だボケェ!」とツッコミを入れた。
▽
場面は代わり、クロウサギアジト。
実験室から制服が無くなっていることに気づいたダークマスターは、制服があった場所に冷たい視線を向けつつ、指令室へ戻る。
指令室のコルクボードに張り付けられている、宗教の信者のような服に身を包んだ黒髪の美少女の写真。その数は、無数。モニター画面の先には、学生服を着て男子生徒と幸せそうに話している同じ黒髪の美少女の記録映像。
顔全体を覆い隠す仮面を外しパソコン本体の横に置いたダークマスターは、マントのフードを被りながら死んだ目で映像を見つめる。
何度も、何度も、繰り返し動画を再生するダークマスターを見て、ダーククイーンが「未練か?」と楽しそうに話しかける。
『ないわけじゃない』とボイスチェンジャー越しに答えるダークマスター。
「本物はとっくの昔に」と言うダーククイーンに、『彼女の存在を否定するのは私の人生を否定することと同義だ』とダークマスターは言い返す。
ダーククイーンは、「肯定されるべき人生じゃなかっただろ。」と軽くツッコミを入れた。
ダークマスターは、『私を天下の嫌われ者にしてくれてありがとう』とダーククイーンを見ながら笑った。
「私からも礼を言うべきだ。まんまとこっちの策にハマってくれてありがとう。」
ダーククイーンの言葉を聞いて、チッと舌打ちをするダークマスター。
「私の策にハマらなければ、お前はいまこんなに苦しむ必要も無かったろうに。人間って面白いな」
あくまでもダークマスターの観察を楽しむ姿勢のダーククイーン。
二人のいる実験室に、「にゃー」と鳴き声をあげながら黒猫が入ってくる。「…」黒猫を睨みつけるダークマスター。
黒猫は瞳孔を開きながら、ダークマスターに「シャー!」と声を上げた。
ダーククイーンは、「ダメだろうダークマスター。猫を怖がらせちゃ」と黒猫を膝の上に乗せて頭を撫でる。
『そいつは猫じゃない』ダークマスターはそう言うと、悍ましい色の長い杖を、黒猫に向けた。
ダーククイーンは、「動物虐待」と妖しく笑った。
『とぼけるな。そいつは…』ダークマスターの言葉を、ダーククイーンが遮る。
「ただの猫だ。」
ダーククイーンの言葉を聞いても、ダークマスターの懸念は残る。
「私が拾ってきた。私が責任をもって面倒を見る」ダーククイーンの言葉に、ダークマスターは『私は動物が嫌いだ…』と溜息をつきながら答える。
ダーククイーンは「昔はそうでもなかったのにな」と笑ったあと、黒猫の背中を優しく撫でた。黒猫は嬉しそうに「にゃぁ~ん」と鳴いた。
▽
ダークマスターは仮面を被り、指令室からゆっくりと出る。
ダークマスターが指令室から出ると、「お疲れ様です!」とサルジマが頭を下げた。
ミドハラ、ソードは無視してそれぞれパソコンを開いたりワイングラスに入ったぶどう炭酸ジュースを飲んだりしている。
サルジマに頭を下げられた時、ダークマスターは「はッ」と何かに気づいた。
自分が今までどれだけ人に敬われていなかったか。どれだけ理不尽な苦労を背負わされて来たか。
どこか不快感を覚えたダークマスターはサルジマに何も声をかけずソードの前髪を引っ張った。
ソードが飲んでいたジュースのワイングラスがひっくり返り、無様に割れる。
ソードは『…ダークマスター様…』と名を呼びながらダークマスタを睨みつける。
『仕事だ。街を荒らせ。子供に容赦するな。出来る限り多くの怪物を生み出せ!ほかの仲間もろともレッドを私たちクロウサギの力で殺す!』
ダークマスターの命令にソードは「俺の自由時間を邪魔しやがって…」と苛立ちを覚えながらも、
「逆らったら暴力に走るんでしょ。いいですよ。行くしか選択肢はありませんから」と立ち上がり、「あー服が濡れちまった」なんて愚痴を吐きながら歩いていく。
▽
ソードがクロウサギのアジトから出ていったと同時に、サルジマが「ダークマスター様」と切なげな表情を浮かべる。
「なんであなたはそんなにいつもどこか辛そうなんですか」とダークマスターに問いかける。
ダークマスターは長い杖でサルジマの鳩尾を突いた。
『これ以上私に何か余計事を言ってみろ』
吹き飛ばされるサルジマに、ダークマスターは感情がこもっていない淡々とした口調で語りかける。
『私はお前たちを殺すことだって安易だ』
ダークマスターの発言を聞いていたミドハラは、キセルを蒸かしながら、
「つまり俺たちゃ捨て駒。いや、捨て駒以下の存在かもしれねぇのか。」と渋々頷く。
吹き飛ばされたサルジマは尻を摩りながら立ち上がる。「ダークマスター様…」やはり何か思うところがあるようだ。
だが、言葉にすることは無かった。
ダークマスターは、『XXX』と、誰かの名前を呟く。サルジマは、「え…」と困惑する。
ミドハラもピクリ。と何かに勘づいた。




